梢ハンナ

文学批評(ジェンダー&ポスコロ)とアートをかじりました。アート、カルチャーにまつわる雑…

梢ハンナ

文学批評(ジェンダー&ポスコロ)とアートをかじりました。アート、カルチャーにまつわる雑記です。

記事一覧

社会派ミステリーのなかのミソジニー

先日、『密告はうたう2』というWOWWOWドラマを見た。警視庁人事一課という部署に配属された、元刑事の佐良という男が、警察組織内部の不正と同僚の死の謎を追うハードボイ…

梢ハンナ
2週間前
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ラブソングをエイリアン化したXG "SOMETHING AIN'T RIGHT"における空っぽの渋谷

XGの"SOMETHING AIN'T RIGHT"について遅ればせながら、思ったことを書いてみたい。 定番ラブソングをエイリアン化:やっぱり今回も新しかったXG はじめに曲だけ聞いたと…

梢ハンナ
1か月前
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「アートに正解はない」を一旦やめてみたらどうだろう!というはなし

美術館で絵を見ていたら、展示ガイドツアーに遭遇した。10人ほどの男女が、抽象的な彫刻がおかれた展示台をぐるりと囲んていて、そのなかのひとりの女性が、しきりに「な…

梢ハンナ
1か月前
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ジェンダーから読み解くXG新曲WOKE UP:ポップソングが提示する「ありのままのわたし」の進化

XGの新曲"WOKE UP"が公開された。XGは、「KでもJでもないX-Pop」というコンセプトを具現化するため、既存のものを寄せ集め、それらの文脈を別の何かと接続させるという、ヒ…

梢ハンナ
4か月前
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石川真生『私に何ができるか』@東京オペラシティ アートギャラリー

展覧会にいくと、作家が現役でも、作品が死んでいる、と直感的に思うことがある。なぜそう感じたか考えてみても、予定調和、自己模倣、キュレーションの悪さ・・・ざっくり…

梢ハンナ
11か月前
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かわいい顔にだまされるなヨ!XGに学ぶポリコレ:HIPHOPの歴史とアジア人女性の在り方。

先月、新作のミニアルバムをリリースしたXG。Z世代に人気というが、彼女たちの音楽は、かつてローリン・ヒルやTLCをエンドレスリピートしていたアラフォーの私の心もわしづ…

梢ハンナ
1年前
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エビちゃん系女子と見た『勝手にしやがれ』

ゴダールがこの世を去った。わたしは、映画をよく知らないので、あーだこーだ語るほどの知識がない。ただ、彼の『勝手にしやがれ』は、わたしが「芸術ってすごい」と肌感覚…

梢ハンナ
2年前
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わたしはどこ?——澤田知子「狐の嫁入り」@東京都写真美術館

顔、顔、顔。写真美術館で開催されている澤田知子の個展「狐の嫁入り」には、澤田知子がいっぱいいる。でも、同時にどこにも澤田知子はいない。ずらっと並んだセルフポート…

梢ハンナ
3年前
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ユートピアなはずのあつ森にモヤモヤした理由

今年のあたまに、はじめて「あつまれどうぶつの森」をプレイした。わたしはシムシティみたいなゲームにめっちゃハマるタイプなので、あつ森もハマると確信していた。ところ…

梢ハンナ
3年前
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石岡瑛子展で「わきまえない女」を考える

森喜朗の一件で、「わきまえない女」というハッシュタグがバズっている。「余人をもって替えがたい」という援護射撃や、自分のためにしか闘わない小池百合子をみていると、…

梢ハンナ
3年前
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アートの居場所:オリジナルとコピーについて

〔本来それがあるべき〕場とその独自の伝統の外にあるためにその芸術固有の歴史の外部にとどまっている、いわゆる「素朴派」の画家と同様、「素朴な」鑑賞者は、芸術的伝統…

梢ハンナ
3年前
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社会派ミステリーのなかのミソジニー

社会派ミステリーのなかのミソジニー

先日、『密告はうたう2』というWOWWOWドラマを見た。警視庁人事一課という部署に配属された、元刑事の佐良という男が、警察組織内部の不正と同僚の死の謎を追うハードボイルドな社会派ミステリーだ。シーズン1が面白かったので見てみたが、今回は、2話の時点で悲しくなった。紅一点のキャラクター皆口菜子が、家父長制的な「女」のステレオタイプをそのまま割り当てられた、単なる記号でしかなかったからだ。「あぁ、また

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ラブソングをエイリアン化したXG "SOMETHING AIN'T RIGHT"における空っぽの渋谷

ラブソングをエイリアン化したXG "SOMETHING AIN'T RIGHT"における空っぽの渋谷

XGの"SOMETHING AIN'T RIGHT"について遅ればせながら、思ったことを書いてみたい。

定番ラブソングをエイリアン化:やっぱり今回も新しかったXG

はじめに曲だけ聞いたとき、歌詞がデスチャのSay My Name(1999年リリース)みたいだなと思った。「このごろ態度がおかしいけど、二人だけでいるときも、わたしの名前を呼んで。悪いけどわたし、遊ばれるようなタマじゃないからね、舐

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「アートに正解はない」を一旦やめてみたらどうだろう!というはなし

