片帆

徒書 わたしのお空は遠くに

片帆

徒書 わたしのお空は遠くに

記事一覧

夏の追想

砂浜の熱さを足裏に感じるのはどれほどぶりだろう。 指の間に入り込む砂粒さえ心地良い。 潮風が頬や耳をくすぐる。 でも日光にはあまり長く当たれない。 夏に生まれたの…

片帆
6日前
4

Dusk Till Down

さざめく昼をなだめながら夜がやってくる。 街の灯が傷ついた人たちを包み込む。 一日の中で、天使が手を差し伸べる時間。 こんなかたちで生まれてきたわたしにも平等に。 …

片帆
2週間前
3

『近畿地方のある場所について』感想

『おやまにきませんか。かきもあります』 SNSでこの広告を目にした時、心と体がとらわれた気がした。 山あいと思われる鬱蒼とした木々にひらがなのキャッチコピー。 強烈…

片帆
3週間前
1

生育

あの人の年齢から自分の年齢を引く。 23歳。 十分、父子としてあり得るわけだ。 自分はこの人の子どもなのかもしれないと、不思議と昔から感じていた。 そうあってほしいと…

片帆
1か月前
4

Bitter Sweet

どうしてこれほどまでに惹かれるのだろう。 言葉をなぞり、繰り返し聴き、その姿に見惚れる。 愚かなわたしにも居場所をつくってくれる。 前世からの縁? もしそうならば…

片帆
1か月前
4

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』

人気漫画家・浅野いにお先生の原作漫画(全12巻)を映画化し、前章・後章合わせて4時間で構成された作品。 わたしが最初に原作漫画を読むきっかけとなったのは、推しである…

片帆
2か月前
6

音楽朗読劇READING HIGH『ROAD to AVALON』

2024年5月12日、東京ガーデンシアターにてROAD to AVALONを観劇した。 リーディングハイの作品はいくつか拝見してきたが、生まれて初めて音楽朗読劇というものに触れたのは…

片帆
3か月前
9

心的時間旅行と夕暮れ

空港や駅が好きだ。 旅行に帰省、懐かしい人や大好きな人たちに会える機会。 構内の音も心地良い。 そして、目的地に運んでくれる乗り物たち。 だから飛行機や電車も好き。…

片帆
6か月前
6

サニーのラブレター

トッケビの好きなシーンの中で、もうひとつ。 イ・ドンウクさん演じる死神とユ・インナさん演じるサニーの物語もトッケビを語る上で欠かせません。 第15話のサニーがウンタ…

片帆
7か月前
5

トッケビ/도깨비

わたしの推しの諏訪部順一さんが、吹き替えでご出演されている「トッケビ」 あまりに有名な作品なので、ご存知の方もたくさんいらっしゃると思いますが簡単に内容を少し。 …

片帆
7か月前
5

プレミア音楽朗読劇VOICARION スプーンの盾

2023年12月10日、有楽町のシアタークリエにて『VOICARION スプーンの盾』を観劇した。 この日のランチはカレーム福山潤さん、ナポレオン立木文彦さん、マリー日笠陽子さん…

片帆
8か月前
10

「キングダム」ラース・フォン・トリアーに恋して

推しの諏訪部順一さんが少し前にポストされていた11月にWOWOWで完全放送されるという『キングダム』シリーズ。 ラース・フォン・トリアー監督が手掛けたデンマークのTVドラ…

片帆
9か月前
6

推しと出会わせてくれたもの

この企画、いくつも投稿していいのかな。 でも今のわたしは書かずにいられない。 「テニスの王子様」 この作品はわたしの人生になくてはならないものだ。あまりに好きで安…

片帆
9か月前
18

ロンハールーム

ラジオ関西で毎週土曜の夜24時から放送中の番組『ロンハールーム』 「ロング」こと石川英郎さんと「ハード」こと諏訪部順一さんのコンビがパーソナリティを務めるラジオ番…

片帆
9か月前
6

ブロンズの神様

振り返ると、あの人との会話で一番多く交わされた言葉は「さみしい」だと思う。 「さみしいね」 「さみしくなるね」 「さみしいこと言うなよ」 ふたりを繋いでいたのは…

片帆
10か月前
2

時を超えた贈りもの

先日、森永製菓さんによる森永ビスケット名作朗読キャンペーンが展開された。 3年ほど前にも推しの諏訪部順一さんのAR朗読劇を楽しめる企画があったが、今回も諏訪部さんご…

