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90年代の音楽シーンを辿る旅 (HM/HR視点から)/ 歴史との符合なのか、歴史が彼らを求めたのか、、怒りを象徴するNirvana の登場

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喪失から始まった90年代

90年代もまた偉大なアーチストの喪失から始まりました。この喪失をそのジャンルの大きな変革と捉えると、世の中の歴史もまた、これに歩調を合わせるかのように大きな変革のうねりがはじまっていきました。

日本では、手塚治虫、石原裕次郎、美空ひばり、松田優作が。

クラシックの世界では、カラヤン、バーンスタイン

ジャズではマイルス・デイヴィス

そしてロック界隈ではスティーヴィー・レイ・ヴォーン、フレディ・マーキュリーが90年代へ移り変わる時代とともに世を去りました。

では、その背景にあった歴史、史実はどういうものでしたでしょうか。

世界的な出来事が同時多発に起きる年代

世界史を俯瞰してみると、ある年号(またはその周辺の時期)がものすごく意味を持つことがあります。

たとえば1600年ごろ

東西で覇権の変革がありました。西洋では、スペインの無敵艦隊が英国艦隊に敗れ、世界の帝王の座は英国に移ります。(これで英国が産業革命を果たし、株式会社も誕生、資本主義社会が形成されていく流れができます。)

この時無敵艦隊にいたのが後に「ドン・キホーテ」を書くことになるセルバンテスという人物です。この本の中での有名な、あの風車への突撃は、滅びゆくスペインを風刺しています。

そして東洋、日本では関ヶ原の合戦が起きたのが1600年。豊臣の覇権が徳川に移っていくことになりました。

1700年代後半もそうですね。フランスで革命、アメリカで独立戦争が起きました。片方は王政からの共和制への移行を促進。

この約100年後の帝政ロシアの崩壊あたりで王政はほぼなくなります。

アメリカの独立は、プロテスタントの国ができたこと、ネイティブアメリカンの迫害、黒人奴隷貿易の目的地となったなどいろいろな側面がありました。

そして、世が90年代に差し掛かろうとしていた1989年もまさにそうでした。
日本では昭和64年(ロクヨン)の1月7日に昭和天皇が崩御。30年続いた平成の世に移ります。

ドイツではベルリンの壁が崩壊し、東西統一が成し遂げられました。その流れで冷戦崩壊が現実のものになります。

この壁の崩壊が民族浄化を促して、連邦国家だったソ連が各国の独立により崩壊、社会主義への歴史からの審判がくだされました。

冷戦崩壊や、南アフリカのアパルトヘイト停止からのネルソンマンデラの解放など、90年代は幸福に彩られるのかと思いきや、、、

極端な自由化は、無理やり国境を引かれてその中に押し込まれていた民族のアイデンティティを揺り起こし、各地で独立のための戦いが起こります。

ユーゴスラビアは、セルビア、クロアチアなどに分裂、チェコスロバキアはチェコとスロバキアに、、ソ連はロシアとその他各国に分裂していきます。
(余談ですが、ユーゴ内戦のあおりを食ったのはサッカーのユーゴスラヴィア代表。当時世界最強だったストイコビッチ率いるこのユーゴ代表は、1992年の欧州選手権への参加を停止されました。その代わりに出場したデンマークがこの大会で優勝するという、なんともドラマチックで伝説的な結果になるわけですが。)

この辺りの変革の風を歌いあげたのが、スコーピオンズの「Wind of Change」でした。


そして1991年1月17日に湾岸戦争が発生。
アメリカ主導の戦い故、アメリカ国内では、ジョンレノンのイマジンなどの演奏が禁止されます。(911のテロの時も同様でした)。

音楽のムードの変調。楽→怒へ

そしてそのムードの中。。
80年代のバブリーな商業主義の下で、ひそやかに進んでいた、格差社会のあおりをうけた社会の底辺にいた若者たちが、その怒りを音楽にのせてぶつけ始めます。

