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夏の追想

砂浜の熱さを足裏に感じるのはどれほどぶりだろう。
指の間に入り込む砂粒さえ心地良い。
潮風が頬や耳をくすぐる。
でも日光にはあまり長く当たれない。

夏に生まれたのに陽に弱い。
幼少期の写真を見ると、皮膚科で出された乾くと白くなる薬をしょっちゅうそこかしこに塗られている。
今でも塗り薬は手放せない。

今日は八月の海を見たくて車を走らせた。
車内BGMはTHE ALFEEのアルバム『FOR YOUR LOVE』
景色が海に近づくにつれ、『真夏のストレンジャー』が言葉にできない切なさを募らせる。
この曲を初めて聴いたのは何歳の頃だったか。
歌詞の意味もわからないほど幼かったのはたしかだ。
この曲に限らず、THE ALFEEの楽曲は年齢とともに歌詞の意味を知ったり、受け止め方が変化していくことに気づいた。
それほど人生の折々に彼らはいるのだと思う。

打ち寄せる白い波を眺めていると、かつて流されそうになったサンダルを思い出す。
陽にかざすとキラキラ光る少女の心を惑わすラバーサンダル。
長く歩いていると指が痛くなるそれを幼い日に波に攫われた。
日が翳る夕方の海は人もまばらで、波音がやけに耳に響いた。
一緒にいた従兄は気づいてくれず、たまたま通りかかった同級生の男子が交差する波に怯むことなくじゃぶじゃぶと入って拾ってくれた。
その様子を見た従兄は「気をつけな」とだけ言った。
わたしは履きかけたサンダルを、波に向かって投げたくなるのを堪えた。
あの時の、足の指先に絡まる海水の冷たさは忘れられない。

月日は流れ、置き去りにしてきた幼いわたしも
砂と一緒にすくう。
夏はまやかしだ。
血をたぎらせたり冷めさせたり、恋しくさせたり淋しくさせたり。
男も女もわがままだ。
汗ばむ気だるい時間が体にまとわりつく。
刹那の感覚を『真夏のストレンジャー』は呼び起こさせる。

#夏の1コマ

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