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S.S.『アウトテイク』

「Take1」
a.m.1:30.
時折車が追い抜いていく以外、人気のなくなった通り。歩道を歩く自分の足音が闇に吸い込まれるように消えていく。
背後からスピードを出した車が迫り、追い越しざまにライトが歩道にうずくまっていた黒猫を照らした。瞳が青と黄色に光り、猫はオレの目の前を横切って車道に飛び出し、そのまま渡り切って闇の中に消えた。
あの黒猫も孤独な身か……というより前を横切られた……。不吉な予感。よくないことが起きる前兆。ふとそんな思いが頭をよぎる。
迷信だ。後戻りはしない。
コンビニに入る。他に客がいないことを確認し、まっすぐレジカウンターに進むやポケットに手を伸ばし、
「金を出……」
店員と目が合う。
「……す、のはオレです。商品を選んでからです、もちろん」
ナイフ、忘れた。
一瞬唖然とした店員だったが、オレの動きを厳しい目つきで追っている。
安いおやつを買い、店を出た。冷や汗が背中を伝った。

♪ 強盗しようと店まで 出かけたが ナイフを忘れて……

愉快じゃねーよ。

「Take2」
a.m.1:30.
時折車が追い抜いていく以外、人気のなくなった通り。歩道を歩く自分の足音が闇に吸い込まれるように消えていく。
背後から近づいてきた車のライトが、車道を渡っていた婆さんを照らした。婆さんは落ち着いた様子で、運転手に向かって会釈した。口元に浮かべた笑みの奥から、金歯の輝きが見える。婆さんは加速して俊敏に渡り切り、何事もなかったように歩道を歩き出した。
あれが年の功か……。オレも年を取って、あんなに冷静沈着なじじいになれるだろうか。ふとそんな、将来に対する一抹の不安が頭をよぎる。
先の話だ。そこまで生きてるか分からない。
コンビニに入る。まっすぐ目当てのおやつを手にし、レジカウンターに進むとポケットに手を伸ばし……。
「金を……」
顏から火が出た。
「持ってませんでした。商品は棚に戻しておきます」
サイフ、忘れた。
店員の視線を背中に感じながら、ドアに向かう。恥ずかしくて、もうこの店には来られないと思いながら、オレは外へ出た。

♪ 買い物しようと店まで 出かけたが サイフを忘れて……

愉快なものか。


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