【詩】自由に書いた、12回だ

――― 1,  変わらないでいて、君へ ―――

君に嫌いな食べものがあるなら
僕も食べないでいるから
君の聴かない音楽なら
僕は聴くのを止めるから
変わらないでいて、変わらないでいて

君はカフェでくつろぐことが好きだから
僕もカフェに行こうと思う
君が本を読むことが苦手なら
僕はもう、好きな本を勧めたりしないよ
僕が君のために変わるから、変わらないでいて

君のために変われるから
君と不釣り合いな僕を許して
ありのままの君に恋をした
どうか素敵な君のままでいて

どうか変わらないでいて、君へ


――――― 2,  夢 ―――――

夢を見た
家族で戦地に行く夢だった
その日は私の生まれた日だった
赴く車の中でケーキに蝋燭を立てようとして
揺れに耐えられずパキッと折れた

途中、母親が降りた
張り付いた笑顔で「いってきます」
何かを隠した笑顔で「いってらっしゃい」
ドアが閉じる隙間に、名前も知らない白い花

折れた蝋燭をぼんやり見つめて
最後に抱擁ハグが、したかった


――――― 3,  彼方 ―――――

あれは高校生の頃
君が転んで作った傷
歩けないくらい痛いって
君と保健室に行った

あれは大学生になった頃
一緒に珈琲を淹れていたら
豆は初めに少し蒸らすと美味しくなるって
君は教えてくれた

あれはまだ友達だった頃
雨が降ってるって言った僕に
最初に気付く人は馬鹿なんだって
君のいじわるな笑顔

あの時の傷が治りかけてるって
いつか転んだことを忘れるのだろう

珈琲を淹れ始めた30秒間
どうして待っているのかを忘れるのだろう

雨が降る夜に
もう何もかも、忘れるのだろう


――――― 4,  啄木鳥 ―――――

昼過ぎ 怠惰
火映り ライター
いだ
地続き 飽きた
詩集に 哀話
地球に 撒いた
死中に 咲いた
荷造り 明日
身震い ナミダ
啄木鳥キツツキ 鳴いた

自由に 書いた


――――― 5,  謎 ―――――

知らないことが、あってもいい
例えばあの花
例えばあの木の実
「なんて名前だろう」
「知ってる?」「知らない」
「知ってる?」「知らない」
でもなんだか知りたくない
知らないままで「またあれだ!」

ふたりだけの謎

愛おしい謎

名前は知らないままでいい
例えばあれは、君との花
例えばあれは、君との木の実


――――― 6,  春一番 ―――――

ぴゅうと春の訪れを告げる
春一番
あたたかい
ここちよい
なんだか春一番って、うれしい

凍えるような冬の寒さが
どこかに吹いて飛んでいきそうな
新しい幸せを運んで来るような
そんな春一番

安政六(1859)年、旧暦二月十三日、長崎県五島沖に出漁した壱岐の郷ノ浦の漁師53人は、春先の強い突風にあって遭難、全員、水死してしまう。このとき以来、春の初めの強い南風を「春一(はるいち)」または「春一番」と呼ぶようになり、当地では今日でも二月十三日には出漁をみあわせ、「春一番供養」を行っている。

JapanKnowledge 季節のことば
【春一番】より


――――― 7,  死を想えメメント・モリ ―――――

すぐに両手を繋いでさ
みんな誰かに寄り添いたいの
右手にあなた、左手にあなた
そうでもしないと不安なの

今も両手は塞がって
だからもうひとつ 掴めはしないの
右手に左手、左手に右手
この輪をひとりで抜けたくないの

「死にたいなんて言うなよ」

「でも時々、考えるよ」

「残された家族が、友達が、恋人が悲しむよ」

「じゃあさ、家族も、友達も、恋人も、みんないなければ、君は僕が死んでもいいと言うのかい」

何もかもを捨て去れる
強烈な死の誘惑は
僕の両手を緩めるけれど
その前に空いたこの右手と左手
別の何かを掴んでみたい


――――― 8,  Virgo ―――――

どれくらい時間が経ったか
こうしてひとり、海を眺め始めてから
輝かしい初夏の陽射しが
程よく身に降ってくる
穏やかに吹く、爽やかな風が
鼻先にほのかな潮の香りを運んで来る

