我が『口笛SF短編小説』の創作スタンス(作品の整理&執筆の裏話など)
本年も何とか〈星新一賞〉に投稿できました。これで5年連続。そして今年からはnoteを始めたことで、過去作品を他の方々にも読んで頂けるようになり、同じく文芸に取組む方々から様々な刺激と教示を受けながら〈note創作大賞〉にも挑戦できました。
そこで今、次なる5年へ向け「形になった作品,辿り着いた世界観,今後の方向性」を纏めておこう!と思った次第。共に執筆に励む皆さまへも、遅ればせながらの自己紹介になれば幸いです。
また、口笛吹きとして今後、各作品に合うBGMを演奏したいと考えておりまして、手始めにVasundyの『裸の勇者』を吹いてみました。TVアニメ『王様ランキング』OPテーマでもあるこの曲と、私が執筆を通じて辿り着いた世界観が、とても良く合うと思いましたので。読みながらお楽しみ下さいませ。
星新一賞に応募を始めた動機
では、そもそもなぜ〈星新一賞〉に取組んだのか?…からお話しましょう。2019年はちょうど、私が医療の会社で事業開発を始めた時期でした。先日の記事でも書いた通り、私は以前、VC(ベンチャーキャピタリスト)から起業を経験し、その頃から「0→1の事業創造」が自分の生業と決めていたので、私が社内で勝手に事業開発を始めた所、その成果に驚いた経営がいつしか追認してくれたのです。そうして「医療X〇〇」で事業シナジーを生むぞ!と周辺分野を探すうち、そこで出会う多様な新技術が生み出す未来を、勝手に妄想するようになりました。
ちなみに私は、大学は文系なれど、VCを目指してMBAではEntrepreneurship(起業家精神)を専攻したので、技術の概略は理解できましたし、何よりそれで世の中がどう変わるかを予測し、金銭価値に換算して投資をしていたので、その先(50年後?)の未来をもっと詳しく描いてみたくなり、星新一賞に投稿するようになりました。
2019年:『バードマン』
で2019年、人生で最初に書いた小説が『バードマン~陽の当らぬ場所で口笛を』。口笛で会話しバディとなった男と雌カラスが、敵対的買収(M&A)阻止に動く物語(原版はこちらでお読み頂けます)。ちなみに理系文学的な要素としては【口笛で鳥と意思疎通する原理】を詳しく描き,他にも【VRによるゲーミフィケーション】【カラスによる地震予知】等を盛り込みました。なおこの話は、後に加筆修正し〈2023年創作大賞/漫画原作部門〉第2話としても掲載しています。
2020年:『ジェントルマン』
翌2020年に書いた『ジェントルマン~国籍不明の科学者ギルド』は、私が人生で大切に想う理念を(当時は意識しませんでしたが)色濃く反映した世界観を描けたので、〈2023年創作大賞/漫画原作部門〉の応募で、基軸(第1話)に据えた物語です。
インドにいるリアルな口笛仲間から連想した科学者が、秘密結社に巻き込まれてゆく展開で、誰もが無理と諦める核廃絶に挑んで貰いました。私がこの話に込めたのは「多数決と金の論理に歪められた科学が、“ある理念”の下に復権を果たす」という希望で、その“理念”の象徴が「ジェントルマン」、つまり札幌農学校で唯一の校則「紳士たれ」でした。
なお理系文学的な要素は【ギルドの運営方法や作中論文】に沢山盛り込み、1万字という制約の中で、様々なスピンオフに繋がる伏線を埋め込んだ構成になっています。また、2作続けて口笛を物語の重要な要素として描けたので「口笛SF短編小説」なる独自ジャンル創設にこだわり始めたのもこの頃でした。
2021年:『アバターもええ公方』
続く2021年は、完全在宅で引き籠っていましたが、むしろクラブハウス等のSNSを通じて飛躍的に交友関係を広げていました。そんな中で考えていたのが「顔も本名も知らない状況で生まれる信頼関係」というテーマ。
ちょうどこの頃から、素顔を明かさないアーチスト「ずっと真夜中でいいのに。」にハマったこともあり、【アバター】【認証】に注目して書いた作品が『アバターもええ公方~離れる程に濃くなる自己』でした。形式的には「ほぼ会話のみで展開する日記風小説」を試し、後に加筆修正を経てこんな物語になりました。
