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生活すること

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生きるって何だろう?それは生活することなのではないだろうか────30才で伊東市にある海の街へ移住して感じたことを書いています。
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#今こんな気分

言葉になる前の音に耳を傾けながら

言葉になる前の音に耳を傾けながら

カーカーカーというカラスの鳴き声で目が覚めた。時計を見ると朝6時前。ここ最近は目覚ましの音ではなく、朝日と共に鳴き始めるカラスの声で起きることが多い。お前はニワトリか!二度寝しようと思っても、スヌーズみたいに何回も繰り返すもんだから目が覚めてしまう。でも、目覚ましの音でびっくりして起きた時のような不快感はない。自然界の音だからかな。伊東に来てからは、自然の音に耳を傾けることが多くなった。特に文章を

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天国に生まれた私たちは

天国に生まれた私たちは

家にいながら好きな時間にドラマや映画を楽しめる。本を読まなくてもYouTubeで誰かが分かりやすく解説してくれている。お店に行かなくてもネットで注文すれば次の日には欲しいものが届く。どんなに遠い世界の果てでも写真や動画で見ることができる。お店の口コミを調べればハズレを引くリスクを下げられる。100円均一でだいたいの生活用品は揃えられる。500円払えばおいしい牛丼を食べられる。スマホを開けばすぐに誰

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深く息を吸い込めば

深く息を吸い込めば

東京から帰宅。伊東の駅へ降り立った時、引っ越してきたという新鮮さよりも、帰ってきたという安心感が沸くようになってきた。まろやかな伊豆の空気を身体へ取り込もうと、いつもより大きく深呼吸をする。ふと思えば、意識して呼吸をすることが増えた。やっぱり排気ガスにまみれた空気よりも、自然の香りがする空気を取り込みたい。躁鬱が酷かった時、知り合いに呼吸の仕方を教えてもらったことがあり、ゆっくり深く呼吸をすること

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無敵ではない人

無敵ではない人

風景画展が始まり、少し慌ただしい日常を送っていた。お店での搬入作業をし、初日ではたくさんの方が来てくれて、テレビの取材も2本受けた。そして私は今、鬱に入って動けなくなっている。スマホの今月のギガ数が足りなくなるみたいに、キャパオーバーになってしまっているようだ。以前までは波があるのを隠していたから、側からしたら上手くいっている部分しか見えず、無敵な人に思われていた節がある。移住して1年も経たないう

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美しいものたち

美しいものたち

この世界は美しい。美しすぎて、時折辛くなる。私が思う美しさとは変わりゆくものであり、必ず終わりがあるものである。だからその瞬間に切り取り、作品にして分離させることでその状態を保管している。この文章も私から切り取って、今の私を保管している。初めから変わらないものであるなら、わざわざ切り取って保管しておく必要はない。つまり時折辛くなるのは、美しさに共存している変わりゆく切なさや、寂しさや、喪失を同時に

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流されていく

流されていく

私は自分で決めることがとても大事な人間だった。そう、過去形になっている。今はなるべく自分で決めないようにしている。その方が面白いことがたくさん起きるのを知ったからだ。

大統領には毎日着る服を決めてくれる専門の人がついているらしく、それは他にもっと重要な選択をしなければならないからいちいち服なんて選んでいられないからだそうだ。私たちは服のように、日常の中でたくさんの選択をしている。何を食べよう、ど

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循環させていく

循環させていく

私の生活は至って平凡だ。朝起きて、コーヒーを飲んで、掃除洗濯をして、制作をして、ご飯を食べて、買い物へ行って、途中で海を見たりして、ご近所さんと話して、またご飯を食べて、夜眠る。昨年の12月にこの街へ引っ越してきてから、これらを繰り返している。そうしているうちに私は、唐突に理解し始めたことがある。「全は個にして、個は全なり、個は弧にあらず」という言葉の意味を。急に難しいことを言い出してどうしちゃっ

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寄り道

寄り道

朝一にバス停でバスを待っていた。山は霧がかり、神秘的な姿をしている。漁港ではせりが行われているのかたくさんの人が集まり、何やら掛け声が聞こえてくる。その上には鳥たちが群がり、魚を狙っている様子。そんな風景を見ながら楽しんでいるが、一向にバスが来ない。ちゃんと調べてきたのに。バス停に貼られている時刻表を見ると、乗る予定の時刻のバスはなかった。どうやら時間が変わったらしい。ただでさえ少ないバスの本数が

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私は私になった

私は私になった

最近私は私になったと感じている。これだけだと意味不明だろう。私はずっと私ではない何かになろうとしていた。それは多分、理想の自分みたいなもので、近づこうと努力して、磨いて、戦って、負けず嫌いだから悔しさもバネにしたりして、なりたかった自分になれた時もある。でもなぜかコレじゃない感があった。行きたかった喫茶店に行けたのに、肝心のコーヒーの味は好みじゃなかったみたいな感じ。嘘をついていたわけではない。本

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言葉の限界

言葉の限界

私は今、堤防の上に寝そべって青空を眺めながら文章を書いている。宇宙まで見えそうなくらいに透き通る空、浜辺に打ち寄せる波の音、カモメの鳴き声、135を走り抜けて行く車の音、時折り強めに吹く冷たいような温かいような風、日没に近づき暑さが和らいだ太陽の光、釣りへ出かける人たちの会話、磯の香りは今日はあまりしない。たくさんの情報が身体のあらゆる感覚を通して伝わってくる。これらを言葉にするのはとても難しい。

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欲求がなくなると

欲求がなくなると

今の私は欲しいものが特にないという、自分でも不思議な状態にある。今日は干物を食べたいなとか、海を見に行きたいなとか、そうした日々の暮らしの中ではもちろんある。私が言っている欲しいものとは、もっと認められたい!とか、もっとこうなりたい!のような、承認や比較によって得られる欲求のことだ。矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、向上心はなくなっていない。絵を上手に描きたいとか、料理をおいしく作りたい

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私の海

私の海

今日は海岸の浜辺で文章を書いている。今朝はあまり穏やかな気持ちではなかったから、一通り作業を終わらせて海へ来た。そういう日はよくあるけれど、この街が私の心の補助をしてくれている。薬も本来ならば効果があるとされる量の半分で済んでいるのは、この街の存在がとても大きい。海の香り、風が肌に当たる感覚、山に生い茂る緑の色、空の透明度、鳥の鳴き声、太陽の温度、人々の会話。全てが一瞬で通り過ぎているようでも、そ

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自分に飽きた

自分に飽きた

どうして突然、風景画なんて描き始めたのかが気になっていた。今住んでいる街の美しさを伝えたかったり、坂口恭平さんのパステル画に影響されたりなど理由は色々ある。でも1番の理由は、自分に飽きたのだと思った。私は週刊少年ジャンプの連載漫画家になりたいと思った小学生の時からずっと、頭の中で物語を妄想していた。現実世界より、自分の中で作り出す世界観の方が楽しかったのだろう。だから日常生活の記憶はほとんどなく、

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豊かさについて

豊かさについて

今日も朝起きてから、真っ先にコーヒーを淹れる。マグカップはRustというお店で一目惚れしたもの。色や持った時の肌触りがよくて、少し高級感がある。だけど部屋のどこに置いても馴染み、かつ優美に存在する。お値段は2000円くらい。誰かへのプレゼントとして買うには相場で、自分用に買うには少し高く感じた。ずっと自分のグッズとして作ったマグカップを使っていたのもある。そもそも自分用のマグカップを買うという概念

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