宍戸晴礼

ミステリ、SF、ファンタジー小説が好きで、仕事のすきま時間に書いています。本は沢山読ん…

宍戸晴礼

ミステリ、SF、ファンタジー小説が好きで、仕事のすきま時間に書いています。本は沢山読んでいるので、書くのも大丈夫だろうと高を括っていたのですが、なかなか苦戦中です。書いたからには、誰かに読んで欲しくて、投稿を始めます。他には車、アニメ、落語が好きです。

記事一覧

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【12】

【12】朝菜  あさひるコンビは、十九時七分にフェニックスコープのセキュリティドアを通過した。  ネックストラップで社員証を付けていれば、自分に許可された区域の自…

宍戸晴礼
1日前
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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【11】

【11】エディス  尾行中の、ひとりの警備兵が戻ってきた。  ケントは報告を聞くと、その警備兵に素早く指示を与え、王城へ走らせる。もうひとりは、逃走したアリエスを今…

宍戸晴礼
1日前
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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【10】

【10】朝菜  二十時三十分、夜のオフィス。  人は少ないが、無人ではない時間帯。完全に独りで残っていれば逆に疑われるが、これくらいであれば大丈夫だろう。  比留間…

宍戸晴礼
1日前
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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【9】

【9】エディス  アリエスは、一睡もしなかった。  窓の鎧戸の隙間から漏れる光で、朝が来たことが分かった。その部屋には寝台があったが、横にはならず、椅子に座ったま…

宍戸晴礼
3日前
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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【8】

【8】朝菜  朝菜はメロンソーダを、比留間はアイスコーヒーを注文した。  二人は会社の最寄り駅のビルにある、ファミリーレストランに立ち寄っていた。まだ夕方の早い時…

宍戸晴礼
3日前

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【7】

【7】エディス  カダン商会で、アリエスは身柄を拘束された。  警備兵に周りを囲まれて、身柄を鈴蘭亭へ移される。宿の主人と会わせ、首実検するためだ。カダン商会には…

宍戸晴礼
3日前
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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【6】

【6】朝菜  比留間のノートパソコンの画面の中で、小さい生き物が眠っていた。  コンピュータ・グラフィックで描かれたアニメーションだ。目を閉じて、丸まっている。時…

宍戸晴礼
5日前
6

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【5】

【5】エディス  日が沈み、月が夜を連れてきた。  雲の無い空には、星が瞬いている。いつもならば夜空を飾る星の光は人々の目を引き付けるが、今日ばかりは地上の光のほ…

宍戸晴礼
5日前
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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【4】

【4】朝菜  朝菜は朝から、思い悩んでいた。  今日はフェニックスコープのオフィスに出社している。まだ朝早いので、休憩室は朝菜以外誰もいない。紅茶のペットボトルを…

宍戸晴礼
5日前
4

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【3】

【3】エディス  エディスは、ぼんやりと目を覚ました。  自室の寝台の上だ。窓の鎧戸から外の光が漏れて、部屋の中は薄暗い。鳥の鳴き声や城で働く者の話し声で、朝だ…

宍戸晴礼
8日前

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【2】

【2】朝菜  首無しの死体が、まぶたの裏側にちらついていた。  石畳に流れた血の色が、妙にリアルだと感じる。  まだ目覚めてないんだ、と思った。  大きめの電子音…

宍戸晴礼
8日前

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【1】

【1】エディス  犯罪にはもってこいの夜ではないか。  月には雲が掛かり薄暗い。頼りになるのは点々と置いてある燃え残った篝火の光だけだ。時おり遠くから聞こえる下品…

宍戸晴礼
8日前
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【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(5・完結)

 並んだ、ビタまんの二人が、のろのろと動き始める。杉元酒造の事務所スペースへ一歩進んだ。香澄が、どうしたものかとエディスの方を伺う。 「そこから、どう動きました…

宍戸晴礼
3週間前
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【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(4)

 警察と言われ、胸騒ぎがした。仕方なく、そっとドアを開ける。ただし、チェーンは付けたままなので、開いたのは十五センチほどだ。短髪でスーツ姿の男が見えた。 「牧原…

宍戸晴礼
3週間前
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【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(3)

「泥棒にしては、珍しいな。女ふたりとは」  男が姿を現した。黒縁の眼鏡。衛生のためか白い帽子、白いマスクを付けている。声からすると四、五十歳だろうか。木製のスコ…

宍戸晴礼
3週間前
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【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(2)

