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口笛SF短編小説②『アバターもええ公方』

(あらすじ)
高齢化
がピークを迎える2040年在宅ワーク先進国の日本では、ますます創造性付加価値が問われ、安易に“なりすます”輩を収監するバーチャル刑務所が整備されていた。そこで出会った2人が、口笛で創造性を発揮する方法に辿り着き、それが世に様々な影響を及ぼす。すると悪知恵を働かせる輩はいるもので、彼らを悪事に利用しようとするが…。この悪性疾病に2人がどう立ち向かうのか?そして、こうした悪とどう向き合ってゆくべきなのか?植物の成長と病気からの回復に例えて描きました。どうぞお楽しみください!

1.逮 捕!

A児は今日もひとり、週末に自炊した食材を楽しんでいた。鶏肉のトマトスープ煮込みがお気に入りで、それに多彩な炭水化物を投入し気分で味変。いつ終わるとも知れない在宅ワークを、基本このパターンで乗り切ってきた。特に不満はない。むしろ自分で全てをコントロールできる方が向いているのでは…とさえ思う。

「あぁよく食べた。さて今日はどんなニュースがあったかな。ロマさーん、教えて!」

声でTV画面を点けると、もうそこにTV番組はなく、個人作の動画ニュースで溢れていた。中でも彼が信頼を寄せるのは「露磨のHere we go!」チャンネル。「(気温の急変で発生する)露で(己を)磨く」という名の通り、社会的に大きなインパクトある報道が多く、しかもそこで「Here we go!」と宣言された内容は、ほぼ間違いがないという実績で信頼を築いた。最初は一人の記者が始めたが、今では多国籍で、多くの記者が共同運営しているそうだ。

「えー!また新感染症?今度はカラスから!もぉー次々と…止まらないね。これじゃあますます外出できないな。ロマさーん、今ってどのくらいの人が家で仕事しているの?」

「現在、在宅ワークは世界で60%、日本では75%になっています。」
TVから声がした。中性的な声で、水のゆるキャラみたいなアバターが喋っている。これは露磨の公式キャラクターで、生成AIにより自然な会話ができるのだ。

「おー!さすがオタクの母国。ちょっと誇らしいね。」
「いえ、それもありますが、日本が災害大国であることが主因かと。都市インフラが老朽化し過ぎて、自然災害で職場と家庭を分断されるのが日常茶飯事になってきましたので。」
「あー確かに。それと、数年前に大量死した交通事故も関係してるんじゃないの?」
「そうです。高齢者の暴走が死因の第1位になっても、進まない免許返納に業を煮やした子育て世代が、学校や職場を突き上げたことで一気に在宅が進みましたね。」

「そうするとさ、ロマさんみたいに取材力がある人とか創造性あふれる人はいいけど、俺みたいに凡庸な奴は困っちゃうんだよねー。何か良い手はありませぬか?」
「創造性とは生まれつきの才能ではありませぬ。人は誰しも違うのですから、A児さんも自分の感性を活かして何かを創造できるはずですよ。ただし…#$&*!」
「あれ?どうしたの。ロマさーん!え?なになに…刑務所ゆき!?逮捕されたの、俺。」

人同士の接触が減り、強盗・殺人等のリアルな犯罪が激減する一方、頑張ればできる類の仕事は次々とAIに奪われ、キャリアにますます創造性付加価値が求められるようになった現代。そこに自信を持てない人や自信を持とうとすらしない人々が、ネット上で“なりすまし”に走り、その数があまりに多いので取締りもAIに一任。つまり現実の刑務所では管理し切れなくなり、逮捕者はネット活動を強制遮断され、バーチャル刑務所システムへ収監されるようになっていた。


2.受 粉 (6月3日@バーチャル刑務所)

2040年6月3日 @とあるバーチャル刑務所
「そりゃお前、そんなんじゃ簡単にばれるよ。」
B作に思いっきり馬鹿にされた。こいつはなぜか俺にまとわりつく。

B「そもそも、なりすますアバターをどう選んだの?」
A「馬鹿にしてるのか?騙しやすい奴を選ぶに決まっているだろう。」
B「そこが分かってないのよ、お前は。だから捕まったの。」
A「じゃあ、お前はどうやった?」
B「そいつの近くにいて、時間をかけて理解する。趣味とか思考とか、そいつの人格で根幹を成す部分を探るのさ。すると不思議、向こうから近づいて来るんだ。」
A「なんで、そんな回りくどいことを…。」
B「だって、なりすましを取り締まるのはAIだぞ。それくらいしないと騙せないし。」
A「そうなんだ…。」
B「なに!?それも知らなかったの?…確かに、一般にはあまり知られてないのかもな。」

