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はるのひ
2017年8月21日 03:01
朝、玄関の方へ歩きだす彼に向かって、名前を呼びかけ、右手を差し出す。 「はいはい」 もう慣れた彼は、そう言いながら戻ってきて、右手を差し出してくれる。「何なの、いつものこれ」と笑う彼と、しっかり握手をする。そして、へらへらしながら「いってらっしゃい」と彼を見送る。私が握手を求める理由を、彼は知らない。昔ある本で読んだフレーズが、ずっと心に残っている。主人公にとって大
2017年8月15日 01:50
「見て、あっち、すごい空。」母が指さす方を見ると、ただならぬ雰囲気の黒い雲が遠くの空を覆っている。「怖い、怖い。降ってくるかな。」最寄り駅まで、車で10分もかからない。しばらく走ると、また母が言う。「あ、虹。」運転席の母の向こうを見ると、青い空と白い雲を背景に、虹の足の部分だけがすっと空から地上へ降りてきていた。いや、地上から空へ伸びているのだろうか。その先は雲の中へと続いてい
2017年8月9日 19:03
真冬の夜の闇の中、車は街を滑る。頭上には、いつになく見事な満点の星空。「代わりに見といて」ハンドルを握る彼は前方に視線を戻し、ふわりと言う。彼の隣で、彼の分まで星に見とれる。地図は出さずに、目指すは海の方。間違った道をぐるりと回りまた同じ場所に出て、2人で笑う。見知らぬ街の、見知らぬ坂を上りきると突然 視界が開けた。同時に息をのみ、歓声をあげる。宝石のよ