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童話『星の子の冒険』 後編

簡単な前編のあらすじ
空から野原に降りてきた星の子。夜露のようにきらきら輝く星の子は、花や虫達と友達になりますが、その様子をカラスがじっと見ていました。


 カラスは光るものが大好きです。巣の中にガラスや金属でできた光るものをいっぱい集めています。星の子はそのどれよりもピカピカしていて、欲しくてたまらないのです。
 カラスが急降下しようとした時、笛の音が流れてきました。カラスは慌ててブレーキをかけ、羽をばたつかせて高く昇り、地面の虫達は草の陰に隠れ、鳥達は飛び立ちました。人間です。野原のまん中を通る道を、笛を吹きながら旅人が歩いてきたのです。
「おや? 何が光っているのだろう?」
 旅人は星の子に気がついて足を止め、じっと光を見つめています。野ばらも虫や鳥達も、カラスもドキドキしながら旅人を見ています。
「なんて美しいんだろう」と旅人は野ばらの葉から星の子を取ると、ポケットに入れてしまいました。
「それは私のなんだから。返してよ」
 野ばらの声は人間には聞こえません。旅人は町の方へ歩いていきました。
 その夜、野ばら達が悲しんでいる頃、旅人が泊っている町の宿屋で不思議なことが起こりました。旅人の部屋が、まるで月が落ちてきたかのように輝いているのです。白い光が窓から外の道や広場を照らします。昼のような明るさに行き交う人はみな足を止め、窓を見上げました。
 一台の馬車が通りかかり、宿屋の前に止まりました。馬車の中から紳士が御者に声を掛け、御者は宿屋に入っていきました。何が光っているのか見てくるよう命令されたのです。紳士はこの町に住む貴族でした。
「男爵様、小さな石が光を放っております」
「ほう」と男爵は笑みを浮かべ、再度何かを命じました。御者はまた宿屋に入り、しばらくして光る石を手に戻ってくると、男爵に差し出しました。旅人から買い取ったのです。
 拾った石が高く売れ、旅人がほくほく顔をしている頃、馬車はまぶしい光に包まれて屋敷へ帰っていきました。
 翌日、男爵は町一番の宝石職人を屋敷に呼び、光る石を指輪にするよう命じました。職人はすぐに店に帰り、作業を始めたのですが困ってしまいました。今まで加工してきたどんな宝石よりも硬くて、ダイヤモンドで削ろうとしても傷一つつけることができないのです。
「こんなに硬い石は見たことがないぞ」
 額の汗を拭い、もう一度ダイヤモンドの刃先を当てた瞬間、石がポーンと跳ねて、開いていた窓の外へ飛び出しました。
「大変だ」と慌てて工房から飛び出したのですが、職人が拾うよりも早く、カラスがクチバシでくわえて屋根の上に持っていってしまいました。昨日のカラスです。カラスは旅人の後をつけて、男爵の後を追いかけ、職人についてきていたのです。
「ひどいカラスだ。石を返せ」と職人が怒鳴っても、カラスは知らん顔で飛んでいってしまいました。
 カラスは嬉しくてたまりません。石を自分の物にしたのですから。野原の上から見下ろすと、虫や草花が自分を見上げています。自分より小さい鳥が取り返しにくるでしょうか。野原の端の木の上の巣に石を落とし、カラスは満足そうにカァと鳴きました。
 夕日が沈み、空に一つ二つと星が出ました。東の空から月が昇ってくると、小さな石は月の光を受けてまばゆい光を放ち始めました。
「こいつはすごいや。でも明るすぎて眠れないぞ」
 月はゆっくりと空を昇っていきます。真上に来た時です。石が浮かび上がり、空めがけて飛んでいったのです。カラスは驚いて追いかけようとしたのですが、石のスピードが速すぎてついていけませんでした。
 星の子は空に帰ったのです。空へ昇る途中、星の子は野原に向かって大声で言いました。
「またいつか遊びに行くから待っててね」
 夏になりました。星がいっぱい輝いています。星の子は小さいので、どこにいるか分かりませんが、もし夜空を走る白い光が見えたら、それは野原へ遊びにいく星の子なのかもしれません。
                               〈了〉


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