A「それで、成功したのかよ。」
B「なりすましには成功したんだがね。」
A「なんだよ、はっきりしねぇな。」
B「“私公誘導”で捕まった。」
A「私公誘導?なんだよ、それ。公私混同なら知ってるけど。」
B「お前、ホントに何も知らないんだな。読んで字のまま。アバター使って営業したのさ。」
A「ええっ!それも駄目なの?不勉強なんで、教えてくれる?」
B「いいよ。個々のアバターには人格があって、現実の人格を切り分けでもいいけど、一旦切り分けた人格を混同したらダメ。私と公を分けたら、相互に連携したらアウトなんだ。」

A「そうなんだ。でも営業ってお前、何の仕事してたの?」
B「ホスト。注意してたんだけどつい…ね。難しいよ、こういう仕事してると。」
A「そうなのか?それはよくわからんけど。で、どんな誘導したの?」
B「俺がなりすましたのは、人気芸人だった。それが無欲なやつでさ、俺のちょっとしたカマかけも、そいつのキャラからすると違和感だったらしくて。AIに取り締まられた。」
A「そんなに厳しいのか…うん、何となく自分の甘さが分かってきたぞ。」

A「で、お前これからどうするの?」
B「そうね。人間観察と真似は得意なんだけど、自分で何か新しいモノを創るのが苦手でさ。その点お前は間抜けだけど、独創性はありそうな気がする。ただの勘だけど。」
A「へー、なんでそう思う?」
B「うーん、自分本位で突き進むからかな。あんまり周りを見ないだろ。」
A「確かに、そういう所はあるかも。」
B「傍で見てて危なっかしいけど…なぁ、俺たちコンビ組まないか?相性いいと思うんだ。」


3.発 芽 (6月10日@バーチャル刑務所)

2040年6月10日 @とあるバーチャル刑務所
B「なぁ、お前の口笛いいね。その音色…好きだな。」
A「いきなり何だよ。こんなの誰でもするだろ。」
B「そうでもないぜ。吹けない奴もたくさんいる。それにお前、結構音域広いし。」
A「そうか?そんなの意識したことなかったけどな。」
B「聴いてりゃ分かるよ。それに速いフレーズも吹けるよな。どうやってるのさ?」
A「吸って吐いて両方で吹いてる。その方が息継ぎしなくていいから。」
B「おー!それすごいね。循環奏法みたいだ。なぁコツを教えてくれよ。マスター早いぜ。」

A「こんなの覚えて、どうすんだよ。」
B「お前と口笛でハモる。そしてコンビでここからおさらばするんだ!」
A「なんでそうなるんだよ。飛躍し過ぎだろ。」
B「そんなことないぜ。俺たちの罪はつまり“創造性の欠如”だ。それを矯正すれば出られる。」
A「…なるほど。確かにこれなら、ガキの頃からやってきたから自信はある。だけど音楽的にはどうなんだ?プロからみても独創的なのか?」
B「やり方次第じゃねーの?音楽のプロは凝り固まってるからさ、その隙間を突けばいい。」
A「まだイメージ湧かないけど、面白そうではあるな。」
B「いいってことよ。俺には勝算がはっきり見えてるぜ。そこら辺は任せてくれ。」


4.双 葉 (7月3日@SNSのルーム)

2040年7月3日 @とあるSNSのルーム
B「おっ…来たかな。」
A「遅くなってごめん!寝過ごした。昨日遅くまで熱中してたから。
B「おぅ待ってたぜ。頼もしいねぇ。で、できたのか?」
A「うん、できた。これなら結構、反響呼ぶと思う。」
B「いいから、まずは聴かせろよ。」

