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ブロンズの神様

振り返ると、あの人との会話で一番多く交わされた言葉は「さみしい」だと思う。

「さみしいね」

「さみしくなるね」

「さみしいこと言うなよ」

ふたりを繋いでいたのは欠けた感情だったのだ。

町外れのプラネタリウムに彼はいた。
館長のサポートをしたり、事務所で後方業務をしている姿をよく見かけた。
私はそのプラネタリウムにパンを届けるのが日課だった。
「天使の頬」というやわらかな白いパンはプラネタリウムの職員たちのお気に入りだった。

今から20年前、外国の惑星防衛調整局より新たに発見された小惑星が木星の引力に引き寄せられて地球に衝突するかもしれないと発表された。
木星はこの星を守ってくれていると思っていたのに。
世界中の偉い人たちは、軌道変更させようとしたり巨大なシェルターを創造しているようだが、私たち市民は日々粛々と過ごしている。

「死ぬ時はみんな一緒さ」
やわらかなパンを片手に彼は言った。
「それでも怖いわ。きっと」
「痛いのは一瞬だよ」
事もなげに微笑む顔を、私はまぶしく見つめた。

つづく

#小説

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