 二日後の日曜日、ビタまんの二人はN県S市の中でも比較的大きな駅で電車を降りた。二つの路線が交わるターミナル駅だ。もう、午後一時をまわっている。  前田から依頼…

宍戸晴礼
3週間前
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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【12】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【12】

【12】朝菜
 あさひるコンビは、十九時七分にフェニックスコープのセキュリティドアを通過した。

 ネックストラップで社員証を付けていれば、自分に許可された区域の自動ドアは開く。ふたりは、アクセス権が一番低い自分のオフィスには、出入り自由となっている。

 ドアが開くと背の高い、たくましい体格の男と鉢合わせになった。付属高校の制服だ。
「おっ」
「あれ、比留間。戻って来たのか」
「うん、忘れ物を取

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【11】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【11】

【11】エディス
 尾行中の、ひとりの警備兵が戻ってきた。
 ケントは報告を聞くと、その警備兵に素早く指示を与え、王城へ走らせる。もうひとりは、逃走したアリエスを今も尾行している。

 アリエスは行き交う人が多い通りを選んで歩きまわり、最終的には黒猫通りの一画にある建物に入ったと報告された。

 黒猫通りとは、多くの露天商が店を出す、にぎやかな通りだ。食料品、生活必需品もあれば、盗品も平気で店先に

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【10】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【10】

【10】朝菜
 二十時三十分、夜のオフィス。
 人は少ないが、無人ではない時間帯。完全に独りで残っていれば逆に疑われるが、これくらいであれば大丈夫だろう。

 比留間が、机の上に置いて帰ったノートパソコンをさりげなく持って、空いている会議室にすべり込む。パソコンを起動すると、比留間のIDとパスワードでログインする。

 これくらいは、すぐに調べられた。社内サーバ内で比留間に割り当てられたフォルダを

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【9】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【9】

【9】エディス
 アリエスは、一睡もしなかった。
 窓の鎧戸の隙間から漏れる光で、朝が来たことが分かった。その部屋には寝台があったが、横にはならず、椅子に座ったまま夜を過ごした。警備兵が置いていった、蝋燭の火が尽きようとした頃、朝日が射したのだ。

 先程、兵が一人入ってきて、食料が載った盆を下げていった。その時に、開けた扉の向こうに知った顔が見えた。ジョイスだ。おそらく、自分の身元を調べるために

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【8】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【8】

【8】朝菜
 朝菜はメロンソーダを、比留間はアイスコーヒーを注文した。
 二人は会社の最寄り駅のビルにある、ファミリーレストランに立ち寄っていた。まだ夕方の早い時間なのに、意外と席は埋まっている。

 午前中の会議を終え、午後の授業をこなした放課後、比留間が朝菜を誘ったのだ。疲れてるから早く帰ればいいのに、と言いながら朝菜はOKした。

「お疲れさまでした」
 まだ、アルコールは飲めないが、乾杯の

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【7】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【7】

【7】エディス
 カダン商会で、アリエスは身柄を拘束された。
 警備兵に周りを囲まれて、身柄を鈴蘭亭へ移される。宿の主人と会わせ、首実検するためだ。カダン商会には、ケントの提案で隠れて見張りを立て、ジェイ・イライアスが姿を現すのを待つことになった。

 エディスがアリエスと対峙していたときに、飛び込んできたのは副隊長ケントだった。カダン商会の発見を知らせるようエディスに命じられた警備兵は、ケントと

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【6】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【6】

【6】朝菜
 比留間のノートパソコンの画面の中で、小さい生き物が眠っていた。
 コンピュータ・グラフィックで描かれたアニメーションだ。目を閉じて、丸まっている。時々、呼吸をしているように、背中がふくらむのがリアルだ。困惑した様子で、朝菜が尋ねた。

「何これ、たぬき?」
「犬ですよ。まだ、子犬です。かわいいでしょ」
 比留間は自慢げに答えた。

 フェニックスコープの会議室で、朝菜と比留間は三日ぶ

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【5】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【5】

【5】エディス
 日が沈み、月が夜を連れてきた。
 雲の無い空には、星が瞬いている。いつもならば夜空を飾る星の光は人々の目を引き付けるが、今日ばかりは地上の光のほうが勝っていた。

 城下町中が、篝火の光で明るく照らされ、昼間のようだ。アストリアム王国の警備兵が、町の通りという通りを埋め尽くすように、篝火を配置していた。暗闇をこの世から追い払おうとするかのようだ。突然の警備兵の行動に、町人達は恐怖

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【4】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【4】

