【独白】心の中
「こわいよ」
「こわくないよ」
「そうかな、でもやっぱりこわいよ」
「なにがこわいの」
「冬の曇り空がこわいよ」
「どこがこわいの」
「寂しい地面を押し潰しそうな重たい雲が、空がこわいよ。自分はちっぽけだって思うんだ」
「こわくないよ。だってみんなちっぽけだもの。独りじゃ何もできなくて、いなくなる時は一瞬で、それでも必死に生きてるの。みんなちっぽけだもの。みんな一緒なら、こわくないでしょう」
「そうか、みんな潰されそうなんだね。それなら冬の曇り空はもうこわくないよ」
「他になにがこわいの」
「死がこわいよ」
「どこがこわいの」
「みんな独りなら、きっと僕がいなくなっても誰も気にとめないよ。それなら僕はどうして生きてるのかな。いなくても良さそうなのに」
「こわくないよ。みんな独りだけど、1人じゃないよ。独りが集まって、お互いの孤独を悲しんで、慰め合うんだよ。だからこわくない。あなたには私がいるよ。私はあなたがいなくなることがこわい」
「君にもこわいことがあったんだね。それなら死はもうこわくないよ」
「他になにがこわいの」
「生きていることがこわいよ」
「どこがこわいの」
「君が先にいなくなるかもしれないよ。だから生きていることがこわい。僕は独りになりたくないよ。空に押し潰されたくもないよ。君が先にいなくなったら、僕は生きていることがこわくなるよ」
「そうだね。君と私、どっちかが先にいなくなったら、生きていることはこわいことだね。でも、だからここに来たんだよ」
「そうか、それなら僕たちにはもう、こわいことはないね」
「先にいなくなったり、しないよ」
(了)
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