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つみあげること #3 青二才シェフの料理帖

ちびやっしげ(いもうと)は、あたらしいともだちと食卓を囲むのをなによりも苦手としていた

ただでさえ極度の人見知りだったのに
なんで?食べないの?嫌いなの?
って好奇心旺盛な年頃のともだちに
聞かれるの、やだったなあと
いまでも渋い匂いがする

いつでもなにかと世話焼きないもうとの性分は
うまれてまもなくからのようで
満足に生まれたものの
なかなか厄介なつくりをしていたようす

出生後まもなくの検査で
アレルギーにアトピーに花粉症に
あっちゃこっちゃ結局オール引っかかった
どうやら強力な体質らしい、と宣告される

お医者さんは預言者だ
すぐの頃はかなりひどかったようで
わたしが寝ていた畳は私の体液の油でぎっとぎっとになってすぐ腐ってしまうほど
おばあちゃんはそのたびに
ああなんとか代わってやれないものかと
目を伏せていたらしいことを最近知った

お姉ちゃんのホットミルクを豆乳ととりちがえて死にかけたし
お昼休みみんな遊びの鬼ごっこで、いっぱい蚊に刺されたと過ごしていたら全身ぶっくぶくの蕁麻疹におそわれた、
背中にぺったりとはるお薬の効果虚しくぜえぜえ喘息にうなされた日は何度だって来た

そのたびにおとなのひとが
我慢してえらいねえと褒めてくれたり
きついねえと同情ししてくれたりしたのは
気持ちばかりでうまく言えない表情に戸惑いつつ
でもなんだか嬉しかった気がする

でも、言葉それ自体には頷けるものではなかった
当の私は我慢したつもりはあまりなく
そもそも嫌だったかというとそうではなかった
生まれてこの方そんなことが日常茶飯時で
からだとはこういうものだとどこかで悟っていた

たぶんだれしもこのからだになっていたら
そんなもんな気がする

とここまでつらつらとすんなりきたけど
ひとつ注をいれておかねば
ここまでのみちのりには
方方に配慮をお願いに東奔西走ししてくれたお母さんなしには語れない

ほんと、見えないところで感謝しなければって最近思うところが多いなあ

たっぷり用意してね、おいしいんだこれが

んなわけで
こんなに書いておきながら骨を折るようだけど
つらいとかそんな凹むことはなかった
たった一つを除いては

食物アレルギーだけはわけがちがっていた
乳製品・卵・バナナ

想像してみるとたやすいんだけれど
ほぼいろんなものが食べれないと御札をはられたに等しい
まろやかさにはミルクだし、つなぎには卵だもん

そんでもって、なによりも厄介なのは
生乳やゆで卵のようにあるとわかりよい料理はほぼ稀で
だいたいぬるっとごはんに入りこんでいるもんだ
練り込まれたり、混ぜ込まれたりなんてね

最近はやりのココナッツ、仕送りのなかで光ってました

だからランチタイムは
食べることがだいすきな私にとって
今か今かと待ちわびる時間なのに
直前になるとしり込みしてしまうような
矛盾した展開を辿ってばかりだった

食べるどころではない気苦労をしていたような
とにかくなんだか憂鬱じみていた

席替えで給食の班のともだちが代わったり
ときたま縦割り班で変則的に食べたり
夏休みのよいこのつどいで知らないこと合掌したり
ちょびっとなことが気にかかっていろんなことが上の空になってしまう

おとなのひとはそんな私をみかねて
こっそりかえっこしてくれたり説明してくれたり
100パーセント善意でしてくれるんだけど
感謝半分、どちらかというと
そんなん目立っちゃうよ〜とヒヤヒヤだったし

だいたいそんないやーな懸念はいつだって嬉しくなく的中
子供の洞察力は半端なものじゃなくって
彼らの目は盗めるもんじゃない

すぐに話題のたねにつかまってしまうのがオチ
なんで?なんで食べんの?
好き嫌いしとん?

