下書き

1.

 ガサゴソ、ガチャン。
 けんちゃんが鍵をかける音が静かなトイレに鋭く鳴った。放課後の学校は人の気配がなく、しかも第二校舎の一階奥にある古いトイレは普段から人が来ることはなくて、隣の理科実験室で事業がある時にたまに利用されるくらいだ。つまり、ここに誰かがくる心配はほとんど無いってことだ。
 男子トイレの奥の個室は狭く薄暗く、けんちゃんのほっぺは近すぎた。体温が匂ってきてどきどきしてくる。トイレの個室に潜むぼくたちは誰にも気づかれないように無言で、ないしょの音は奇妙に反響して聞こえる。
 ぼくを個室にひっぱり込んだけんちゃんはさっきから無言だ。押し殺そうとしているはずの息づかいが大きく深く、睨むように見てくる。その視線をまっすぐに受けとめることができない。トイレの壁やタイルの具合を無意味に見ながらぼくは同じように無言で立っていた。
 薄暗い空間の中でけんちゃんの指がゆっくりと学生服のボタンを外してくる。上着を脱がされたぼくは自分のそれを邪魔にならないように畳んで、お返しにけんちゃんの上着を脱がす作業に取り掛かる。ぼくは人の服を脱がすのに慣れていない。学生服の大きなボタンは扱いづらく、上手くいかないことに少し焦ってしまう。ちらとけんちゃんの顔を見ると、暗い中じっとぼくの挙動を見てきて、それがまるで解剖されているようで汗が吹きでてきた。
 上着を脱いでカッターシャツのままぼくらは向かい合い、けんちゃんはぼくの股間に手を伸ばしてきた。布越しの手の感触に下半身がびくっと跳ねる。触られるのは何回目かの経験だけれど未だに慣れることなくて、まるで心臓がちんちんに移動したかのような、そんな気分になっていった。
 ぼくのちんちんが大きくなっているのを指で確かめ、何度かさすり、けんちゃんは手をズボンの中に入れてきた。その動きにぼくは怯えてしまう。直接ちんちんに触られることとか、硬さが伝わってしまうこととか、汗ばんでいるのでそれがねちゃっとなってしまわないかとか、けんちゃんの手におしっこの匂いが移ったらどうしようか、そんな不安になる。指はお構いなしに股間をまさぐり、色々と確かめるように動いた。

 まだ生えてないな

 けんちゃんは小声でささやき、ぼくは頭が真っ赤に熱くなった。脳みそがむわっとする熱さ。顔を上げると、けんちゃんは意地悪な顔をしていて、何回も確かめるために手を動かし、そしてキンタマを触ってきた。はじめてこういう事をした時からけんちゃんはキンタマいじりが好きで、「おまえのキンタマぷにぷにして面白い」といたずらしてくる。ぼくは急所をいじられるのになす術なく、ぐっと唇を噛んで、これ以上汗をかかないように必死だ。
 キンタマいじりを充分に楽しんだ後に、けんちゃんはぼくのちんちんをさすってくる。大きくなったところをつまんで、硬さを確認してきた。股の辺りがどんどん汗ばみ、湯気が出てこないか心配になってくる。ちんちんをいじられて汗かいているぼくをけんちゃんはきっと笑うだろう。そんなことを考えるとますます恥ずかしくなってしまい、汗もどんどん出てくる気がする。
 けんちゃんの指はぼくのちんちんを上下にいじったり、先っちょの皮をむにむに摘んでくる。これをされるとぼくは下半身の奥が熱くなって大変になってくる。くすぐられている時のような、正座のしすぎで足が痺れたときのような、そんな感覚がぼくの足をもじもじさせる。まっすぐに立っていられなくなったぼくはけんちゃんに少しもたれかかり、肩ごしに呼吸が振動となって伝わる。ゆっくり、深く、底から低く響いて、こんな時のけんちゃんは同級生に思えなくて、すごく歳が離れているみたいだ。まるで知らないおじさんからされるような、怖さと抗えなさがぼくのあそこを振るわせている。
 けんちゃんは口をぼくの耳に寄せて、汗の匂いがぷんと強く鼻を覆う。ぼくらの潜めた息の音しかしない中、「気持ちいい?」とかすれた声が響いた。これがぼくにはよくわからない。ちんちんを擦ると気持ちいいんだぜ、という誘いから始まったこの遊びだけれど、何回されてもけんちゃんのいう気持ちよさはぼくにはわからなかった。恥ずかしさとむず痒さがあるだけだ。だけどこうやって、誰もいない放課後のトイレで同級生にちんちんをいじられるのはとてもいけないことをしている気があって、それがとても刺激的で、誘いを断れない。今日こうやってトイレに連れ込まれるのは久しぶりで、誘われるまでの間ずっとちんちんをいじられたくて仕方がなかった。こうやって直にいじられているときは恥ずかしくて早くやめてほしいと思うのに、なんでこんなふうに思うのだろう。けんちゃんに言わせればそれは「おまえがスケベだからだよ」ということだった。

 「おまえ、スケベだよな」

 ある日の休み時間、次の体育の授業のために体操服に着替えていたぼくの顔をじっと見て、けんちゃんはそういった。ぼくだけに聞こえる音量なのに、その声はぼくの心臓を激しく揺り動かした。動揺して何も答えられないぼくに近づき、他のクラスメイトから見られないように体の向きを変えた。
 「さっきからここ見てるだろ」
 パンツ一丁で自分の股間を指差してぼくによく見えるように腰をつきだしてくる。ボクサーブリーフの布地はけんちゃんの腰をぴっちりと覆って、股間のもっこりがおおきく目立っていた。ちんちんが立った時のぴん!とした、テント張っているみたいなのではなく、竿とキンタマそのものの大きさ。ぼくの大きさとは違う、よりいっそうの大きさ。そこから目が離せなくて着替えの時ずっと見ていたら、とうとうけんちゃんに見つかってしまった。

ここまで

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