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生活すること

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生きるって何だろう?それは生活することなのではないだろうか────30才で伊東市にある海の街へ移住して感じたことを書いています。
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2023年4月の記事一覧

伝えること

伝えること

人は馬で移動しなくなって乗馬が趣味になったように、自分で考えて伝えることが趣味になるという話を聞いて腑に落ちてしまった。自分の頭で考えていることを、他人へ誤解のないように分かりやすく伝えるのは難しい。私は考えて伝えることは、人間だけに与えられた究極の嗜好品だと思っているのだけれど、どうやらそれすらも放棄しようとしているらしい。面倒くさい人間同士のやり取りをAIで早く終わらせて、摩擦のない円滑な世界

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坂道の散歩

坂道の散歩

午前中に作業を済ませて、散歩へ出かけた。最近は忙しくて、時間を気にせずフラフラできる日がなかったから、今日こそは!と朝から楽しみにしていた。散歩をするようになったのは、この街へ来てからだ。歩くと道を覚えるし、思いもよらない出会いがあったりするのが面白い。今の私にとって最高のエンターテイメントになっている。

今日は部屋の窓から見えている、海を挟んだ反対側の山を登ってみることにした。こちらから見えて

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言葉の限界

言葉の限界

私は今、堤防の上に寝そべって青空を眺めながら文章を書いている。宇宙まで見えそうなくらいに透き通る空、浜辺に打ち寄せる波の音、カモメの鳴き声、135を走り抜けて行く車の音、時折り強めに吹く冷たいような温かいような風、日没に近づき暑さが和らいだ太陽の光、釣りへ出かける人たちの会話、磯の香りは今日はあまりしない。たくさんの情報が身体のあらゆる感覚を通して伝わってくる。これらを言葉にするのはとても難しい。

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戻ってきた五感

戻ってきた五感

朝の5時前にふと目が覚めた。鳥たちの鳴き声が聞こえる。もう陽が昇るのか。鳥の鳴き声をBGMに二度寝した。泊まりに来る人たち皆んなが、鳥の鳴き声がすごいと言う。私は毎日聴いているから当たり前になりつつあるけれど、確かに最初の頃はアマゾンにでも引っ越してきたのかと思った。

ホントこんな感じに聞こえる。

この文章を書いているリビングからは、山に生えている木々が見える。窓の外が緑だなあと気付いたのは最

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欲求がなくなると

欲求がなくなると

今の私は欲しいものが特にないという、自分でも不思議な状態にある。今日は干物を食べたいなとか、海を見に行きたいなとか、そうした日々の暮らしの中ではもちろんある。私が言っている欲しいものとは、もっと認められたい!とか、もっとこうなりたい!のような、承認や比較によって得られる欲求のことだ。矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、向上心はなくなっていない。絵を上手に描きたいとか、料理をおいしく作りたい

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表現者

表現者

私は自分のことを根っからのミュージシャンだとは思っていない。音楽の魅力に取り憑かれてしまい、それがないと生きていけない人たちと比べると、私と音楽の間には距離があると感じる。イラストレーターやライターだともあまり思っていない。職業を説明する時に、どれかの名前に当てはめなければ伝わりにくいからとりあえず選んでいるような感覚で、プロフィールを話す度に自分は何者なのかについて考えてきた。時と場合によってや

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私の海

私の海

今日は海岸の浜辺で文章を書いている。今朝はあまり穏やかな気持ちではなかったから、一通り作業を終わらせて海へ来た。そういう日はよくあるけれど、この街が私の心の補助をしてくれている。薬も本来ならば効果があるとされる量の半分で済んでいるのは、この街の存在がとても大きい。海の香り、風が肌に当たる感覚、山に生い茂る緑の色、空の透明度、鳥の鳴き声、太陽の温度、人々の会話。全てが一瞬で通り過ぎているようでも、そ

