記事一覧
市役所小説『お客さま、そんな部署はございません』【第1回】安易に夢が叶ってしまったのだが正直どうすればいいかわからない
注)これは少し前のこと。私が働いていた場所での出来事と雑感を「セミ・フィクション(ゆるやかな事実)」的にまとめたエッセイ。
毎週日曜日、21時頃に更新予定です!
ちょっと買い物に出かけようとしたら、ポストに郵便が届いていた。
先日受けた、某市役所の移築オープンに伴う増員職員の結果が来たのだ。
もうサンダルを履いたその場で、私は封筒の開け口をむしり取った。
「採 用」
よかった。
ひとまず安心
市役所小説『お客さま、そんな部署はございません』【第2回】「マージナル(境界人)」
注)これは少し前のこと。私が働いていた場所での出来事と雑感を「セミ・フィクション(ゆるやかな事実)」的にまとめたお仕事小説。
毎週日曜・夜9時頃に更新予定です!
「あの家の親父さんお役所だよな。出世してんのかな」
「友達の息子さん、市役所受かったって。いいわねえ、安定していて」
おそらく誰しも人生のどこかで、こういう言葉を家族や知り合いと交わしたことがあるだろう。しかし実際にその人が働いている
市役所小説『お客さま、そんな部署はございません』【第3回】ごあいさつ最適化計画
毎週日曜日・夜9時頃に更新予定です!
「いらっしゃいませ。どのようなご用事ですか」
「子供が生まれたんだけど」
「おめでとうございます、5番の戸籍窓口でございます」
「うふ・・・結婚します」
「おめでとうございます、5番の戸籍窓口でございます」
「離婚届って・・・」
「はい、5番の戸籍窓口でございます」
「子供を私の戸籍にするのはどこ?」
「入籍ですね。では、5番の戸籍窓口でございます」
市役所小説『お客さま、そんな部署はございません』【第4回】おじさんの襲来と満天の星空
これは数年前、わたしが市役所で「コンシェルジュ」をしていた頃のこと。
ゆるやかな事実(セミ・フィクション)にもとづいたお仕事小説です。
毎週日曜日21時に更新!
真新しい市役所の正面玄関。
証明書がひとつの窓口で済んでしまうワンストップ窓口の、そのまた手前。
広い玄関ホールの中州のようなカウンター。
ここが私の仕事場である。
流れの中にちょっとした障害物のように存在する私を、人混みが左右に分か
市役所小説『お客さま、そんな部署はございません』【第5回】気になる2人組
市役所にも「常連さん」つまり、よく来る人というのがいる。
かつて住んでいた市町村の役所で証明書を出しまくっていた頃は、常連さんといえば「業者」だった。相続を請け負う行政書士、車検のための仮ナンバーを取りに来る小さな中古車販売業の事務員、葬儀社の人。たまに弁護士や、捜査のために公用で証明書を請求しに来る刑事もいる。
コンシシェルジュのカウンターにも、そうした人はいる。
例えば、ほぼ毎日やってく
市役所小説『お客さま、そんな部署はございません』【第6回】誰かが見てる
これは少し前のこと。私が働いていた場所での出来事と雑感を、1話完結のショートストーリーとしてまとめた「セミ・フィクション(ゆるやかな事実)」的お仕事小説です。毎週日曜日、21時頃に更新予定!
「昨日、帰りにネコミズさん見かけましたよ」
朝、総務課のデスクで、私がいつもの「持ち場」に向かおうとしたところ、直属の上司である係長が飄々とした言い方で声をかけてきた。
「えっ、わたし何してました?」
市役所小説『お客さま、そんな部署はございません』【第7回】きみはいったい何と戦っているのだ
注)これは少し前のこと。私が働いていた場所での出来事と雑感を「セミ・フィクション(ゆるやかな事実)」的にまとめたお仕事小説。
毎週日曜日、21時頃に更新予定です!
静かなる失態
閉庁間際の市役所ロビーに、ゆらめきながら沈む夕日が見える。
壁に掛けられた館内案内図が、下の方からマンダリン色に染まってゆく。まるでオレンジソーダが、空間に注がれていくように。
夕日がちらちらと屈折して、コンシェル
市役所小説『お客さま、そんな部署はございません』【第8回】悪魔の証明
注)これは少し前のこと。私が働いていた場所での出来事と雑感を「セミ・フィクション(ゆるやかな事実)」的ににまとめた、お仕事小説です。
毎週日曜日、21時頃に更新予定!
無我夢中でやっていたら、いつのまにか外気が熱を帯びる季節になっていた。季節が一周し、私とエンヤマさんはついに2年目に入った。
謎のお仕事として、手探り状態で始まったコンシェルジュ業務だが、どこからどこまでが自分たちのすべきことか