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童話&ショートショート作品集

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公募に投稿した作品以外の童話やショート・ショートを集めました。公募の童話は小学生以下を対象として書いていますが、ここの作品はどちらかといえば大人の方向けに、ちょっとブラックなもの… もっと読む
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記事一覧

童話『クスノキの鐘』後編 

 雨に打たれ、風に葉を揺らしても、クスノキの幹はどっしりとして動かず、枝ではたくさんの鳥達がひっそりと身を寄せ合っていました。静まり返った鳥達の頭の上で雷が鳴っています。 「クスノキのおじいさん、強いね。こんなにすごい嵐なのに、ビクともしないや」とカラスの子が母親に言いました。 「そうね」と母ガラスは子ガラスを羽で包み込みました。  丘の上に白い光が瞬き、少し置いて雷がとどろきました。今までで一番大きな音に地面が揺れ、その揺れはクスノキの幹から枝を伝い、鐘を揺らしました。錆び

童話『クスノキの鐘』前編

「そろそろ巣立ちかね?」  梅雨もそろそろ終わりに近づき、空は何日かぶりに晴れ渡っています。丘の上のクスノキは、カラスのお母さんに声をかけました。数年前からカラスの夫婦はクスノキの枝を借りて巣を作り、子育てをしているのです。春に少し葉を落とすものの一年中緑の葉を茂らせる上に、丘の上のクスノキは幹も太く、四方に長い枝を伸ばしているので敵から見つかりにくく、巣を作るには最高の場所でした。 「そうですね。もういつでもって私は思ってるんですけど」  カラスのお母さんは、あちらこちらの

童話『星の子の冒険』 後編

簡単な前編のあらすじ 空から野原に降りてきた星の子。夜露のようにきらきら輝く星の子は、花や虫達と友達になりますが、その様子をカラスがじっと見ていました。  カラスは光るものが大好きです。巣の中にガラスや金属でできた光るものをいっぱい集めています。星の子はそのどれよりもピカピカしていて、欲しくてたまらないのです。  カラスが急降下しようとした時、笛の音が流れてきました。カラスは慌ててブレーキをかけ、羽をばたつかせて高く昇り、地面の虫達は草の陰に隠れ、鳥達は飛び立ちました。人間

童話『星の子の冒険』 前編

 春の終わり頃のことです。東の空から昇ってきた月の明かりが野原に降り注ぎ、草花の葉っぱが宝石のように輝きました。まるで野原が星空になったようです。もちろん本物の宝石ではなく夜露が光っているのですが、草花は大喜び。 「ほら、大きな指輪みたい」とタンポポがギザギザの葉についた夜露を嬉しそうに見ています。 「私はティアラを載せたみたい」とカラスノエンドウが小さなピンク色の花についた夜露を落とさないように気をつけながら言いました。  花が咲かない草も、花が終わって葉っぱが出始めた木も

S.S.『アウトテイク』

「Take1」 a.m.1:30. 時折車が追い抜いていく以外、人気のなくなった通り。歩道を歩く自分の足音が闇に吸い込まれるように消えていく。 背後からスピードを出した車が迫り、追い越しざまにライトが歩道にうずくまっていた黒猫を照らした。瞳が青と黄色に光り、猫はオレの目の前を横切って車道に飛び出し、そのまま渡り切って闇の中に消えた。 あの黒猫も孤独な身か……というより前を横切られた……。不吉な予感。よくないことが起きる前兆。ふとそんな思いが頭をよぎる。 迷信だ。後戻りはしない

S.S『下車前途無効』

 ふと思い立って旅に出た。目的地を決めず、路線図で最初に目についた駅までの切符を買い、電車に乗った。  馴染みのある景色、住み慣れた街を後に、初めての、再び来るかどうか分からない街を一人電車に揺られていく。同行者がいてはなかなかできない、こういう気ままな旅がいい。  車窓を流れる風景を見ながら、ふと惹かれたら降りる。切符には下車前途無効と書いてあるので料金が多少惜しくはあるが、ぼくは行き当たりばったりの旅が好きだ。  散策してみると思ったほどではないこともある。直感など当てに

童話『春の音楽会』最終話

三、春の音楽会  春になりました。暖かい太陽の光は、町も、山も、野原もきらきらと輝かせました。春風が、野原の草をそよそよと揺らしながら通ります。  野原のまん中を通る一本道の傍で、白いきれいな花が咲きました。春風は花の周りをくるくると回りました。  旅人が 楽団に入ってから 一か月が経っています。その間、風は野原にいました。花のつぼみが開くのを待っていたのです。 「花さん、きれいだねぇ。ぼく、うっとりしたよ」 「北風さんも、すっかり暖かくなったわね」 「うん。だからぼく、も

