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おやこの目、剣客としての目ー独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖ー感想②

こちらは笹目いく子さんの「独り剣客 山辺久弥 おやこ手習い帖」
の感想の続きです。⬇️


時代小説が苦手なわたしでも優しい味わいを持って読めました。
おすすめいたします😊✨✨

前回の感想⬇️


以下続きです。



この作品には大きい二つの主軸がある。


一つは主人公である三味線のお師匠である久弥が
酷い折檻によって過ごしてきたとある少年を拾い、
三味線を教えることで血のつながらない2人が
ほんとうの「おやこ」となってゆく物語。


そしてもう一つは主人公は実は大名の庶子で、剣客であること。
血生臭いお家騒動に立ち向かわねばならなくなった運命である。


全く異なる二つの軸を、線を絡み合わせ奏でるようにたくみに物語をリードし、
緩急をつけ読者の目を離さない筆力には並々ならぬ凄いものがある。

設定がとかく多い中で、よくここまで見事にまとめあげたと思った。

ラストにゆくに従って、物語が二転三転四転と転んでゆくのは
物語作りにおいての定石であるが、そこも美しいスピードで一気に畳み掛けている。

剣客に三味線という小道具も、目新しいように感じた。

「越後獅子」というと美空ひばりしか思い浮かばない無知さだったが、
どのような音律なのかとYouTubeで聴いてみると、たしかに血湧き起こる
躍動感がありつつも、深みを感じさせる、本作にピッタリの調べだな、と思った。

また、当時の描写においても、「随分調べ上げたんだろうなあ。。。」と思うくらい詳細に描いている。
アタマの悪いわたしには時代言葉が理解できずお恥ずかしい限りなのだが、
時代劇好きなら、作者がどれほどの含蓄を物語に自然と落とし込めているか、
察することができるかもしれない。


個人的に好きなシーンは浅草で主人公の久弥と青馬が三味線を選ぶところである。

このシーンは何気なく書かれているようで、
相当調べ上げなければ、出てこない「台詞」や音、久弥の聞き定め、
商人とのかねあいが出てくる。
このシーンは本当にリアルで上手いと思った。

また久弥が青馬を本物の三味線弾きとして育て上げたいという気概も感じられてウキウキする場面だ。


そして、久弥がかなりの剣の遣い手で、相手を容赦なく切ってゆくところも
彼の持つもう一つの影の顔、というところで面白い。


「静まった心のまま気勢を充実させた。
斬るか斬られるかしかないのだから、恐怖することは無意味でしかない」

「独り剣客 山辺久弥 おやこ手習い帖」笹目いく子著 より



という彼の湖の如く静謐な心持ちや、瞬時の剣闘の間合いは、
笹目さんご自身が日頃お子様の剣道の道場に通われて
多くの立ち会いを見てきた故の、確信的な言葉やリズムかと思う。

奢り高ぶらず、自分の運命を受け入れ、常にどれが「正道」かを見極めて相手を思いやる久弥は、かっこいい。
真面目で朴念仁なキャラクターはドンピシャでわたしの好きな異性タイプで、
「久弥様、素敵だなあ。。。」
と安心して読んだ。


そしてなんといっても、
久弥をただただ純真な心で慕う青馬がとても愛らしい。

折り鶴や三味線や、何かと大人にものをあげたがるところや、
ぶかぶかの半纏を着ているところ、目を見開いてそっと久弥をみる眼差し。。。。
深い傷を負った久弥を心配して、一人で彷徨い城へ向かうところ。。。
誰もが魅了される青馬の可愛らしさやいじらしさがいっぱいに描かれている。

そしてもう1人、わたしが好きな脇キャラクターは久弥の義理の兄、宗靖である。

久弥の天敵の一人でもある設定だ。
言動や物言いから、どんなチャラいボンクラ殿様かと思っていたら、
意表をついた、民のことを考え研究を怠らぬ、非常にできる男だった、
という意外性がとってもいい。

