記事一覧
野良犬どもの六本木(まち) (小説
(一)
窓に網を貼った警察車両とパトカーが二台ずつ、六本木三丁目の吹き溜まりにゆっくりと進入してきた。サイレンは鳴らしていない。赤色灯が瞬いているだけだ。
早朝だった。辺りには外国人向けのBARやクラブが多い。吹き溜まりのあちこちで帰りそびれた若い酔っ払いがたむろし、また採り過ぎたアルコールを吐き出していた。
陽はまだ昇り切っていない。空気は青味がかっている
水死体運搬船タイタニック (エッセイ)
海の男。
うーむ、憧れる。響きからしてカッコいい。その言葉から連想されるのはやはり船乗りだろうか。しかし一口に船といっても様々な物がある。客船もあれば貨物船もあり、巡視船もあればクルーザーだってあるわけだ。
その中でも最もタフでダンディズム溢れる存在が漁船であり、またそれを駆る漁師なのだと思う。荒れ狂う大海原へと船を出し、捩じり鉢巻きを頭に大物を次々と釣り上げ、船に掲揚した大漁旗を翻しつつ港へと戻
神の子、許されざり (小説)
1
衝立の向こうで扉の開く音がした。会話のため、無数の小さな穴を開けられているが、相手の姿は見て取れない。体臭が鼻を衝く。風呂に入っていないようだ。罪の告白か人生相談に訪れたこの相手は浮浪者か、それに近い人種だろうと武藤は見当をつけた。
「どうされました、今日は」
椅子に座り、静かに訊いた。衝立越しに、相手の落ち着かない気配が伝わってくる。体の微細な動きが止まらないらしい。薬物中毒者でもあ