【4】朝菜
 朝菜は朝から、思い悩んでいた。
 今日はフェニックスコープのオフィスに出社している。まだ朝早いので、休憩室は朝菜以外誰もいない。紅茶のペットボトルを手に、ソファーに座っているが、キャップは閉まったままだ。制服のフレアスカートは明るいグレーで、普段はかわいいと思っているが、今に限っては曇り空の色に見えていた。

「どうしようか」
 解決はしないが口にしてみる。悩みがちな性格であることは

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【3】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【3】

【3】エディス
 エディスは、ぼんやりと目を覚ました。
 自室の寝台の上だ。窓の鎧戸から外の光が漏れて、部屋の中は薄暗い。鳥の鳴き声や城で働く者の話し声で、朝だとわかる。まだ頭が覚め切らなくて、寝返りをうって枕に顔をうずめた。

 一晩中、強盗殺人犯を追って城下町を探索していたのだが、結果は出なかった。あきらめて王城の自室に辿り着いたのは、そろそろ夜も明けようとしている頃だった。

 疲れから倒

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【2】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【2】

【2】朝菜
 首無しの死体が、まぶたの裏側にちらついていた。
 石畳に流れた血の色が、妙にリアルだと感じる。
 まだ目覚めてないんだ、と思った。

 大きめの電子音が、狭いワンルームの部屋に響く。窓ガラスは半透明で、部屋の中は薄暗い。ベッドの上にお餅のような掛布団の山がある。

 その中から白い手が伸びて、サイドテーブルに置いたスマートフォンをつかんだ。そのまま、手は掛布団の中へ戻ってゆく。アラー

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<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【1】

<創作大賞>夢幻想のふたり~剣姫あるいはIT女子~【1】

【1】エディス
 犯罪にはもってこいの夜ではないか。
 月には雲が掛かり薄暗い。頼りになるのは点々と置いてある燃え残った篝火の光だけだ。時おり遠くから聞こえる下品な笑い声以外は、人の気配は感じられない。深夜の城下町は、冷えびえとしていた。

 騎士姿のふたりが、馬に乗り町中をゆっくりと移動していた。石畳に打ちつける蹄の音が、石造りの建屋に虚ろに響く。

 ふたりは軽装の鎧に長靴を履き、頭には何も付

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【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(5・完結)

【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(5・完結)

 並んだ、ビタまんの二人が、のろのろと動き始める。杉元酒造の事務所スペースへ一歩進んだ。香澄が、どうしたものかとエディスの方を伺う。
「そこから、どう動きましたか」
「明かりが見えたので、ドアを開けて、さらに奥へ入りました」
「不法侵入ですよ。どちらが、入ろうと言いましたか」
 美和が小さく手を挙げた。エディスは再現するよう促した。

「誰かいそうだから、入ろう」
 美和は蚊の鳴くような声で言った

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【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(4)

【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(4)

 警察と言われ、胸騒ぎがした。仕方なく、そっとドアを開ける。ただし、チェーンは付けたままなので、開いたのは十五センチほどだ。短髪でスーツ姿の男が見えた。
「牧原香澄さんですね。N県警の者です」
「ドッキリ企画の続きじゃないですよね」
 男は無言で警察手帳を提示した。本物の刑事のようだ。
「お話を聞きたいので、ご同行いただけますか」
 刑事の言葉は、丁寧だが有無を言わせぬ力を感じさせた。

「あの、

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【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(3)

【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(3)

「泥棒にしては、珍しいな。女ふたりとは」
 男が姿を現した。黒縁の眼鏡。衛生のためか白い帽子、白いマスクを付けている。声からすると四、五十歳だろうか。木製のスコップを手にしている。ブンジと呼ばれる、蒸したコメをかき混ぜる硬い木の道具だ。

「ここには金目の物なんてないぞ。痛い目にあう前に、出てい行け」
 ブンジを突き付けられて、ビタまんは慌てた。
「いやいや。違うんです」
「ごめんなさい。誤解です

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【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(2)

【創作大賞2024応募作品 ミステリー小説部門】神の罠はサケられない(2)

 二日後の日曜日、ビタまんの二人はN県S市の中でも比較的大きな駅で電車を降りた。二つの路線が交わるターミナル駅だ。もう、午後一時をまわっている。
 前田から依頼を受けた翌日午後、香澄のアパートで作戦会議を開いた。まずは人が多くいる駅まで行って聞き込みをする、というのが立てた作戦だ。知らない土地で探し物をするなど元から無謀だから、やってみるしかないというのが結論だった。

 もちろん、ネットやSNS

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