「アートに正解はない」を一旦やめてみたらどうだろう!というはなし

美術館で絵を見ていたら、展示ガイドツアーに遭遇した。10人ほどの男女が、抽象的な彫刻がおかれた展示台をぐるりと囲んていて、そのなかのひとりの女性が、しきりに「なにか意見はありますか?なんでもいいんですよ~!!」と呼びかけていた。

わたしが過去に参加したガイドツアーでは、せいぜい最後に「質問ありますか?」と投げかけられるくらいで、基本的に、参加者は話を聞くだけ。作品の感想を求められたことなど一度も

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ジェンダーから読み解くXG新曲WOKE UP:ポップソングが提示する「ありのままのわたし」の進化

ジェンダーから読み解くXG新曲WOKE UP:ポップソングが提示する「ありのままのわたし」の進化

XGの新曲"WOKE UP"が公開された。XGは、「KでもJでもないX-Pop」というコンセプトを具現化するため、既存のものを寄せ集め、それらの文脈を別の何かと接続させるという、ヒップホップな実践している。だから、彼女たちの音楽は、懐かしいのに新しい。今回の新曲は、フックの "woke up looking like this, so don't get under my skin" という歌詞を

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石川真生『私に何ができるか』@東京オペラシティ アートギャラリー

石川真生『私に何ができるか』@東京オペラシティ アートギャラリー

展覧会にいくと、作家が現役でも、作品が死んでいる、と直感的に思うことがある。なぜそう感じたか考えてみても、予定調和、自己模倣、キュレーションの悪さ・・・ざっくりとした理由しか思い浮かばなかったが、石川真生の「私に何ができるか」を見て、ひとつの答えを見つけた気がする。

この展覧会で、わたしが長らく滞在したのは、石川が2014年から毎年作り続けている『大琉球写真絵巻』のパート8~10の展示室だ。この

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かわいい顔にだまされるなヨ!XGに学ぶポリコレ:HIPHOPの歴史とアジア人女性の在り方。

かわいい顔にだまされるなヨ!XGに学ぶポリコレ:HIPHOPの歴史とアジア人女性の在り方。

先月、新作のミニアルバムをリリースしたXG。Z世代に人気というが、彼女たちの音楽は、かつてローリン・ヒルやTLCをエンドレスリピートしていたアラフォーの私の心もわしづかみにした。

しかし、HIPHOPやR&Bは、「文化の盗用」の問題と隣り合わせでもある。youtube配信された、JURINとCOCONAのN.O.R.EのNothin'のビートジャック動画をみて、アジア人としてポリコレにどう向き合

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エビちゃん系女子と見た『勝手にしやがれ』

ゴダールがこの世を去った。わたしは、映画をよく知らないので、あーだこーだ語るほどの知識がない。ただ、彼の『勝手にしやがれ』は、わたしが「芸術ってすごい」と肌感覚で知った原体験のひとつである。

2000年代中頃、わたしが女子大生だった頃。時はCanCam全盛期。専属モデルだった山田優と押切もえにぶっちぎりで差をつけて、エビちゃんが当時の「カワイイ」の頂点に君臨していた。女子大生たちは、こぞってロン

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わたしはどこ?——澤田知子「狐の嫁入り」@東京都写真美術館

顔、顔、顔。写真美術館で開催されている澤田知子の個展「狐の嫁入り」には、澤田知子がいっぱいいる。でも、同時にどこにも澤田知子はいない。ずらっと並んだセルフポートレートのひとつひとつを見つめていると「澤田知子はどこにいるのか?」という私の問いは「わたしはどこにいるのか?」という問いにすり替わっていく。

澤田は、デビュー作から一貫して「外見と内面の関係性」というコンセプトを、さまざまな女性に変装した

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ユートピアなはずのあつ森にモヤモヤした理由

今年のあたまに、はじめて「あつまれどうぶつの森」をプレイした。わたしはシムシティみたいなゲームにめっちゃハマるタイプなので、あつ森もハマると確信していた。ところが、わくわくしたのも束の間、島の開拓の序盤で「この無人島を発展させる仕組みって、現実世界に起こっている搾取の構造と同じよね?」と思ってしまった。そう思ったら、貝をひろっても、木を揺らしても、可愛さより疑問のほうが勝ちはじめ、頭の中がざわざわ

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石岡瑛子展で「わきまえない女」を考える

森喜朗の一件で、「わきまえない女」というハッシュタグがバズっている。「余人をもって替えがたい」という援護射撃や、自分のためにしか闘わない小池百合子をみていると、結局、世の中は森喜朗の金太郎飴なんだと思う。切っても切っても父権性は消えない。それでも、「わきまえない女」になります!と宣言する気が起きない。そもそも「わきまえない女」ってどんな女なんだ?「わきまえない」の実践って、食生活から一切の動物を取

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アートの居場所:オリジナルとコピーについて

〔本来それがあるべき〕場とその独自の伝統の外にあるためにその芸術固有の歴史の外部にとどまっている、いわゆる「素朴派」の画家と同様、「素朴な」鑑賞者は、芸術的伝統の独自の歴史を参照することによってしか意味をもたないような芸術作品については、しかるべき特定の知覚に到達することができない。
      ピエール・ブルデュー 『ディスタンクシオン:社会的判断力批判』

数年前、ドクメンタを見るために滞在し

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