この時、90年代初頭の20代は、80年代がリアルタイムで、70年代は手が届く過去。80年代のきらびやかな商業主義への反発からか、古典的かつ反体制的だった70年代の原型をモチーフにした音楽を奏でていくようになります。

歴史は繰り返すといいますが、振り子のようなもので、ある一方に振りきれると、また同じ方向に戻っていきます。ある一方の出来事をたたき台にして、さらにブラッシュアップしていきます。

(たとえば、ガラケーの絵文字からのLINEスタンプ。日本人がLINEを好きな理由はガラケーの絵文字がベースにあると思います。これをDNAのように螺旋式に発展していくのだとする人もいますね。)

90年代初頭、多くの若者は70年代の原型を愛し、70年代のマインドの復興を試みます。マリリン・マンソンは90年代風レッドツェッペリンでしたし。

そんな彼らのマインドに、最もマッチしてしまったのが、70年代から、ヘヴィメタルのヘヴィな部分をつかさどっていた、黒い安息日ブラックサバスでした。


70年代英国は不況のどん底で、鉄鋼業の街も下火。彼らはその場所で、退廃的な歌詞を書き、それを暗く、どんよりしたムードの曲に乗せて歌っていました。

(天才的なひらめきのギターリフと、ぐおんぐおんと揺さぶるベースと、オジーののっぺりとしたボーカルと、素晴らしい曲があったがために、このバンドは歴史に残ることになりましたが。)

このブラックサバスを愛する若者たちの音楽は、必然的に希望の無い歌詞であったり、無闇に沈み込んだ、どんよりとした音だったり、よくわからん絶叫だったりしたわけです。

これがアメリカのシアトルあたりの地下社会、アンダーグラウンドシーンにて、蠢き始めます。

この動きも本来の住処(すみか)である地下だけでのものだったらよかったんですが、やはり何度か繰り返される流行のとおり、歴史は繰り返し、このアンダーグラウンドの熱量も解き放たれる時が来てしまいます。

ニルヴァーナ

それが93年。あのバンドが、なんとメインストリームに躍り出てしまいます。ずっと地下にいてくれてよかったんですが、、個人的好みから言えば。。この大きな動きは全米はおろか、全世界を覆いつくしていってしまいます。

そう、カート・コバーンのいたニルヴァーナの登場です(結成は87年)。そして彼らを中心とした、こういった音楽を奏でる面々のジャンルが「グランジ」と呼ばれるようになります。

彼らは「Smells like a teen spirit」という楽曲がもたらした伝説的な誤解から瞬く間に時の人に。

(teen spiritっていう安い洗剤か香水か何かがあったらしく、カート青年は、とある女性に「あんたteen spiritくさいわよ」と言われたようです。別にそれで傷ついたわけでもなく、それが面白くてタイトルにしたらしいですね。たぶん多くの日本人は10代の精神をうたったと勘違いしているかもしれません。そんな歌が世の中を変えてしまうわけです。)


メタリカ

そしてあのバンドもついに音楽をヘヴィな方向に向け始めます。
メタリカですね。スピードを突き詰めた彼らは、重く重く、ベースやドラムの音を重視するバンドに変容します。『メタリカ(通称ブラックアルバム)』は91年に発表されます。まだメタル魂を忘れていない頃なので、良いアルバムではありますが。


90年代の文化もどこか陰鬱なものに

そしてどうなったか

明るいポップな曲はダサくなってしまいました。きらびやかでカラフルなファッションも時代遅れになってしまいました。

音楽もアンプラグドが人気となり、装飾を取り外し、よりアーチストの生の声や、アーチスト自身の精神性に沿った展開が広がります。

人間心理を解き明かすようなジャンルが流行りだしたのもこのころ。
「FBI心理捜査官」とか、「佐粧妙子最後の事件」という日本のドラマとか、「羊たちの沈黙」とか、、、暗い映画もおおかったですね。「デッドマンウォーキング」とか人間の内面に迫った映画も多かったです。ケヴィン・コスナーの映画が次第に売れなくなったのもこのころからですね。