童話『春の音楽会』第二話

二、旅の音楽会 「旅人さんが来たかった町は、ここかい?」  小さな町なので、北風は少しがっかりしていました。たくさんの人に音楽を聞いてほしくても、広場に人がいないのです。歩いている人はみんな、ぶ厚いコートの襟を立てて、足早に通り過ぎていきます。 「旅人さん、別の町に行った方がいいと思うな。ぼく、どこか人の多い町があるか探してくるよ」  北風は空に浮かび上がると、ぴゅうっと飛んでいきました。  旅人は、北風が飛んでいった空を見上げながら、ほほえんでいました。旅人は町から町へと

童話『春の音楽会』第一話

作品について 2022年『小川未明文学賞』短編部門に応募した作品です。原稿用紙20~30枚の規定です。全部で6600文字ほどになりますので、三回に分けて公開しようと思います。短編部門は小学校低学年が対象のため、応募原稿では小学二年までの漢字のみを使い、ひらがな表記の文節間に空白を入れる、分かち書きをしていましたが、公開にあたり表記を改めています。 では、本編です。 一、夜の音楽会  暗い夜空の下で、一人の旅人がたき火をしていました。  朝からずっと歩いてきましたが、町につ

童話『風の岬の小さな灯台』後編

 森が静かに眠りについた時、ろうそくが言いました。 「さっきはありがとう。でも、なぜ一緒にお願いしてくれたの?」 「自分でも分からないけど、よかったね」  山風は本当は分かっていたのです。ろうそくの火があんまりきれいだから、ずっと見ていたかったのです。 「そうだ。ちょっと待ってて」  山風は森を抜け、野原の花畑の上を通り過ぎて戻ってきました。 「なんだかいいにおいがする」 「うん。花のにおいを集めてきたんだ」 「じゃあ、お礼にいいものを見せてあげる」  山風はろうそくに近づい

童話『風の岬の小さな灯台』前編

作品について 2022年『日産 童話と絵本のグランプリ』童話の部に応募した作品です。400字詰め原稿用紙5~10枚の規定のところ、10枚フルに使いました。一度に公開すると長いですから、前後編に分けます。よろしくお願いします。  海に面した岬に灯台がありました。昔はこの灯台の光が船の目印になったのですが、別の場所に新しい灯台ができてから、光が灯ることはなくなりました。今ではもう古くなり、ひっそりと立っています。  人間は知らないことですが、灯台の場所が変わってから困ったことが

ショート・ショート『暴走車』

作品について PHP研究所のショート・ショート『「ラストで君はまさかと言う」文学賞』に応募した作品です。登場人物は小学生から高校生とし、読者対象は小学校高学年から。オチのどんでん返しに特化した物語という規定でした。難しかったです。  悪いことをしているという自覚はあった。中学生が車の運転なんてしていい訳がない。でも父親の運転をいつも見ていたし、自分にもできると思っていた。やってみたかったのだ。  悪いことをすれば罰を受ける。小さい頃からそう教えられてきた。でも、この罰、無免

童話習作『ひとつぶの雪』

 外は雨が降っています。窓を少しだけ開けてみると、北風のびゅーびゅーという音も聞こえました。  たかし君は窓を閉めると、玄関に走っていって、表に飛び出していきました。ママはびっくり。あわててジャンパーを持って、あとを追いかけます。  ママが外に出てみると、たかし君は手の平をおわんの形にして、あちら、こちらと走りながら、雨を受けとめていました。 「カゼひくでしょ」と、ママはたかし君にジャンパーをはおると、家の中につれて入りました。  ぬれた頭をタオルでふいてもらいながら、たかし

童話習作『こん太のクリスマス』

 キツネのこん太は、巣穴から顏を出しました。 「うわぁ、たくさん降ったんだな。どうりで寒かったはずだよ」  森の木も、地面もまっ白な雪に覆われています。森に来て初めての冬です。  白い雪の上を、まっ黒な動物が歩いてきます。きょろきょろと何かを探しているようです。 「あっ、くま太くんだ。おーい」  こん太は巣穴から出て走っていきました。 「やぁ、こん太くん。どうかしたの?」 「雪がたくさん積もってるから、一緒に遊ぼうと思って」 「もうすぐ冬眠するから、たくさん食べておかないとい