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童話『そらになった雨つぶ』
雲の上はいつも晴れた空が広がっています。地面にいくら雨が降っていても、空は雲より高い所にあるのですから。昼間はどこまでも青く、夜はたくさんの星が輝きます。
黒い雲は小さな雫の集まりです。その雫が、ぽつり、ぽとぽと雲から落ちて、雨になるのです。雨粒は透き通っていますが、地上に降ると色がつきます。どんな色にもなれるのです。それが雨粒たちの楽しみでした。
雲の中で空を見上げている雨粒がいます。
「
童話『アリ、そしてキリギリス』後編
虫の音楽コンテストには多くの歌自慢の虫達が集まっていました。キリギリスだけでなく、コオロギ、鈴虫、ウマオイ、松虫。どの虫もコンテストに向けて練習してきたのでしょう。歌も演奏も、みんな上手です。でも、とキリギリスは思いました。アリは自分が一番だと言ってくれた。自信をもとう。ここで弱気になってはいけない。
「次、野原から来たキリギリスさん」
いよいよ自分の番です。キリギリスは自分の歌を、目を閉じて
童話『アリ、そしてキリギリス』前編
「仲間がみんな一生懸命働いているのに、君はいいのかい?」
「いいのいいの。それよりもう一曲聴かせてよ」
太陽の下であちこち歩き回って食べ物を巣に持ち帰る仲間を横目で見ながら、一匹のアリが大きな葉っぱが作る涼し気な陰で、友達のキリギリスの歌と演奏を聴いています。
「そうかい? じゃあ、この歌を聴いておくれよ」
キリギリスの奏でるバイオリンと澄んだ声が、風に乗って流れます。
「なんていい歌なんだろ
S.S.『風は知っている』
晴れ渡った空の下、私は石畳の坂を上っている。前にこの道を歩いてから、二十数年の時が流れている。
丘の上まで来て、大きく息をついた。ここは私の一番好きな場所だった。見晴らしが良く、空の広さも感じられる。遠くに見える街。流れていく雲。時間とともに色を変えていく空。見ていて飽きなかった。
若い頃はよくここへ来たものだ。つらいことや上手くいかない時は、いつもここへ来ると慰められた。風に包まれていると
童話『クスノキの鐘』後編
雨に打たれ、風に葉を揺らしても、クスノキの幹はどっしりとして動かず、枝ではたくさんの鳥達がひっそりと身を寄せ合っていました。静まり返った鳥達の頭の上で雷が鳴っています。
「クスノキのおじいさん、強いね。こんなにすごい嵐なのに、ビクともしないや」とカラスの子が母親に言いました。
「そうね」と母ガラスは子ガラスを羽で包み込みました。
丘の上に白い光が瞬き、少し置いて雷がとどろきました。今までで一番
昨日上げたS.Sは訂正したいので下書きに戻しました。スキつけて下さった方、読んで下さった方、申し訳ありません。
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童話『星の子の冒険』 後編
簡単な前編のあらすじ
空から野原に降りてきた星の子。夜露のようにきらきら輝く星の子は、花や虫達と友達になりますが、その様子をカラスがじっと見ていました。
カラスは光るものが大好きです。巣の中にガラスや金属でできた光るものをいっぱい集めています。星の子はそのどれよりもピカピカしていて、欲しくてたまらないのです。
カラスが急降下しようとした時、笛の音が流れてきました。カラスは慌ててブレーキをかけ
童話『星の子の冒険』 前編
春の終わり頃のことです。東の空から昇ってきた月の明かりが野原に降り注ぎ、草花の葉っぱが宝石のように輝きました。まるで野原が星空になったようです。もちろん本物の宝石ではなく夜露が光っているのですが、草花は大喜び。
「ほら、大きな指輪みたい」とタンポポがギザギザの葉についた夜露を嬉しそうに見ています。
「私はティアラを載せたみたい」とカラスノエンドウが小さなピンク色の花についた夜露を落とさないように
S.S.『アウトテイク』
「Take1」
a.m.1:30.
時折車が追い抜いていく以外、人気のなくなった通り。歩道を歩く自分の足音が闇に吸い込まれるように消えていく。
背後からスピードを出した車が迫り、追い越しざまにライトが歩道にうずくまっていた黒猫を照らした。瞳が青と黄色に光り、猫はオレの目の前を横切って車道に飛び出し、そのまま渡り切って闇の中に消えた。
あの黒猫も孤独な身か……というより前を横切られた……。不吉な予感