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生育

あの人の年齢から自分の年齢を引く。
23歳。
十分、父子としてあり得るわけだ。
叔父というのは嘘だろうと、子どもの頃から感じていた。
そして、時々思い出したように会いに来るあの人をわたしは大嫌いで大好きだった。

祖母が鬼籍に入って、わたしは世界から取り残されたようなこの村で日々を過ごす。
もう、母は誰なのかとか、父と名乗りながら幼いわたしを置いてさっさと別に家庭をつくってしまった人などはどうでもいい。
祖母の葬儀で再会した時も思い出せないような人の顔はとうに捨てた。

わたしにとって、男性は叔父という立場でたまに会いに来るあの人ひとりだ。
唯一、わたしを甘やかしてくれる人。
庭から聴こえてきた車の停車音に、急いで鏡の前に立ち櫛で髪を梳かす。

夜に落ちて、久しぶりに生温かさに包まれる。
壁に映る影が揺れ、窓から満月がわたしたちを冷たく見つめていた。
部屋に充満する懐かしい匂い。
こんなにも近いのに、わたしのものではない。

「お…」
何度も呼んでみようとしたが、呪いの言葉になりそうでやめた。
これ以上の血の繋がりを求めるのはとても罪深い。
この業の深さを、終わりにする。

これからも一緒にいたかった。
人目を憚らずとなりに並んで歩きたかった。
その声で「いい子だね」ともっと言われたかった。
その長い指で優しく触れられるのが嬉しかった。

褥はいつもより温かい液体で満ちていく。
愛しい寝息は聞こえない。
わたしは、もう淋しくならないほうを選んで真紅の海に沈むのだ。

#ショートショート
#ホラー

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