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三文小説(短編・掌編)

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記事一覧

【掌編】七夕心中

ねぇ、もうそんなこと気にしないで私たちのことだけを考えましょうよ。
織姫は僕の手を握って俯いている。

天帝の命令から14日目、僕達は明日からお互いの姿すら見えない天の川の対岸に引き離される。

織姫は、僕に駆け落ちしようと言うのだ。

1年に1度7月7日の夜にだけ逢える、これは愛し合う僕らには耐え難い事だった。愛にかまけた罪と罰。愛の罪は愛で償わされるのだ。

天帝の命令になんて逆らえない。僕は

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【掌編】炭の香りと雨の音

この店に通うようになって2年はたっただろうか。もうあたしがいても不思議じゃなくなったのだと思う。

あんまり騒がしいのが好きじゃないから雨の日の暇なこの店と、暇そうに煙草をふかしている大将が好きだ。

決して綺麗でお洒落とは言えないこの店にあたしは一種の美学を感じている。馴染みの人々との取り留めのない会話は1人メンバーが変われば流れが変わる。同じ話の内容にはならない。

これはあたしが思う、うつく

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【短編】金のうんこをだす犬

私の家には犬がいる。

めちゃくちゃうんこをする。食べた量の倍はしてるように見える。

私はいつも、「あ、また気張ってる…」と眺めているだけだけど、お母さんは「あんた!またうんこして!一日何回したら気が済むの!」って言ってる。

犬は「なんか、すみません。でも出ちゃうから…」って顔してる。

そりゃそうだわな。自然の摂理だし、なんも恥じることなんかない。

うちにいる犬というのは犬のくせに愛嬌はな

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