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エッセイ(思い出から)

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#思い出

雨の日に

雨の日に

記憶をたどってみると雨の日の光景は断片的にいくつか思い出せる。

一番古いのは小学生。
田んぼ道を、傘をさしながら帰る。
赤ちゃんがえるがあちこちでぴょんぴょん跳ねている。
ピンク色の長靴を履いたわたし。
小さなかえるを踏まないよう、つま先立ちで歩く。
あまりにもたくさんいるからヒヤヒヤして、息を止めて歩いた帰り道。
アスファルトで跳ねるチビガエルと雨水の光景。

それから中学生の頃。
片想いして

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父とねこ

父とねこ

古い記憶。
それはまだわたしがおそらく5、6歳のころの。

父と幼いわたしは散歩に出かけた。

花が咲いていた。
わたしはそれを時々摘んでは歩いた。
季節は春だったのか、秋だったのか。
それとも夏の夕方なのか、寒くなかったことだけはなんとなく覚えている。

にゃー。

道よりも低いところから鳴き声が聞こえた。
父と声のする方へ近づいていくと、深い側溝の中にねこがいた。
フタはされていなくて、どうや

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金木犀の香りにこじつけた恋の話

金木犀の香りにこじつけた恋の話

今年も金木犀の香りがどこからともなく漂うようになった。
もうこの季節がきたのか、早いなあ。

この香りで思い出される中学生の頃のエピソードは一年前のこちらのnoteに書きました。↓

https://note.com/hondaaam/n/nd19d41021c1b

わたしにはもう一つ金木犀にまつわる恋の思い出がある。
無理矢理に思い出にしたと言ってもいい。
今日はそのお話を。

彼に出会ったの

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バレンタイン、「まっすぐ」が人の気持ちを動かす瞬間を見た

バレンタイン、「まっすぐ」が人の気持ちを動かす瞬間を見た

「あなたは誰の絵が好き?私はモネが好き。」

そう言われて私の頭の中は?で埋め尽くされた。
なになに誰の絵?曲じゃなくて?もねって何??

小学校三年生の時、クラスに転校生がやってきた。
彼女の名前はナナちゃん。
真っ白い肌に焦げ茶色の髪をポニーテールにしている。
フランスからの帰国子女だった。

それはそれは驚いた。
彼女は誰に対しても臆することなく「まっすぐ」に自分の意見を言った。

思っても

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キンモクセイの香りと共に思い出す風景

キンモクセイの香りと共に思い出す風景

秋が一番好きだ。
特に金木犀の香りがあちらこちらから漂ってくる今の時期。
金木犀そのものを確認できなくても香りは街中に充満しているのではないか思うほど。
風に乗ってふわりと濃い香りに包まれると、その昔から知っている季節感にしばらくうっとりとしてしまう。
こうやってポチポチと文字を打っている今も、窓からかすかに甘い香りがする。秋は良い。



キンモクセイ 君の香りと 間違えた

この季節の訪れと

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先輩にムシされた日の話。

先輩にムシされた日の話。

怖い先輩がいた。

私は中学二年生だった。その先輩とは部活も違ったし、特に接点はなかった。

ただ学校の決まりで「登下校中、先輩に会ったら必ずあいさつしましょう」となっていた。だから偶然会う事があればあいさつした。

その頃、世の中では同世代の子達があちこちで事件や問題行動を起こし、「キレる中学生」なんてテレビで騒がれていた。

そんな報道を眺めて、ますますこの先輩に対する恐怖感が増していった。そ

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「ばかばかしい事」にこそ輝きがある。

「ばかばかしい事」にこそ輝きがある。

ある日の夕方、夫婦で散歩に出かけた。本当は子供達と行こうと思ったが「じーじとこで待っとる!」と断られてしまった。

芝生の広場があり、小高い丘のある公園。丘に登ると街並みを見下ろせる。

気持ちの良い風が吹く。一番高い所では若い男女が楽しそうに話をしている。

「いいなぁ、私も若い頃に戻ってここでデートしたいなぁ。」

何気なくそんな事を言ってみる。

「いや、やっぱりもう若い頃に戻りたいとは思わ

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母と行ったスナックの思い出

あれは高校三年生の初夏の夜だった。

「お父さんには内緒やで。」といつもの文句で、母は私を連れ出してくれた。私はこの「お父さんに内緒」が好きだった。単純にとてもわくわくした。

内緒と言われているにも関わらず、私は大抵帰宅後の父に報告していた。「今日お母さんに内緒って言われたんやけどな…」と。母も、私がほぼ毎回父に報告する事を知っていたが、それでも毎回「内緒な。」と言ってくれた。母も私と同じように

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