個人的に1番好きな脇キャラクターである。
毒舌を吐きながらも久弥の面倒をあれこれとみるところも面白い。

このように、構成やキャラクター、歴史的な背景においてもどれほどの精錬に精錬を重ねて作られていることか。。。。

一つ一つの言葉を吟味し、丁寧に精査しながら構成してゆく途方のない作業を完成させた、言葉を刺繍のように縫い続け、時に破れ解けたこともあったろう、幾度もほつろいを直したこともあったろう、
それでも最後まで作品を完成させた底力と気概に心より伏したい。


以上がわたしが面白かったと思ったところである。

以下は読んでいて、なんとなく引っかかりを感じたところを書く。


厳しい言い方もあるかもしれないが、
反発がある方はここでストップしてください🙏



まず大きな引っかかりが、メインキャラの久弥、青馬、そして久弥を思う真澄が

みんな同じ空気感で綺麗すぎる、という感覚だ。

なんの落ち度もない、真面目で、いい人で、清廉で、
美しく強い心を持った3人。

久弥は剣客というダークな面を持っているが、それは「設定」にすぎない。

メインキャラがみんな白い心の持ち主ゆえ、キャラへの好感は持てるのだが、
それ以上の「面白み」「旨み」が今ひとつ足りなかったのは残念なところだと感じた。

ゆえに、宗靖のようなキャラクターは一際光る。

だが、個人的にはメインキャラの誰かをもっと尖らせてもよかったのでは。。。と思った。

例えば、真澄は久弥の都合のいいように動くように思えたし、
芸者としてちょっとグレているところや負い目のある過去などもあったらよかったと思った。
青馬は、あそこまで酷い過去を背負っていても、グレてないんだな、
大人に対して怒らないんだな。。。。。
大人をまだ信じたい年頃だからだろうか。。。
といい子ぶりにびっくりしたし、

久弥もずっと独り身なのに、子供の扱いうまいな。。。。
お師匠だからかな、
けど昔のお師匠って子供相手でもバチ飛ばすほど厳しいって聞いたような。。。
性格的に優しい人格者なんだな。。。。。
などとぼんやり不思議に思った。

せっかくの真澄の美しい存在感が薄く、青馬の面倒をみるいい人で終わっているところや

久弥が最後まで真澄に対して言葉で
「わたしと一緒になって欲しい」
というけして伝えることが出来なかったことを発しなかったこと、

(ずっと独り身を通した久弥の本作の成長といえば、真澄と繋がることかと思うのだが、言葉を発しなかったことで、わかりにくかった)

青馬が意外にすんなりと久弥に懐いたところなど。。。

物語や構成、たくさんの設定をリードするあまり、
メインキャラクターの深掘りや「人間臭さ」「不器用さ」が
少々足りないところが残念に思えた。

人間の成長や、華やかさ、泥臭さ、人間の持つあらゆる面や、滑稽さを描くことが一つの課題になるのかもしれない。

嗚呼、この辺りでファンからフルボッコで殴られそうだ。

ただ、笹目さんは藤沢周平を好んでいると、以前記事で拝読した。
素朴で純朴な人柄を好む方なのかな、とも思うので、
これはあくまでわたし個人が勝手に感じたところである。


以上がわたしがはて❓と思ったところだった。

コメント欄が荒れないことを望む🙏マジで。



久弥が一番最初に見た傷だらけの青馬は、
過去の自分自身だったかもしれないし、
塵芥だらけの中、青馬からみた久弥は、「同魂」だと
瞬時に本能で感じたのかもしれない。


ふたりがみつめあう目は、その時から同じ方向を向いていたように思う。


さて、笹目さんの次回作はあやかしものが好きな放蕩主人と女中の奇譚らしい。

面白そうだ。
これはキャラクターが立つ設定になるのではないか、
ウッドハウスの和版バーティとジーヴスみたいな感じだろうか、
と勝手にワクワクしている。


一人の作家の新しい扉が開く。

笹目さんの筆道はどの未来の道を目指しているのだろう。


是非いつか伺ってみたい。


わたし如きが想い馳せるのもおこがましいかもしれないけれど、
巧みな構成力と筆力、取材力から、今後もっと拡大した世界に入ってゆける作家だと思う。


是非、ご自身が最もゆきたい筆道を、周囲に惑わされずに、


本望を。


本当に自分が書きたいものや書きたいところを選びとって、
チャレンジし続けていってほしいと、切に願う。


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