そのたびに慌てていちから説明するんだけど
そこは急にだんまりこども顔、
往々にして聞いておきながらも
わかったようなわからなかったような
とろんとした目でふうんだから
えーーーーー
とこちらだけ猛烈につかれるのがお決まりだ

ああ苦い苦い、と思いながら
東京ワンルームの冷蔵庫に手をかけると
今でも牛乳の代わりにいつも豆乳がおわす

《クリームチーズ》

まずは豆乳をつかって
ヨーグルトを培養しよう

ヨーグルトを10倍にする魔法
ヨーグルトメーカーに1日目の夜を預ける

※アレルギーさんは市販の豆乳ヨーグルトで◎

ゆったり起きて
ヨーグルトメーカーの筒までそろそろ寄っていく
覗いてみれば
んわあ…
カスピ海ヨーグルト顔負け
ぬるっとヨーグルトができあがり

そっからが本番
これを水切りにしていく
キッチンペーパーとザルで2日目の夜だ
次の日にはかなりちいこくなるから量にはご用心

わくわくきもちをはやらせつつ
寝床について朝を迎えると
ペーパーの白に包まれた
チーズもどきのできあがり

さあてその4分の1くらいの
ココナッツオイルを仕込もう
溶かしたら水切りヨーグルトとさっくり混ぜる
いーーーーーにおい
ココナッツの匂いってなんともいえないクセ

最初は分離していやいやいっとるけど
だんだんと仲良くなってくるので根気強く混ぜる
ヘラがあるとやりやすい

あともうひとふんばり
まとまってきたら
たっっっぷりのレーズンをぱらりぱらり
もう一度力を込めて混ぜる

時間はたしかにかかるけど
手の間、手間はかからない
あっという間の優しいクリームチーズのできあがり

何日か寝かせてから食べるのがコツらしい
地団駄をふみたくなるのをぐっとこらえて
しばしまつ、まつ、まつ

何日かおいてタッパーを開けると…
もうそこにはザ!クリームチーズが〜
ちょいつぶれたレーズンがもうたまらん

クッキーは甘えて市販のでいいじゃない
おねえちゃんはリッツ、私はアーモンドクッキー
挟んじゃえば、しあわせの原石のかんせ〜い!

うわ、とぶおいしさだ
ひさびさのヒット
甘いものがあまりすきではないし
おっさんみたいな居酒屋おかずがすきなのもあり
料理はどこか偏りがちだけど
これはバランスメーカーだあと突然の救世主にひとめぼれ

なによりこれをつくった理由は
期日がもうそこまでの卒論のせいでブルーライトにやられるねえちゃんがぜったいすきな味だと直感したから

このまえのあんこも挟んでと
なんこか並べるとあらかわい、

んまい!んまい!コレどタイプや!!!と叫ぶねえちゃんに無愛想をふりまいてしまうわたし、なおさねばなここも

ありがたいもので、いまではアトピーはほぼすっからかん
たぶん最近のともだちは俄には信じられないだろうなあ〜
おかげさまで肌の治安にはこっそり自負があるくらいになった

おおきくなるにつれてだんだん治癒するんだってと聞いてたけどほんとにそうなったみたい
よかったーーーーーーー

それでもやっぱり小学生や中学生のそだちざかりに
ふいにここに引き戻されることもあったけど

でもでもいまではすっきーりだ、すべてに感謝

つみあげて
つみあげて
つみあげる

途方もなくみえてても
ときに流れが直してくれたり
がんばりで巻き返せたりすることがある

どちらでもいんだけど、でも
そうして辿った過程をわすれちゃいかんなあと

記憶からきえかけていた体質とのせめぎあいも
きっとなにかいまの自分の1ピースだものなあと
ふわふわと、ほんとうにふわふわと考えながら

成人のおいわいを包む
そうだなあ〜
帰れんやったけど
式はなくなったけど
わたしも成人だーーー

ちいこいころ習ってた茶道教室のお手伝いで
成人式会場でお茶出ししてた当時
ぎらぎらしてるおにいさんやおねえさんは
ぶち大きかったけどもうそこまできちゃったんや

つみあげたなあ〜

おかあさんおとうさんありがとう
おばあちゃんありがとう
じぶん、ありがとう
これからもつみあげるのだ〜

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