B「ん~いいねぇ。上手くはまってるじゃない。」
A「でしょ?なんか掴んだ気がする。これなら続けて、いくつでも創れそうな気がする。」
B「これはいけるぜ。先月の出所コンテストで、みんなの歓声を聞いたろ。受けるんだよ。」
A「でも正直、これで出られるなんて思わなかったな。」
B「誰でも少しは吹ける…でも自在には操れない。誰もが嗜む…でも同時演奏は難しい。」
A「そこが独創的だったってことか。でも、なんで俺には出来たのだろう?」
B「音楽の素人ならではの発想ってやつだろうよ。ジャンル問わず色んな曲を知ってるしね」
A「そんなもんかな。お前にアイデアを貰ったら、すぐに思いついたけどね。」

B「そこが天賦の才。なかなかできないよ“音楽の隠し絵”なんて。マッシュアップと似てるけど、違う曲の伴奏と旋律を組合せる代わりに、別の曲から違う旋律を組み込むんだから。」
A「口笛は音程が自由自在すぎて、それを2人で合わせるのは相当に難易度が高いからね。それが幸いしたって訳か。確かに誰でもできる代物じゃない。」
B「ほらな。だから言ったろ、“見えてる”って。少しは信用したか?」
A「信じない訳にはいかないだろ。俺にはその世界は見えなかったのだから。感謝している。」
B「オッケー、そこまで言ってくれるなら次いこうぜ!この作品でこの手法を世に問うんだ。」


5.開 花 (8月3日@SNSのルーム)

2040年8月3日 @とあるSNSのルーム
B「おっ来た来た。」
A「お待たせ。ごめんねいつも。ちょっと対応に追われてた。」
B「いいってことよ。それだけ反響が大きいってことだもんな。で、どこから話す?」
A「今回はすごいよ!でもそれはお楽しみで、順を追って話そうか。まずは医療界から。」
B「それも十分すごいと思うけど。看護師からか?」
A「いや、なんと医師から。せっしょくえんげ…って言ってたかな。つまり食べ物を上手く呑み込めない症状を予防するのに、口笛がいいらしいのね。それを一緒に研究しないかと。」
B「ほぉそんな効果があるのか。研究…いいね!口の中ってよくわからないもんな。」

A「でしょ。そして2つ目は音響工学のC菜教授から。口笛が鳴る仕組みを解明したいと。」
B「へぇー、俺なんか、解明されてないことすら知らなかったけどな。」
A「俺もそう。先生曰く、マイナーすぎて誰も手を付けなかったんだって。」
B「なるほど。つまり俺たちは、いい所に目を付けたって訳だな。」
A「そういうことになるね。この先生も一緒に研究したいそうで、模型を造りたいらしい。」
B「可視化したいんだな。それは面白そうだ…が、少し怖い気もするな。」
A「何が?」
B「う~ん…わからないけど、口笛ってそんな簡単に模型化できるのか?…と思ってさ。」
A「考えすぎじゃない?とりあえずもう少し理解を深めないと、次の話に繋がらないんだよ。」

B「おっ!いよいよ最後の“お楽しみ”だね!!」
A「そうそう。なんと!総理官邸の秘書から。政府の委員会に入ってくれないかと。」
B「えぇっ!!!マジで!!それ、本当に凄いやつじゃん!」
A「そうなんだ。なんかね…まだいろいろ話せないそうなんだけど、認証制度を作りたいと。」
B「認証って、何の?…まさかアバターのか?」
A「そう、そのまさか。俺たちが一度捕まった側だから、不正する気持ちが分かるだろうと。」
B「考えるね~。するとさしずめ俺たちは、ホワイトハッカーだな。」
A「そういうことになるね。俺たちは逮捕がきっかけだったから…恩返しだね、これは。」
B「そうだな…いいね!続々反響が来るぞ。そろそろ俺たちもAI使わないと捌けないな。」


6.感 染 (8月15日@SNSのルーム)

2042年8月15日 @とあるSNSのルーム
B「ん、来たかな。」
A「あれ、これ聞こえてるか?」
B「あぁ大丈夫。ほぼ時間通りだ。」
A「今日は間に合った。いい知らせだ!俺たちの方式が、政府認証の標準規格になるよ!!」
B「本当か!?やはり総裁選の関係で、動きが加速しているのか?」
A「お前の読みが正しかったね。アバターは元々、政府の防災対策が甘かったことをきっかけに、高齢化への対応を誤ったことが追い打ちをかけて一気に進んだ経緯があるから、政府としてはあんまり触れたくない話題だったんだよね。でも今や世界に冠たるアバター大国だから、今度の選挙で争点にして信頼回復に繋げたいらしい。」

