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買えない幸せ

朝の5時半頃にふと目が覚める。日が昇り、障子に光が当たって部屋が明るくなり始めていた。以前よりも日の出が早くなってきている。寝ていても、瞼越しに朝日を感じられる人間の体はよくできている。いつもならここで二度寝するのだけれど、前日は絶不調で一日中寝ていたから起きることにした。街はまだ寝静まり、鳥たちと私だけが起きている。いや、近くの漁港は仕事の真っ最中か。この世界が始まる前みたいな時間が好き。本当は毎日この時間に起きたいのだけど、そうなると21時には寝る必要があって、世の中との時間軸がズレすぎてしまうため悩ましいところだ。

いつものようにコーヒーを淹れて、キッチンをデフォルトに戻して、文章を書く。普段なら滑るように書き進められるのに、時間帯が違うからなのか上手くまとまらない。まとまらなかったけど、とりあえず完成させてアップしたらなかなかのリアクションが付いていたから、やっぱり自分の評価はあてにならないと思った。私のこの文章は作品を完成させて、自分的に良くても悪くても世の中へリリースさせるという練習にもなっている。自分がいいと思うものだけを信用しない練習だ。

書き終えた7時半は、いつもならコーヒーを淹れている時間。早起きはちょっと得した気分になれるからいい。気になっていたお風呂のカビ取りと布団乾燥機をかけながら、今日は作業部屋ではなく、気分を変えてリビングで作業することにした。部屋がいくつかあるのはメンタルにとてもいい。以前住んでいた1Kの部屋は、寝ても覚めても作業部屋で、最初は簡略化されていていいなと思っていたけれど、段々と作業に圧迫されているような感じがして、メンタルが疲弊していった。部屋が変わると、気持ちも切り替わってリセットしてくれる。午前中いっぱいは、前日寝ていた分の映像編集をリカバリーした。

干物屋さんへ頼まれているメニューデザイン用の写真を取りに行く約束を思い出して、午後は買い物へ出かけた。一昨日ほどの強風ではないけれど、今日もまだ風が強い。陸地が晴れて暖まると、海との温度差で上昇気流が発生しやすくなるらしい。暖かくなったこれからの季節は、こんな日が多くなるのかもしれない。おもりが必要か…?スーパーへ行き、今夜の献立を考える。なんとなく白身魚のマリネを久しぶりに食べたくなり、もう一軒の新鮮な魚が売っているスーパーへ梯子。野菜が必要なら八百屋へ行ったり、献立によっては3軒梯子する日もある。もう一軒のスーパーへ行くと、白身魚がなかった。漁港の近くにあるこのスーパーは、朝に獲れた魚を置いていて、今朝はマンボウとブリがたくさん獲れたようだった。アメリカ産の真ダラもあったけど、この街でわざわざアメリカ産を買うのもなんか違う。予定変更で、天然ブリにすることにした。

干物屋さんへ行くと、写真忘れちゃった〜と笑顔で言うおじさん。忘れちゃいましたか〜と私も笑った。急ぎでもないからまた取りに来ますと言うと、今朝そこで獲れたやつを干したら一日で乾いちゃったからあげるよと、カタクチイワシをもらった。もはや何も買っていないのにただ貰うだけになってしまい、今ある干物を食べ切ったらまたすぐ買いに来ますと伝えた。レジ横にはプレゼントした絵が飾ってあった。この干物屋さんとは、お金を介さない新しい関係ができてきている。

夜は天然ブリを照り焼きにした。肉厚すぎて、少し蓋をして蒸す。ついでに買ったお花も飾り、部屋が少し華やかになる。160円の天然ブリと、250円のお花で感じられる小さな幸せ。幸せはお金で買えるけど、買えないものもたくさんある。今夜の献立を考えながら食材を探す時間と、干物屋さんと笑い合えるようになるまでの関係性と、お花を愛でる余裕のある気持ちと、この文章を書く楽しみはお金では買えない。ここには幸せの本質がある気がしている。

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