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アルバムレビューVol.8 / 神はトランペット奏者にモードの先のセカイを見せたのか、 マイルス•デイヴィス 『Kind of Blue』

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ジャズの起源

南北戦争時代、軍楽隊が捨てていった楽器を演奏しはじめたところからだそうでして、、

その後、
まだ記憶にあたらしいカトリーナの被害を受けたニューオーリンズを基点とした「ニューオーリンズジャズ」が人気を博します。

ビッグバンド形式の、身体を動かしたりするような、そんな雰囲気の音楽ですね

その後、「スイング」、たとえば「ビバップ」というように移り変わっていくわけです。


流行の変遷は後からたどると、こんな風に区切ることができます。でもその当時はいろんなことが並行して発生していて、誰もがその流れに巻き込まれていたのでしょう。

この後にくるのは「モダン」という形式で、その一つが「モード」というやつですね。

「モード」

これを文字通り説明するといまいち、よくわからないです。即興をコード進行ではなくモード(音階、旋法)を中心に組み立てるもの。

歴史的には、1954年に教育機関においての人種隔離政策が終焉し、公民権運動が盛り上がっていくような時期。

この時期にこのモード奏法が生まれたことは、なんという歴史の符合か!と思いますね。。

つまりどちらも(公民権運動もモード奏法も)広義には黒人・黒人文化の白人・白人文化からの解放という面があるからなのです。

モードとは、和音=コードの束縛から離れていくことでありまして、西洋音楽・クラシック音楽はこのコード・和音に基づいているわけです。

モード=非西洋=西洋からの解放

非西洋→東洋、中近東、アフリカ、南米への接近

東洋の神秘、インド仏教、神秘主義。。目に見えないものに価値を見出す世界。(西洋科学とは違う視点という意味合い)

このマイルス・デイヴィスの「Kind of Blue」は、モード奏法の最初期のアルバムです。

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参加メンバーにも、この後、この西洋からの解放が見られるのは面白い一致です。

マイルスはロックと接近しますし、ジョン・コルトレーンはインドや東洋の神秘性にひかれていった、そしてビル・エヴァンスはこのアルバムの制作過程を中国や日本、つまり東洋の水墨画に照らし合わせてライナーノーツを書いています。

同じ時期に、ビートルズのメンバーがインド詣でをしていました。この時期は西洋社会にとっては、そういう外へとエネルギーが向かう時期だったのかもしれません。

非西洋化の果てに

この非西洋化が進み、自己解放を目指した結果、ジャズもスタイルを変えていって、ロックとのコラボレーションからフュージョンが生まれ、精神世界を追求するスピリチュアルジャズも生まれ、デジタルともコラボしてミクスチャー領域にまで拡散されていきました。

となるともはや、ジャンルとしてのジャズは成り立たないですよね。多様性を突き詰めていった結果として、ジャンル自体が意味をなさなくなった。ジャズが持っていた精神性も語る余地がなくなっていった。 

マイルスはこのミライを見通していたのでしょうか?先陣を切って、ヒップホップとコラボしたり、ブラックに回帰していきます。

しかし、

🔷ニューオーリンズジャズ、ビッグバンド

🔷スイングジャズ、ビバップ

🔷モード、非西洋化

🔷拡散、、フュージョンなど

という図式に対して、古きジャズの精神性の復権を目論んでいるのがマイルスと入れ替わるように現れたウィントン・マルサリスというトランペット奏者。

彼は昔さながらのビッグバンドを率いて演奏会を行っております。ニューオーリンズジャズへの回帰。。

彼の音楽も大好きなので、いずれ書きます。

俯瞰してみると、「Kind of Blue」は、大きなジャズの転換期にあたる時期のエポックメイキングなアルバムだったことがわかります。

アルバムについて

A面
So What
Freddie Freeloader
Blue In Green
B面
All Blues
Flamenco Sketches

このアルバムの参加メンバーは
マイルス・デイヴィス - トランペット
ジョン・コルトレーン - テナー・サックス
キャノンボール・アダレイ - アルト・サックス
ビル・エヴァンス - ピアノ
ウィントン・ケリー - ピアノ(2曲目のみ参加)
ポール・チェンバース - ベース
ジミー・コブ - ドラム

2曲目のFreddie Freeloaderのみ、一般的に認知されているジャズを思わせるような軽めのブルーズチューンのような趣です。

それ以外はすべて、熱量の伴うジャズではなくて、スタイリッシュで、静かで、静謐というか、まさにタイトル通りの「Blue」に染まった世界を彷彿とさせる音色です。

そして根底には解放からの自由な雰囲気があり、自由とはつまり、決まり事からの解放でもあり、演奏も即興的意味合いが強くなり、まさに一期一会となり。ビル•エヴァンスは前述の通りこの事を、筆を下ろしたら書き直しができない、まさに一期一会の絵画である水墨画に例えました。

このジャズは深夜、しずかにグラスを傾けながら、薄暗い空間で聞いているような、、そんなイメージ。

ジョン・コルトレーンも、ビル・エヴァンスも、この後、この世界を深く、物質的にも、精神的にも追求していくのも前述の通り。

ジャズの流れ、ベクトルだけではなく、精神性まで変えていくことになる「モード」。

変遷を辿る旅は、多様性を生み、選択肢も広がり、人生自体の質を深める作用があることは、間違いありません。

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