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深く息を吸い込めば

東京から帰宅。伊東の駅へ降り立った時、引っ越してきたという新鮮さよりも、帰ってきたという安心感が沸くようになってきた。まろやかな伊豆の空気を身体へ取り込もうと、いつもより大きく深呼吸をする。ふと思えば、意識して呼吸をすることが増えた。やっぱり排気ガスにまみれた空気よりも、自然の香りがする空気を取り込みたい。躁鬱が酷かった時、知り合いに呼吸の仕方を教えてもらったことがあり、ゆっくり深く呼吸をすることが大事なのだと知った。自然と呼吸をしたくなる場所へ引き寄せられて、私はここへ来たのかもしれない。年中鼻炎にも襲われていたけれど、すっかり治ってしまった。

かわいいお出迎え。


とある用事で市役所へと向かう。自転車で新井の坂道を下っていくと、途中ですれ違うご近所さん。こんにちはー!と挨拶をした先でまたご近所さん。こんにちはー!と挨拶をした先でさらにまたご近所さん。坂道を下る最中だけで、4回ほど挨拶をした。挨拶をするのは気持ちがいい。私は知らない店員さんにも必ず挨拶をするのだけど、一緒にカフェへ行った友達に、何で挨拶するの?と聞かれたことがある。何度かアメリカへ行ったことで、知らない人と挨拶を交わすのは私の中では当たり前になり、挨拶っていいなと感じたため帰国してもそのままとなった。SNS上で交わす膨大なやり取りよりも、たった一言交わす挨拶の方が私の心は満たされる。私はすでに4回も心が満たされたことになり、今日は丸一日幸せな気持ちで過ごせると思う。単純すぎると思われるかもしれないけれど、自分を満たせる方法はできるだけ簡単な方が人生は楽しい。

市役所は山の上にあるため、自転車を降りて押しながら登っていく。ギアを一番軽くしてもなかなかキツイ傾斜具合。押している自転車が自分へ重くのしかかる。電動自転車に乗った人が軽やかに通り過ぎていった。息を切らしながらも、私はこの大変さが苦痛ではない。むしろ楽しんでいる。後ろを振り返ると、街の向こう側に海が覗き始めていた。坂道を登った者だけが見られる特権だ。車やバイクに乗っていたら、こうして立ち止まって後ろを振り返ることは難しい。今の私の時間軸には、自転車くらいがちょうどいい。まあ来月にはバイクの免許を取るんだけどね。駐輪場にはバイクしか停まっておらず、だよねーと笑った。


夕方になり、急いで干物屋さんへと駆け込む。干物のストックがなくなると困る生活になった。1日1干物生活。最近は忙しいのー?なんておじさんに聞かれながら干物を買い込む。空はだんだんと淡いピンク色に染まり始めていた。まだ間に合うかもしれないと思い、急いで帰って家に自転車を置き、脇道から高台へと登る。ここは街と海と山を一望できる、私のお気に入りスポットの一つだ。空は淡いピンクから濃いピンクへと染まっていき、なんとも幻想的な景色を演出している。ほんの10分程度の出来事。この景色は今後もう二度と見ることはできず、今この一瞬にしか見られないからこその美しさ。焼きつける度に自分もその一瞬であることを理解しながら、できるだけ今を美しく生きていきたいと思えるようになった。この街の日常風景は今日も美しい。

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