ここ ここし

こちらでは物語、エッセイを中心に登録しますのでよろしくお願いします。

ここ ここし

こちらでは物語、エッセイを中心に登録しますのでよろしくお願いします。

最近の記事

物語 やさしさの森

黒い黒い森でした。 樹が多すぎて、昼でもお日さまの日がとどかない、まっくらな森の中心でした。 ひんやりと冷たい土の上、ひっそりと小さな家がありました。 家には男の子が一人きりで住んでいました。小さなベッドでいつも寝ていました。男の子は病気なのです。 胸の病気はいつまでも男の子を苦しめて、家に閉じ込めて、人との関わりを遮りました。 男の子はもう何年も人に会っていません。家族からも見放され、ひとりぼっち、黒い森の中心です。 男の子には友だちがいませんでした。たった一人で朝起

    • 2020年 九月某日 東京 ベルギーレストラン

      「ベルギー料理でいいですか」 Sさんから尋ねられたとき、僕はああ、はい、としかいえなかった。だって僕はベルギー料理っていうのがどんな料理かわからなかったし、それどころかベルギーって国についてすらわからなかったからね。 ヨーロッパの上のほうにある国ってことと、チョコレートで有名なことくらいしか知らなかったんだよ。そんな僕がベルギー料理でいいですかって訊かれてもああ、はいってこと以外応えられないのは君だって想像がつくだろう。他にかろうじて言えたのは、チョコレートで有名な国です

      • 短編 創造

         彼と出会ったのは薄暗い通学路でした。  居残りで遅くなり、一人ぼっちで帰宅していた僕に彼は声をかけてきたのです。  「君はオナニーをしているだろう。使ったテッシュを私にくれないか」  奇妙な頼みごとをする男に恐れ逃げようとしましたが、待ちなさい、只では言わない、と紙幣を見せられました。中学生には魅力的な金額でした。迷いましたが、どうせ捨てるものなのだから、と己に言い訳をし、僕は彼にオナニーに使ったテッシュを売ることにしました。  翌日の同じ時間にテッシュを渡すことにしまし

        • 短編 蝶太郎

           昔の話である。  あるところに夫婦が住んでおり、子宝に恵まれない為に養子をもらうことになった。歳の頃は十くらいの男子で、たいそう肉付きがよく、整った顔立ちに眼は利発そうに輝き、行儀良く大人しい子は夫婦にたいそう可愛がられた。子は「蝶太郎」と名付けられ、夫婦の期待に応えるかのように健やかに成長していった。蝶太郎は自分が養子として夫婦に引き取られたことをわかっていたが、まるで実の子のように接してくれる夫婦を信頼し、どうせ自分は養子だから、などという卑屈な面を一つも出すことなしに

        物語 やさしさの森

          下書き

          1.  ガサゴソ、ガチャン。  けんちゃんが鍵をかける音が静かなトイレに鋭く鳴った。放課後の学校は人の気配がなく、しかも第二校舎の一階奥にある古いトイレは普段から人が来ることはなくて、隣の理科実験室で事業がある時にたまに利用されるくらいだ。つまり、ここに誰かがくる心配はほとんど無いってことだ。  男子トイレの奥の個室は狭く薄暗く、けんちゃんのほっぺは近すぎた。体温が匂ってきてどきどきしてくる。トイレの個室に潜むぼくたちは誰にも気づかれないように無言で、ないしょの音は奇妙に反

          物語 静かに象は歩く

           僕は2年前にこの町に引っ越してきました。それまで何度か引越しをしたことがあって、引越しをしたことがある人はわかるでしょうが、本当にここに住むのだろうか、そういう第一印象をこの町からもうけました。それまでいた町は海が近くて、道路を越えればすぐに海水浴ができるのでお気に入りでしたが、この町は海から遠く、田んぼだらけです。家からちょっと離れたところにある坂道は気に入りましたが、その道は普段通る必要のない道なので、あまり僕はこの町が好きではありません。たったひとつを除いては。  そ

          物語 静かに象は歩く

          物語 何処までもいけるようなヒマワリ

           今は亡き祖母と手を繋いでいた幼き夏の頃から、そのヒマワリはわたしの記憶に出現します。わたしの中の最初の記憶です。祖母のさらさらした皺の手の感触は鮮明に思い出せますし、風呂上りのような夏の暑さと蝉の合唱も、デジャブのような奇妙な感覚として思い起こされます。わたしは祖母に連れられ、おそらく買い物にでも出かけたのでしょう、家から国道までの一本道を歩いていました。田んぼを突っ切るこの道はまるで30センチの定規で、何処にも迷う要素がなく、わたしは得意げに歌など唄いながらの行進です。そ

          物語 何処までもいけるようなヒマワリ

          物語 月に桜

          コタロウが退院した。「今度遊びにくるからね」そういって去っていった。今度なんてくるわけない、1度ここをでたヤツが遊びに戻ってきたことなんてないんだ。退院した人間が病院に遊びにくることはない。通院はしてるらしいけど病室まで遊びにきてくれるヤツなんていなかった。いくら友達だと思っていたヤツでも。だからしばらくは3人で遊ばなきゃいけない。コタロウは唯一まともに話しができるヤツで、歳も近かったのに。残ったのはオレも含めてろくなヤツがいない。特殊小児病室と呼ばれているここは重病の子ども