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一人が好きなのは悪いことじゃない

一人が好きなのは悪いことじゃない

一人の時間が好きだ。一人でいることを寂しいと感じない。流石に山奥で仙人のように籠っていたら寂しさを感じるのかもしれないけど、必要最低限の社会との繋がりがあれば充分だと思ってしまう。挨拶を交わす干物屋さんや八百屋さんがいて、世間話をするご近所さんがいて、たまに泊まりに来たりお茶したりする友達がいて、すぐに連絡できる家族がいて、遠く離れていてもSNSを通して繋がってくれている人たちがいて、今こうして書

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買えない幸せ

買えない幸せ

朝の5時半頃にふと目が覚める。日が昇り、障子に光が当たって部屋が明るくなり始めていた。以前よりも日の出が早くなってきている。寝ていても、瞼越しに朝日を感じられる人間の体はよくできている。いつもならここで二度寝するのだけれど、前日は絶不調で一日中寝ていたから起きることにした。街はまだ寝静まり、鳥たちと私だけが起きている。いや、近くの漁港は仕事の真っ最中か。この世界が始まる前みたいな時間が好き。本当は

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自分に飽きた

自分に飽きた

どうして突然、風景画なんて描き始めたのかが気になっていた。今住んでいる街の美しさを伝えたかったり、坂口恭平さんのパステル画に影響されたりなど理由は色々ある。でも1番の理由は、自分に飽きたのだと思った。私は週刊少年ジャンプの連載漫画家になりたいと思った小学生の時からずっと、頭の中で物語を妄想していた。現実世界より、自分の中で作り出す世界観の方が楽しかったのだろう。だから日常生活の記憶はほとんどなく、

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作り続ける一日

作り続ける一日

朝起きると、昨日から降っていた雨は止んでいた。でも風がすごい。この街には、時たま台風みたいな強い風が吹く日がある。引っ越して初めてこの風を体験した時は、少し怖くて夜が眠れなかった。今はどんなに強風でも爆睡している。前日は雨で買い物に行けなかったから今日は行きたいのだけど、この風の中でクロスバイクを漕ぐと吹っ飛ばされてしまう。それくらいの強風。買い物のことは後で考えよう。いつものようにキッチンをデフ

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日常生活をデザインしていく

日常生活をデザインしていく

朝起きて、コーヒーを淹れる。昨晩から乾かしておいた皿をしまって、キッチンをデフォルトに戻す。リビングでコーヒーを飲みながら文章を書いて、観葉植物の世話をする。洗濯をしたら、午前中いっぱいは作業をして、お昼ご飯を作って食べる。私の朝のルーティーンはこんな感じだ。この間に手に触れる物、目に入る物はたくさんある。コーヒーを淹れる時はマグカップやドリッパー、キッチンでは料理に使う道具や盛り付けるための皿、

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落ち着く場所はいつもシンプル

落ち着く場所はいつもシンプル

一泊二日の東京だった。人の多さに「うわあ…早く帰りたい…」と着いた瞬間に思った。人混みへの耐性がどんどんなくなってきている。病院へ行って、現状報告や今後のことを話し、診療は毎回2分ほどで終わる。カップラーメンより短いこのやり取りに意味はあるのだろうか。医者は患者の話だけで判断して、薬を増やすか減らすかしかできない。結局は自分がどうしたいかだ。医者が診断しているようでも、その診断結果を選択しているの

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成功と失敗

成功と失敗

初めて行った東京の美容院で、最近海の街へ引っ越した話になった。すると美容師さんが、「後悔はしていないですか?」と不思議な質問をしてきた。「後悔」って何だっけ?全く頭になかったその言葉の意味を改めて考える。後悔とはこんなはずではなかったとか、もっとこうなってほしかったみたいに、予定調和が狂った時に生まれる感情だ。私より年下の26歳の美容師さんは、どうやら東京から地元へ帰るのを迷っていて、何かが変わっ

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