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物語 静かに象は歩く
僕は2年前にこの町に引っ越してきました。それまで何度か引越しをしたことがあって、引越しをしたことがある人はわかるでしょうが、本当にここに住むのだろうか、そういう第一印象をこの町からもうけました。それまでいた町は海が近くて、道路を越えればすぐに海水浴ができるのでお気に入りでしたが、この町は海から遠く、田んぼだらけです。家からちょっと離れたところにある坂道は気に入りましたが、その道は普段通る必要のな
もっとみる物語 何処までもいけるようなヒマワリ
今は亡き祖母と手を繋いでいた幼き夏の頃から、そのヒマワリはわたしの記憶に出現します。わたしの中の最初の記憶です。祖母のさらさらした皺の手の感触は鮮明に思い出せますし、風呂上りのような夏の暑さと蝉の合唱も、デジャブのような奇妙な感覚として思い起こされます。わたしは祖母に連れられ、おそらく買い物にでも出かけたのでしょう、家から国道までの一本道を歩いていました。田んぼを突っ切るこの道はまるで30センチ
もっとみる物語 自殺したヒマワリ
「ヒマワリが自殺した」
彼が呟いた。挙動不審で、常に誰かに観察されている妄想を抱いた彼はきょろきょろと忙しなく周囲を警戒している。私の部屋にあがりこんでも警戒を弱める気配無く。
「ヒマワリが自殺したのね」
私は返事をした。彼と一緒に視界に入る窓の向うを眺めながら、とてもよく晴れた日だ。入道雲と快晴とのコントラストが鮮明で、薄暗いこの部屋と外気とが同じ気温でつながっていることが不思議に思える。窓は風
物語 君ノ瞳二恋シテル
タロウくんとジロウくんは仲良しです。幼いふたりは出会ったその日にともだちになり、今では一番のともだちになりました。ふたりはお互いの姿を見るとうれしくなってかけより「遊ぼうよ!」といいあうのでした。そして毎日をひなたぼっこのようにすごしているのです。
ふたりはひみつの遊びをします。だれも知らないひみつの場所で、ひみつの遊びをするのです。おや、むこうからタロウくんとジロウくんが手をつないでやってきま
劇 ぼくがうまれる日
■第一幕
幕。
舞台中央、こどものかたちをしたものがいる。
右へ左へあてなくうろつき、時折立ち止まり、まるで迷子のよう。
舞台右手からちがうかっこうをしたものが登場。
かれ「おーい、そこの! 逃げ出したりして、どういうつもりだい? 順番は、お前だよ。さあ、そんなところにいないで、さっさとこっちにおいで」
声をかけられたことに気付き、ぼんやりと、ちがうかっこうをしたものを見返す。
かれ
物語 どこへいこう?
少年は今、自分がなしたことを呆然と、どこか夢のように、他人がなしたことのように見ていた。すなわち、血の粘り気と、右の手に握り締めた包丁と、そして腹に傷穴をあけて倒れた母親のことである。血液は徐徐に傷穴からこぼれでて、その面積を広めていった。少年は血の赤の赤さに少し感心した。
(まったく、こんなに赤いなんて!)
(動脈を貫いたのかな。きっと、赤血球が新鮮な酸素を蓄えて、今や体中に届ける、というところ
物語 おなかのなかにはなにがある?
今日の理科の授業はにんげんの体についてだった。体の中には骨がいっぱいあって、胃とか大腸とか小腸とかいうものがつまっているんだって。教科書の中に絵がのってた。その絵は人間の形をしているんだけどにんげんにあまり似ていなかった。だってぐちゃぐちゃしたホースみたいなものがついているのだもの。
「にんげんの体の中にはこういう『ないぞう』っていわれるものがあるんだ。こうして食べ物を栄養にかえているんだぞ」
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