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三苫薫選手で知った「“美しき”ブライトン」

美しいものを観ると、心が優しくなる。そして、心のそんな柔らかい部分を意識すると、自分の感性を誇らしく思えたりすることって、ありませんか?

私がそんなことを想ったのは、先日のプレミアリーグ「ブライトンvsマンチェスターシティ」を観戦した時です。双方の戦い方が本当に美しかったし、互いへの敬意に溢れた清々しい試合でした。但し断っておきますが、私は今年に入ってから息子の影響で観始めた"新参者"です。だからこの記事もそんなに深入りしませんので、警戒しなくていいですよ。サッカーについて専門的に語りたい訳ではなく、人が「美しい」と感じる瞬間について、少し考えてみたいと思ったのです。

その試合を、私が美しいとまで感じたのは、おそらくそこに「喜び」と「信頼」が溢れていたからだと思うのです。少し背景を補足すると、ブライトンは来季ヨーロッパリーグに出場権を得られるリーグ6位以内をほぼ手中にし、シティは既に今季のリーグ優勝(3連覇)を確定させて臨んでいました。そう聞くとむしろ、双方ともに消化試合と考えてもよさそうな状況ですが、そこに私が心震えた理由がありそうです。そう思って調べると、試合前の両監督の談話にヒントがありました。

【マンチェスターシティのジョゼップ(ペップ)・グアルディオラ監督】
「ブライトンは、ビルドアップで世界最高のチームだ」
「デ・ゼルビ監督は、過去20年間で最も影響力のある監督の1人だと確信している」
「彼らのようなプレーをするチームはない、唯一無二の存在だ」

【ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督】
「私は、彼(ペップ)がいたから監督になったんだ」
「彼の率いていたバルセロナが好きで、たくさん研究したからね」
「彼から多くを学んだ。ペップは今でもNo.1だ」

今季さらに、欧州チャンピオンズリーグと国内FAカップの3冠を狙うシティにとっては、優勝後の引締めと最終調整に願ってもない相手だったのでしょうし、ブライトンも引分け以上で6位を確定させたかっただけでなく、ペップに絶賛されたチームが今季の最強チームにどこまで通用するのか?…全力で試してみたかったのではないでしょうか。そんな両者の激突は(解説の鄭大世氏曰く)「プレーを褒める暇なく、次のハイライトが来る!」程の激闘でした。フルでご覧になれる方はぜひ!最高級のサッカーを堪能できますよ。

さらにここで、この試合をより美しくする“調味料”を加えてみましょう。それにはブライトンというチームを、もう少し詳しくご紹介する必要がありそうです。122年の歴史を持つも、その大半を3部リーグで過ごし、トップリーグでは昨年の9位が過去最高だったチーム。この事実と、先の(ペップ曰く)「世界最高のチーム」とのギャップを感じませんか?その理由は、球団の経営にありました。

2009年からオーナーになったトニー・ブルーム氏は、運任せの要素を排し、数学を応用することでプロのギャンブラーとして巨財を成した人物だそうです。2006年には統計学者やデータエンジニアを集め、世界中の選手データを収集し分析して、ギャンブルのアドバイスを行う会社を設立、これが業界のリーダーにまで成長し、選手獲得交渉における大きな武器になっていることで知られています。

このデータで世界中の才能に網を張り、誰よりも早く獲得、さらに必要に応じて傘下に収めたベルギートップチームで経験を積ませることで「潜在力ある選手を安く買い、育てて結果を出し、高く売る」ビジネスモデルを確立。三苫選手が一時期「市場価値が加入時の44倍になった!」と話題になりましたが、それだけでなく今季メンバーを揃えるのに要した移籍金総額で、ブライトンはリーグ20チーム中最少額。これはトップチームの1/9の予算で、6位チームと比べても1/4しかないそうです(YouTube「サッカーまとめ情報」より)。トップ6の牙城がいかに高く、そこに食い込んだことがどれほどの快挙か…少しは伝わりましたでしょうか?

スポーツは異なりますが、野球で2011年「マネー・ボール」として映画化(ブラッド・ピット主演)されたストーリーに似ていますね。私はこんな風に不利な状況を、知恵と工夫でひっくり返す展開が大好きなのです。そんなチームが、3連覇までした史上最強クラスの戦力と互角に戦った、そしてそこで日本の三苫薫選手が躍動した姿は、私の脳裏に永久保存されることでしょう。

ただそんな光景が際立つのは、一方で闇が拡がっているからかもしれない…と考えると憂鬱になります。審判による意図的な誤審・相手の負傷を狙ったプレー・人種差別など。勝つために自らの向上でなく、まず他人を貶め、足を引っ張ることを考える輩は居て、鍛えるよりも安易なので広まり易く、あたかもそれが必要悪のように開き直る言説まで散見されると、未来への希望すら失ってしまいそうです。

社会の匿名化が進む中、そうした悪意がますます広がりやすくなるのでは…と危惧する声があります。私も正直、時々全てを諦めてしまいそうになります。でも「善意だって負けずに、こうして繋がってゆくんだ!」と、ブライトンの試合を観る度に信じられるのです。そしてその中心に三苫選手がいる風景が誇らしく、そんな“真摯で紳士な姿勢”もまた強力に伝播してゆくのだと、歪みそうな心を整えて貰いました。そんな気持ちを、この記事で少しでもお裾分けできたら嬉しいです。

さて私、現在no+eの創作大賞(漫画原作部門)にエントリーしています。世界観としてはまさに述べてきた通り、「匿名だからこそ広がる善意」を描きました。「ジェントルメン」という秘密結社の名は、かつて札幌農学校で唯一の校則とされた「紳士たれ」に由来します。その科学者ギルドが、“知識の讃歌”を意味する古代インド聖典の名を持つ人物が邂逅、誰もが無理と諦める核兵器の廃絶に挑みます。まだ〆切まで間がありますので、よければお読み頂き、ご意見ご感想など頂けますと有難いです。

最後までお読み頂き、どうも有難うございました!
(三苫薫選手をモチーフにした人物も登場します)
「ジェントルメン」第1話:Gと呼ばれる国籍不明の科学者ギルド
「ジェントルメン」第2話:人間展開①~ギイチとクロエ
「ジェントルメン」第3話:人間展開②~レオナとカオル


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