ちなみに今年、この頃に知り合い仕事上も深いご縁を結んだ方が亡くなり、ご遺族からは私に志を継いで欲しいと望まれました。本名は知っているが面識のない状況であっても、ここまでの信頼関係が生まれるのか!と、より思い入れが深まった作品です。
2022年:『人間展開』
昨2022年は、ウクライナで本当の戦争が始まったことに大きな衝撃を受け、未だ収束せぬ新型コロナと併せ、覇権主義が途上国に支持を広げる様子から、南北問題に想いを馳せて書いたのが『人間展開~Expand Humanity』でした。
題名から少し〈呪術廻戦〉の影響も伺えますね。でも呪いではなく【鳥型ロボット】で南北問題に挑む物語です。また領域展開でなく「人間以外の何かへ人間性を展開する」という発想で描きました。
これは後に加筆修正して〈2023年創作大賞/漫画原作部門〉第3話になりますが、その間にサッカーW杯があったので、息子の影響もあってプレミアリーグにハマり、三苫薫選手と息子を合体させたような人物を追加し、舞台も英国になっています。
2023年:『犯人はスイミー?』
そして今年2023年、投稿を終えたばかりの作品は、結果が出るまで公表できませんから先のお楽しみとして、代わりに今年〈創作大賞/ミステリー部門〉に書き下ろした作品の話をしましょう。
『犯人はスイミー?』という3部作で、『人間展開』の最後で仄めかせた主人公の死を、ミステリーに仕立てた作品です。テーマとしては「国を憎んで人を憎まず」「罪を憎んで人を憎まず」という物語を書こうと思ったら、戦争下にあるロシアの辺境(サハ共和国)と日本・英国を舞台とした壮大な話に仕上がり本人もびっくり!星新一賞と違い字数制限がないので筆に任せるまま書いた結果、よく言う「登場人物がひとりでに動き出し」たり「登場人物と酒を酌み交わす」感覚が何となく分かった気がします。
また、この話では口笛と口琴が重要な役割を果たすので、いつか作品のBGMを口笛演奏でnoteに載せてみようか…という新たなアイデアも湧いてきました。冒頭にBGM口笛を載せたのは、そんな着想からです。
作品に反映された世界観
以上が、これまでに書いてきた私の作品たちです。毎回その年に起きた出来事や、仕事でふれた新技術を使って、個々に独立した物語を書いてきたつもりでしたが、上述の通り、今年の創作大賞に取組んだのをきっかけに、私の中にある世界観が、どの作品にも共通して反映されていることに気づきました。
それは【世の中が複雑化し専門分化を深める中で権力が無責任化し、信頼の喪失に歯止めがかからない現代…そんな中で如何に権力に伴う責任(ノブレス・オブリージュ)を後世に継承し、世界に信頼を回復することが出来るか?】を描くキャンバスが小説。
私の創作は全て、この課題に対する答えを表現するもがき…と言っても過言ではありません。その象徴が『ジェントルメン(紳士たれ)』なのです。
今後の創作へ向けて
なので当面は謎の科学者ギルド『ジェントルメン』に関わる人物たちを増やし、彼らの活躍を描き続けたい。実は『犯人はスイミー?』もジェントルメンシリーズですからね(今のところ、この世界観から外れるのは『アバターもええ公方』だけ!)。…などと言いながら、ある日しれっと、全く違う世界観を描いてたりするかもしれませんが、その時はまたこうして、立ち止まって整理をしているのでしょう。作家というのは、そうして次々自分の殻をぶち破る度に成長してゆくモノだと思うので、どうか大目に見て下さいませ。
ただ課題として、これまでは私が美しいと思う世界だけを描いてしまっているので、その対極の存在としての〈悪と腐敗〉を正面から描けていません。作家の仕事は、主人公をいかに苛め抜くか…だそうなので、私はまだ半人前だなあ。次作では、魅力的なダークヒーロー/ヒロインを描いてみたいです。
いろいろ苦悩もあるけれど、執筆は楽しいですね。難病(自己免疫疾患)を抱え、コロナがある限り行動が制限されてしまう私にとって、空想世界で何処へでも行けるのは無上の喜びです。また皆さんの世界観にふれるのも大いに刺激となります。引き続きここで皆さんと切磋琢磨できればと思いますので、ぜひ忌憚なきご感想をコメント欄に寄せて下さい!では引き続き、どうか宜しくお願い致します。
(途中にも書きましたが)この記事のBGMとして、私の口笛をどうぞ。