片帆
1年前
4
夏の追想

夏の追想

砂浜の熱さを足裏に感じるのはどれほどぶりだろう。
指の間に入り込む砂粒さえ心地良い。
潮風が頬や耳をくすぐる。
でも日光にはあまり長く当たれない。

夏に生まれたのに陽に弱い。
幼少期の写真を見ると、皮膚科で出された乾くと白くなる薬をしょっちゅうそこかしこに塗られている。
今でも塗り薬は手放せない。

今日は八月の海を見たくて車を走らせた。
車内BGMはTHE ALFEEのアルバム『FOR YOU

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Dusk Till Down

Dusk Till Down

さざめく昼をなだめながら夜がやってくる。
街の灯が傷ついた人たちを包み込む。
一日の中で、天使が手を差し伸べる時間。
こんなかたちで生まれてきたわたしにも平等に。
でもそれは、とてつもなく儚い。

家路を急ぐ車を眺めながら、あなたを思う。
今頃、東京の光を受けながら首都高を走っているのだろうか。
それとも路地裏の猫にあいさつをしてカメラを向けているのだろうか。

ほころんだ世界を繕うあなたの指先。

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『近畿地方のある場所について』感想

『近畿地方のある場所について』感想

『おやまにきませんか。かきもあります』

SNSでこの広告を目にした時、心と体がとらわれた気がした。
山あいと思われる鬱蒼とした木々にひらがなのキャッチコピー。

強烈に惹かれた。
山や柿が好きだからではない。
むしろ苦手なほうだ。
でも、既視感があった。
懐かしさすら覚える景色。

それが、背筋さん著『近畿地方のある場所について』だった。
本屋さんに行くたび、面陳されたり平積みされた目を引く装丁

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生育

生育

あの人の年齢から自分の年齢を引く。
23歳。
十分、父子としてあり得るわけだ。
自分はこの人の子どもなのかもしれないと、不思議と昔から感じていた。
そうあってほしいという願望だったのかもしれない。
そして、時々思い出したように叔父という立場で会いに来るその人を、わたしは大嫌いで大好きだった。

祖母が鬼籍に入って、わたしは世界から取り残されたようなこの村で日々を過ごす。
もう、母は誰なのかとか、父

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Bitter Sweet

Bitter Sweet

どうしてこれほどまでに惹かれるのだろう。
言葉をなぞり、繰り返し聴き、その姿に見惚れる。

愚かなわたしにも居場所をつくってくれる。
前世からの縁?
もしそうならば、わたしは人生1回目の人たちにも敵わない出来損ないだ。

同じことを思ったり、考えに賛同したり、心の行いを正してもらったり。
迷った時は足もとを照らしてくれる。
知らなかった風景を見せてくれる。
置いてきぼりにしてきたものを運んできてく

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映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』

人気漫画家・浅野いにお先生の原作漫画(全12巻)を映画化し、前章・後章合わせて4時間で構成された作品。
わたしが最初に原作漫画を読むきっかけとなったのは、推しである諏訪部順一さんがX(当時Twitter)で呟かれていたからだ。
無論、浅野にいお先生のことは存じ上げていたし、気になりつつも何となく食指が動かなかった。(ご無礼をお許しください)
しかし、『デデデデ』のアニメ化のお知らせと、愛読されてい

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音楽朗読劇READING HIGH『ROAD to AVALON』

音楽朗読劇READING HIGH『ROAD to AVALON』

2024年5月12日、東京ガーデンシアターにてROAD to AVALONを観劇した。
リーディングハイの作品はいくつか拝見してきたが、生まれて初めて音楽朗読劇というものに触れたのは2020年2月のエルガレオンだった。
ハンカチが絞れるほどの涙を流したことは未だに忘れられない。

今作はアーサー王伝説をもとに創作されたという。

アーサー王
諏訪部順一さん。

魔法使いアンブローズン・マーリン

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心的時間旅行と夕暮れ

心的時間旅行と夕暮れ

空港や駅が好きだ。
旅行に帰省、懐かしい人や大好きな人たちに会える機会。
構内の音も心地良い。
そして、目的地に運んでくれる乗り物たち。
だから飛行機や電車も好き。

今日は4日ぶりの晴天だった。
午後3時、やや陽が傾き始めた空を眺めているとキラリと光るものが。
西日を浴びた飛行機だ。
もっと近くで見たい。
わたしは空港近くの広場に向かった。
飛行機というのはなぜこうも胸を高鳴らせるのだろうか。