          物語 月に桜

          物語 自殺したヒマワリ

          「ヒマワリが自殺した」 彼が呟いた。挙動不審で、常に誰かに観察されている妄想を抱いた彼はきょろきょろと忙しなく周囲を警戒している。私の部屋にあがりこんでも警戒を弱める気配無く。 「ヒマワリが自殺したのね」 私は返事をした。彼と一緒に視界に入る窓の向うを眺めながら、とてもよく晴れた日だ。入道雲と快晴とのコントラストが鮮明で、薄暗いこの部屋と外気とが同じ気温でつながっていることが不思議に思える。窓は風の通り道からは外れていて、性交を求める蝉の声は届いても、新しい空気は流れてきてく

          物語 自殺したヒマワリ

          物語 君ノ瞳二恋シテル

          タロウくんとジロウくんは仲良しです。幼いふたりは出会ったその日にともだちになり、今では一番のともだちになりました。ふたりはお互いの姿を見るとうれしくなってかけより「遊ぼうよ!」といいあうのでした。そして毎日をひなたぼっこのようにすごしているのです。 ふたりはひみつの遊びをします。だれも知らないひみつの場所で、ひみつの遊びをするのです。おや、むこうからタロウくんとジロウくんが手をつないでやってきました。どうやらここがひみつの場所らしいです。 「ジロウ、ひみつの遊び、しようぜ」

          物語 君ノ瞳二恋シテル

          物語 でぐち

          そこに出口があった。 君の目の前だ。人が丁度くぐれる高さの、明るいペンキが塗られた、ベニヤ板製の出口だ。学童が作ったかのような下手糞な色紙で飾られたアーチ状の門はカーテンで仕切られ、向うを垣間見る事は出来ない。空色のカーテンは安っぽく、薄くて、風にひらひらと揺れていたが、やはり向うを見ることは出来なかった。君がこの門を出口だと認識した根拠は、門の上に大きく『でぐち。』と油性マジックで書かれてあったからで、出口と書かれているからにはその通り出口なのであろう。君は森を歩いてきた。

          物語 でぐち

          物語 毒男

          この道を行ってはいけない。先は深い森に繋がっていて、呪われた男が住んでいる。 暗い森の一軒家は呪われた孤独な男の住処だ。だから行ってはいけない。恐ろしい呪いによって死に至るだろう。この村の誰でも知っている恐怖の伝説、憐れな、悲劇の男の森だよ。 男に関わるものは全て死ぬのだ。それは恐ろしい呪い、太古の魔女ポストが男にかけた忌まわしい言葉。呪われた男はバケモノとなり森に逃げ込み、それ以来ずっと森は禁じられた場所となった。 君は何故森から離れないのだと疑問に思ったかい? 恐ろしいバ

          劇 ぼくがうまれる日

          ■第一幕 幕。 舞台中央、こどものかたちをしたものがいる。 右へ左へあてなくうろつき、時折立ち止まり、まるで迷子のよう。 舞台右手からちがうかっこうをしたものが登場。   かれ「おーい、そこの! 逃げ出したりして、どういうつもりだい? 順番は、お前だよ。さあ、そんなところにいないで、さっさとこっちにおいで」 声をかけられたことに気付き、ぼんやりと、ちがうかっこうをしたものを見返す。 かれ「どうしたんだ、そんな不思議そうな顔をして。うまれる順番はお前だって、通知された

          劇 ぼくがうまれる日

          物語 プリン

          その日、ぼくはすっかり疲れちまってたんだ。なんで疲れていたかというとね、すごくくだらないことでいそがしかったんだ。くだらないっていうのは、ひどく間抜けな用事で、それがけっさくなくらい間抜けなんだ。自分が嫌になってしまうくらい間抜けなんだよ。君も夜中に、白シャツを探しまわればこんな気分になるだろう。そう、ぼくは白シャツを探して、夜遅くまで、駅周辺を歩き回っていたんだ。なんでそんなものを探していたかというとね、次の日に、どうしても白シャツを着てかなきゃいけなかったんだな。いや、ぼ

          物語 プリン

          物語 どこへいこう?

          少年は今、自分がなしたことを呆然と、どこか夢のように、他人がなしたことのように見ていた。すなわち、血の粘り気と、右の手に握り締めた包丁と、そして腹に傷穴をあけて倒れた母親のことである。血液は徐徐に傷穴からこぼれでて、その面積を広めていった。少年は血の赤の赤さに少し感心した。 (まったく、こんなに赤いなんて!) (動脈を貫いたのかな。きっと、赤血球が新鮮な酸素を蓄えて、今や体中に届ける、というところでのいきなりの仕打ちだったんだろう) (それにしても母さんにこんな赤さがあったな

          物語 どこへいこう?

          物語 おなかのなかにはなにがある?

          今日の理科の授業はにんげんの体についてだった。体の中には骨がいっぱいあって、胃とか大腸とか小腸とかいうものがつまっているんだって。教科書の中に絵がのってた。その絵は人間の形をしているんだけどにんげんにあまり似ていなかった。だってぐちゃぐちゃしたホースみたいなものがついているのだもの。 「にんげんの体の中にはこういう『ないぞう』っていわれるものがあるんだ。こうして食べ物を栄養にかえているんだぞ」 先生がそう教えてくれた。なるほど、ぼくのおなかのなかもそうなっているのか。ぼくは服

          物語 おなかのなかにはなにがある?