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2021

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#詩のようなもの

一期一会

一期一会

穏やかな海に影を落とす月。

枯れ野に風が吹いて手元の灯を揺らす。

ふっと雪の香りがした気がして北の空を見上げると

風花がひとひら開いた本の上に舞い降りた。

あの日の雨もこんなふうに時を止めてくれたね。

言の葉の宇宙でこの星に集った私たちの一期一会。

そしてまた、それぞれの旅が続く。

ありがとう。

ひとつひとつの出会いは奇跡の連続。

噛み締めて。

感謝して。

そしてまた一歩ずつ

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星の種ー8月の星々ー

星の種ー8月の星々ー

昔、北の森には、毎年夏の終わりに、たくさんの星が降った。

人々は星を集めて豊かな黒土の畑に蒔いた。

その種はたちまち芽吹き 

すくすくと育ち鮮やかな花を咲かせると

たくさんの小さな実をつけた。

すすきを揺らす風がそよと吹く頃 

その実は風に乗って勢いよく空に舞い上がり

そのまま輝く星になった。

蝉時雨ー7月の星々ー

蝉時雨ー7月の星々ー

お社の大樹が参道に濃い影を作る。

短い命を燃やす蝉時雨が

容赦なく鼓膜をつんざく。

からん、からんと鳴る錆びた鐘の音。

ぱん、ぱんと響く乾いた柏手。

まるで映画のように蝉の声が一瞬鎮まり、

深い海の底のような蒼い静寂が支配する。

深く一礼をして祈りを解いたその人は

ひとつ深呼吸をして歩き出した。

麦わらの相棒たち

麦わらの相棒たち

酷暑続きの夏の日々。

炎天の昼間を避けて、朝と夕に畑に出る。

この時期、仕事は生育管理。

適期を迎えた夏野菜、その成長を手助ける。

朝は収穫・草むしり、夕の仕事は水やり・除虫。

同じルーティンの繰り返しでも畑の様子は刻々変化。

野菜の機嫌を伺いながら、虫や草とも言葉を交わす。

いい仕事にはいい準備。どんなことでも基本は同じ。

今日やるべきことをイメージし、道具を整え畑に向かう。

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雨男・晴女 −六月の星々−

雨男・晴女 −六月の星々−

大事な日になると絶対雨を降らせる男と絶対晴れる女が恋に落ちた。

誰もが長続きしないだろうと噂した。

でも意外にも、彼らはいつまでも仲睦まじく生涯を添い遂げた。

雨男の最期の日、

晴れ渡った空に登っていく彼の雲を見送りながら

晴女は穏やかな涙を流した。

二人の間には今日も虹がかかっていた。