【掌編】炭の香りと雨の音

この店に通うようになって2年はたっただろうか。もうあたしがいても不思議じゃなくなったのだと思う。

あんまり騒がしいのが好きじゃないから雨の日の暇なこの店と、暇そうに煙草をふかしている大将が好きだ。

決して綺麗でお洒落とは言えないこの店にあたしは一種の美学を感じている。馴染みの人々との取り留めのない会話は1人メンバーが変われば流れが変わる。同じ話の内容にはならない。

これはあたしが思う、うつくしいものである。

辛くても悲しくてもお疲れ様と受け入れてくれるこの店にあたしは何度も背中を押されてきた。

それ以上にあたしがこの店に来る意味は「彼」であった。彼はあたしの気持ちに気づいていなかったなんてとぼけるけれど、今ではこの店以外でも会える男女の仲になれたのだからそんなことどうでもいい。

あたしは、だいぶ年上の彼の過去も今の生き方もそっとより添えればいいと今はただ思ってる。将来とか未来とか大それたことは考えていない。

今はこの幸せの甘い蜜の中にぷかぁっと浮いていれればそれでいい。

この店でもあたしはたくさんの祝福とからかいを受けた。それも甘い蜜のうちなんだろう。

あたしだって褒められたような生き方はしてきていない。ふわふわと何となく男の子とくっついてみたり離れてみたりした。当時の彼氏を裏切ったこともあった。

そんな、あたしの過去もこの店で話してたから彼は理解した上で好きでいてくれてるんだからこれ以上の幸せはない。

最近彼と飲むいつもチューハイがちょっぴり甘く感じて飲みすぎる。

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