B「確か今回の最有力候補の井D氏は、アーチスト兼任だったな。それで結構な人気だ。」
A「そうなんだ。だからなおさら創造性が焦点になってる。対立候補のE村氏は少しでも見劣りしないようにと思うはずで、不正に手を染める動機は十分にあるからね。」
B「すると、俺たちの規格が、新政権を支える形になる訳だ…。」
A「ん、どうした?何か心配事でもあるのか?」
B「…少しな。杞憂に終わればいいのだが。」

2042年9月15日 @「露磨のHere we go!」ニュース
今回の選挙で圧勝した井D内閣により導入された「口笛アバター認証」を使い、東京地検特捜部が野党のE村氏を立件方針であることが明らかになりました。この認証は口腔の個人差を利用したもので、口笛が鳴るか鳴らないかに関わらず、歯並び・舌の長さ・加齢による筋力の変化等の様々な要因によって生じる、微妙な空気音の差を読み解き、個人を特定できる技術を活用しています。さらにブロックチェーン技術によって、あらゆる音響操作の痕跡は探知され、不正の証拠として採用されます。今回E村氏は、先の総裁選で人気を獲得する為、他のアーチストに成りすましを依頼、“偽アバター”を利用した詐欺を疑われていましたが、その容疑が裏付けられたものとみられています。

2043年9月24日 @とあるSNSのルーム
B「来たか。」
A「悪い!待たせた。」
B「いつものことだろ。で、どうだったんだ。」
A「確かに怪しい。今日のアバター認証委員会でのやり取りもおかしかった。」
B「どんな風に?」
A「最初の認証段階での音声チェックを厳格にする案を出したら、猛反対された。」
B「やはりな。そこを変えられるとまずいんだろ。どうする?見過ごす訳にはいかないぜ。」
A「お前が最初に感じた杞憂が当たったね。何が“元アーチスト”だ。創造性を馬鹿にするな!」
B「わかった。お前が闘うなら俺も徹底的にやるぜ。時間の余裕はありそうか?」
A「今日のことでマークされたと思う。今のままだと権力者が細工するのは防げない。」
B「俺たちに濡れ衣を着せるつもりか…急がないとな。」


7.発 症 (9月26日@ロマさんニュース)

2043年9月26日 @「露磨のHere we go!」ニュース
「口笛アバター認証」の発案者である2人、相沢A児氏尾藤B作氏が、今朝、緊急逮捕されました。2人はアバター関連の犯罪で前科がありながら、「口笛の隠し歌」で一躍有名になり、相沢氏は昨年、新設されたアバター認証委員会のメンバーにも選ばれていました。2人は昨日、新たに開設したアバターで、別の人気アバターになりすましたと疑われており、この人気アバターの所有アーチストから訴えがあり、明らかになりました。このアーチストは、別の人物と取引したつもりでいた所、その人物に全くその認識がなかったことから、事件が発覚したそうです。2人は認証制度自体に深く関わっていた為、その悪用を思いついたものとみられています。2人は共謀を疑われており、別々のバーチャル刑務所に収容されました。なお、2人は容疑を否認しています。


8.治 療 (9月27日@ロマさん特集番組)

2043年9月27日 @「露磨のHere we go!」特集番組
昨日の「認証当事者逮捕」を受け、巷では様々な議論が巻き起こっています。その主なものは、認証を熟知する2人にしては手口が稚拙に過ぎるのではないか…という意見です。また被害に遭ったアーチストも2人を擁護しており、不正があったことを告発はしたが、それが2人の逮捕に繋がったと知り大いに驚いたそうです。というのも、2人は普段から口笛関係に特化したアバター運営を特徴としており、このアーチストから不正にアバターを取得するメリットが考えにくい為…とのこと。さらに、新たなアバターを取得してすぐに犯行に及んでいることにも首をかしげる向きが多く、2人のような専門家がわざわざこんな発覚しやすい方法を取るだろうか?との疑念が広がっています。ただ逆に、仮に彼らが無実とすれば、最初の認証プロセスに関与できるのは政府機関だけなので、そこで何らかの細工がなされたということになり、認証制度の根幹を揺るがすことにも発展しかねません。なお政府は、捜査に協力中なのでコメントは差し控えたい…としています。