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サニーのラブレター

サニーのラブレター

トッケビの好きなシーンの中で、もうひとつ。
イ・ドンウクさん演じる死神とユ・インナさん演じるサニーの物語もトッケビを語る上で欠かせません。
第15話のサニーがウンタクのラジオ番組に送った一通のメール。
初めて聴いた時、胸が締め付けられて泣きました。
書き起こしてみると、言葉の美しさと恋しさに指先が震えます。
宿縁や運命が実際あるかどうかはわかりません。
でも、どうしようもなく相手に惹かれて懐かしく

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トッケビ/도깨비

トッケビ/도깨비

わたしの推しの諏訪部順一さんが、吹き替えでご出演されている「トッケビ」
あまりに有名な作品なので、ご存知の方もたくさんいらっしゃると思いますが簡単に内容を少し。
コン・ユさん演じる高麗時代の英雄キム・シンは、王の嫉妬から逆賊として命を落とします。
その後、神の力によって“不滅の命”を生きる“トッケビ”となってしまったシン。
トッケビとは朝鮮半島に伝わる精霊や妖怪のことです。
彼を永遠の命から解き

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プレミア音楽朗読劇VOICARION スプーンの盾

プレミア音楽朗読劇VOICARION スプーンの盾

2023年12月10日、有楽町のシアタークリエにて『VOICARION スプーンの盾』を観劇した。
この日のランチはカレーム福山潤さん、ナポレオン立木文彦さん、マリー日笠陽子さん、タレーラン諏訪部順一さん。
諏訪部さんタレーランにお会いするのは初めてで、匂い立つほどの色気と、気品と才智を纏ったお姿はまるで18世紀末のフランスから降り立ったよう。
タレーランとナポレオンとの掛け合いは、ふたりが歩んで

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「キングダム」ラース・フォン・トリアーに恋して

「キングダム」ラース・フォン・トリアーに恋して

推しの諏訪部順一さんが少し前にポストされていた11月にWOWOWで完全放送されるという『キングダム』シリーズ。
ラース・フォン・トリアー監督が手掛けたデンマークのTVドラマ。
無知なわたしも北欧の鬼才と呼ばれるこの監督の名前と作品はちょっとだけ知っていて、「ダンサー・インザ・ダーク」で打ちのめされて、「メランコリア」で好きかもと思いつつそれ以上踏み込んでいない世界だった。
推しのポストで俄然興味が

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推しと出会わせてくれたもの

推しと出会わせてくれたもの

この企画、いくつも投稿していいのかな。
でも今のわたしは書かずにいられない。
「テニスの王子様」
この作品はわたしの人生になくてはならないものだ。あまりに好きで安易に触れたり発言できなかったりもする。
2002年の3月13日の夜。
テレビから流れた跡部様の声に心を奪われた。
わたしは夕食の支度をしていた。
2DKのアパート、狭いキッチンで麻婆豆腐を作っていた。
水曜の夜7時はテニスの王子様と決まっ

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ロンハールーム

ロンハールーム

ラジオ関西で毎週土曜の夜24時から放送中の番組『ロンハールーム』
「ロング」こと石川英郎さんと「ハード」こと諏訪部順一さんのコンビがパーソナリティを務めるラジオ番組。
2007年4月にスタートし、当初は『工口x工口(こうぐちこうぐち)』という番組名。
わたしはまだリスナー5年目だけど、生活になくてはならない存在となっている。
ノンスポンサーで16年続くラジオ番組って凄くない!?
ロングさんとハード

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ブロンズの神様

ブロンズの神様

振り返ると、あの人との会話で一番多く交わされた言葉は「さみしい」だと思う。

「さみしいね」

「さみしくなるね」

「さみしいこと言うなよ」

ふたりを繋いでいたのは欠けた感情だったのだ。

町外れのプラネタリウムに彼はいた。
館長のサポートをしたり、事務所で後方業務をしている姿をよく見かけた。
私はそのプラネタリウムにパンを届けるのが日課だった。
「天使の頬」というやわらかな白いパンはプラネタ

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時を超えた贈りもの

時を超えた贈りもの

先日、森永製菓さんによる森永ビスケット名作朗読キャンペーンが展開された。
3年ほど前にも推しの諏訪部順一さんのAR朗読劇を楽しめる企画があったが、今回も諏訪部さんご参加ということで、張り切って仕事帰りにビスケット探しの旅へ出た。
各パッケージ、種類ごとに異なる1作品をパッケージ側面のQRコードをスマホで読み取ることでシークレット1種類を含めた全8作品の名作朗読劇場を鑑賞できるのだ。
諏訪部さんが参

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