見出し画像

『近畿地方のある場所について』感想

『おやまにきませんか。かきもあります』

SNSでこの広告を目にした時、心と体がとらわれた気がした。
山あいと思われる鬱蒼とした木々にひらがなのキャッチコピー。

強烈に惹かれた。
山や柿が好きだからではない。
むしろ苦手なほうだ。
でも、既視感があった。
懐かしさすら覚える景色。

それが、背筋さん著『近畿地方のある場所について』だった。
本屋さんに行くたび、面陳されたり平積みされた目を引く装丁。
気になって仕方なかった。

周りの読み終えた方たちに感想を訊ねると、一様に「凄く怖かった。夢に出そう」
と言う。
そして必ず「読んでみて」と。

冷たくなっていく指先で、ページをめくるのがやめられなかった。
体温は下がっていくのに、散りばめられた怪異が繋がっていく高揚感。
ラストで帯の言葉と装丁の赤色の意味に気づき、全身が凍りついたと同時にひどく興奮した。
ネタバレは避けたいので具体的なことは伏せておく。
ただ、言えるのは著者の背筋さんにやられたということ。

記憶が紊乱する。

下校途中、わざと通学路を外れて脇道に入ると急に日が暮れて聞こえてきた鈴の音。

遠縁の親戚の家に連れて行かれ、知らないおばあさんの遺影を見ながら仏壇に手を合わせた時のお線香の匂い。

団地に住む従兄と、ベランダから水風船を落とす秘密の遊びに仄暗い気持ちになった日。

幼少期のざわめく思い出をわざわざ呼び起こされる。
もしかしたら、既に迷い道のどこかでもう●●●●●に片足を踏み入れていたのかもしれない。

未読の方は絶対読んでほしい。

この感想を読んでくださったあなたへもわたしから…

見つけてくださってありがとうございます。

#近畿地方のある場所について

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?