このメタリカの変容と、ブラックサバスの遺伝子を受け継いだ若者たちの出現が音楽シーンはおろか、文化にも影響を与え、、90年代後半には、最終的に彼らがいた場所であるジャンルとしてのヘヴィメタルの息の根をとめるに至ります。

90年代のHM/HRの動き

メタルの世界の動きですが、、

まず、ポップで明るいバンドがこぞって暗く重苦しい音楽に変わっていきました。そしてあろうことか、メタルゴッド:ジューダス・プリーストもあおりをうけて変容してしまいます。同じタイミングで、各バンドからのボーカリストの脱退も相次ぎます。これでいったんHM/HRはThe End。


ジューダスプリースト
91年に最高傑作を発表するも、92年に超絶シャウトのボーカリスト、ロブ・ハルフォードが脱退。彼が脱退して取り組んだ音楽がグランジに近かった。。。脱退してまで、こんな音楽をやりたかったのかと、、。

ジューダスプリーストは96年に新しい歌えるボーカリストをいれて再始動しますが、ニューアルバムがこれまた重くどんよりとした音で、過去のあの目の覚めるようなツインギターのメロディは望むべくもなく。

アイアンメイデン。
92年に名作『Fear of the Dark』を発表しますが、94年にボーカルのブルース・ディッキンソンが脱退。代わりのボーカリストをいれて再起をはかるも、音楽性は変わっていないが、まったくメイデンの世界を歌えないダメなボーカリストだったため、迷走状態に。

モトリークルー。
これも個性的なボーカリスト、ヴィンス・ニールをなぜか切ってしまい、グランジっぽい曲を歌えるボーカリストをいれました。もともと曲つくりのうまいバンドゆえ、このボーカルを入れたアルバムは名作と呼べます。その分、アイアンメイデンよりマシでしたが、、、このボーカルは過去の名曲を歌えなかった。モトリークルーも失速。

↓この曲などアルバムは良かった。


ディオ
ジョジョの好敵手の名前になったことで存在感があるボーカリスト。ザ・様式美なメタルだったのに、この方も、暗く重い音楽性に変わってしまい、ファンは涙したものです。

オジーオズボーン
なぜかこの時期、引退を表明。。。(のちに撤回)


90年代以降、HM/HRの世界からは、世界に名だたる新人バンドはほぼ出ていません。たまに有望株が出たとしても、ある地域のみだったり、もはやどのジャンルにも選別できないようなクロスオーバーした曲調だったり。

2000年代以降

ここから先の2000年代は、音楽も細分化して、細分化しすぎてジャンル分け自体が意味をなさず、単にROCK/POPというくくりになりました。

さすがにエリッククラプトンとアイアンメイデンを同じ棚にしたくない店舗では、まだHM/HRという文字がありますが。(Rock/Pop, hiphop, jazz, classic, J-pop, K-pop, World Musicとかですかね)

細分化しすぎると、それ以上細分化できなくなり、抽象度を上げるしかなくなります。

メタル視点から見ると暗くなってしまうんですが、音楽全般から見ると、それほど悪いことばかりではなく、

カトリーナの被害からニューオーリンズのブルーズが見直されたり

キューバのカストロの自国文化に対する態度の軟化によってキューバ―のアーチストが世に出たり(「ブエナビスタソシアルクラブ」)、

メタル的な音楽も北欧やドイツ・日本で復興の動きもありますし、大御所の復帰再結成も相次いでいます。

またさまざまなタイプのアーチストも出現、クロスオーバーが進み、ジャンルにこだわる必要性が無くなってきています。


1983年、CERNの研究室で始まったインターネットが、過去も未来も、地域も混在にしてスマホから音楽を随時聞ける状態にしてくれていることは、幸せなことですね。

音楽を聴くスタイルは、変われど歴史は変わらないわけで、あの音はすぐそこにあります。

というわけで、今日もまた、音を楽しもうとステレオに向かうのでした。

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