どこまでも広がる海の端
ぼうっと眺めていると
私は吸い込まれてしまいそうだ

もう3本目の煙草に火をつける
しかしこの美景を前にして
肺に入れる気は起きなかった

ふぅと真白な煙を吐く
目の前に広がったその奥で
海面に乱反射した光が幾つも見える

まるで星雲
小宇宙
銀河

どれくらい時間が経ったか
この小さい宇宙の中に
あの星座を探すため
私はまだ、ここに居よう


――――― 9, 積み木 ―――――

私は積み木を積んでいた
あなたと一緒に積んでいた
交互にゆっくり 確実に
ふたりで積み木を積んでいた

ある時私は魔が差して
積み木を積む気が失せちゃって
そっぽを向いた そのつま先で
最初の積み木を蹴飛ばした

崩れた積み木を見下ろして
私はどうでも良くなって
積み木を積む気も
つみにもせず

私たちはもう 積まなくて
そんな日々がもう つまらなくて

「こんなつもりじゃなかった」って
あなたの冷たい目に刺され
私は言葉を 詰まらせた


――――― 10, パラドクス ―――――

マリアが子供を授かった。
大天使ガブリエルがこう言った。
「あなたの身に宿った男児は神の御子、
イエスという名の、救世主メシアです」

それからイエスは奇跡を立て続けに起こし、
民は皆、イエスを信じ、神を信じた。

これは聖書に記されている、
最も有名な伝説だ。

しかしこの話には裏がある。

実はマリアに受胎告知を行ったのは
ガブリエルなどではなく、
天使に化けた悪魔サタンである。

「神」や「天使」などというものはおらず、
この世は悪魔のみが蔓延はびこ
地獄であった。

悪魔は機転を利かせ、
人間に「神」の存在を信じ込ませた。
すなわちイエスは悪魔の子なのだ。

それからの人間の愚かさといえば、
疫病が流行ろうが
飢饉が続こうが、
戦争で多くの命が失われようが、
「神よ、神よ」
「お救い下さい」
自らで何も出来ぬ者ばかり。

悪魔は今頃、地の底からこちらを眺め
腑抜けた我らを嘲笑っているのだろう。

(ある無神論者の手記より)


―――――11, ノスタルジック僕ら ―――――

まだ涼しい通学路
鳥の声を横耳に
僕は自転車をこいで行く

水泳の授業終わり、4限
教室を吹き抜ける風
みんなうとうとしている

昼休み
お弁当を持ち寄って輪になる僕ら
さっきまでの眠気はどこへやら

放課後の部活動
あいつはグラウンドに
あの子はチューバを吹きに
僕は体育館へ

笑い、泣き
いさかい、恋

当時は青春だなんて、考えもしなかった
ただ早く大人になりたかった
しかし、振り返ってみれば
あの頃がすごく愛おしい

あんなに鮮やかで爽快な
あれは確かな青春だった

宝石のような日々だった


――― 12,  変わらないでいて、貴方へ ―――

私に嫌いな食べものがあっても
貴方の食べたいものが聞きたかった
私の聴かない音楽でも
貴方が心地良く聴く横顔が好きだった
変わらないでいて、変わらないでいて

私はカフェが好きだけど
貴方の好きなところにも行きたかった
私は読書が苦手だけど
貴方の勧める本は、みんな読んだんだよ
私のために変わらないで、違うことは素敵なこと

変わっていく貴方に
私は寂しくなってしまった
ありのままの貴方に恋をしていた
どうか素敵な貴方のままでいて

どうか変わらないでいて、貴方へ

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