2043年9月28日 @「露磨のHere we go!」特集番組
一昨日の認証当事者逮捕による、波紋が広がっています。相沢氏・尾藤氏両名を支持する多数のアーチストが、ネット上での署名集めなど様々な抗議活動を展開しており、彼らを支持する一般層へも急速に波及、当番組が独自に行った緊急アンケート調査によりますと、昨日の段階で2人への支持は75%に達する一方で、内閣支持率は27%と30%を切り、ピークだった昨年就任時の83%からは3分の1以下となっています。ただ今でもアーチストの顔を持つ総理への支持は根強く、専門家は今の所この問題がすぐに政権の存続を危うくするとはみていないようです。

2043年9月29日 @「露磨のHere we go!」特集番組
ここ数日報じてきた認証当事者逮捕の件ですが、ここへきて議論の中心が、現政権への影響から、アバター認証自体の問題を指摘する声へと変わっています。逮捕された2人が開発した「口笛認証」は、口笛の微細な個人差を認証に活用する技術をベースにしていますが、最初に個人と口笛を結びつけるのは政府機関なので、そこで不正が行われる可能性を排除できず、またそこでの不正は、政府が自浄作用を持たない限り追及できない…という問題が浮かび上がってきました。しかしこの点について政府は「仮にその点の監査を第三者に委ねても、今度はその機関の信頼性が問われることになって堂々巡りだ。問題の本質的な解決に至る技術は今の所なく、政府を信頼して頂くしかない」として正面からの議論を回避。2人に代わるポストに、海外から音響工学の大家ザンギF博士を起用することで、問題を解決する技術開発の姿勢を鮮明にし、問題の鎮静化を図る構えです。


9.手 術 (9月30日@ロマさんニュース)

2043年9月30日 @「露磨のHere we go!」ニュース
速報です!只今、井D総理が逮捕されました。繰り返します。ここ数日報じてきたアバター不正の問題で、先ほど東京地検特捜部が、現職総理の逮捕に踏み切りました。これは昨晩、深夜に定例で自動アップデートされた認証システムが、総理の不正を探知したことによるものです。同時に、先日逮捕された相沢氏と尾藤氏の無罪が証明されただけでなく、代わりに起用を予定されていた音響工学研究者のザンギF氏が、総理と共謀し不正に協力したとほぼ同時に逮捕されています。本件は続報が入り次第、またお知らせいたします!


10.寛 解 (12月31日@SNSルーム)

2043年12月31日 @とあるSNSのルーム
B「おっ来たね!」
A「悪い悪い、遅くなってごめん。大晦日まで大忙しだよ。来年は選挙に出るかもしれない。」
B「まぁそんな気はしてたけど…いいんじゃない?お前みたいなのが相応しいと思うぞ。」
A「そうかな…でも、今年いろいろ経験して、俺も少しその気になってきてはいる。」
B「そうだよ。この国のトップに必要なのは、誰でも自分の個性に気づけば変われることを、実感させてくれる存在だ。とりあえず、お前ほど相応しい人はいないと思うぞ。」
A「とりあえずって何だよ!…でもそうだな。まず俺がなって、誰かに追い抜かれればいい。」
B「そうそう。大事なのは、その優劣を決める仕組みが信頼されていることさ。」

A「間違いない。今回のことで思い知ったよ。それにしても間一髪だったね!冷汗が出る。忘れもしない9月25日、C菜博士がプログラム書換えを一日で終わらせてくれたおかげだ。」
B「それが、お前の誕生日になった深夜にシステムをアップデートさせ、無実を証明した。」
A「元々俺たちの規格が標準になるかも…って時から、心配してたもんね。さすがです。」
B「いやいや、何も出ねーよ。基本的に権力者を信用してないからさ。疑ってかかっただけ。」

A「でもさ、ザンギF博士の手口まで予想していた訳じゃないだろう?」
B「あぁそれは無理だ。さすがにC菜博士が作ってくれた口笛発生装置をあそこまで精緻に真似されるとはね。しかもその人物が総理に買収されてた…なんて、神様でも分かるかよ。」
A「だからとりあえずは、分析の方をもっと高性能にしようと。でもそれを一日で!神業か。」
B「うまいこと言わなくていいから。そう、それまでの分析だと不十分な気はしてたんだ。だからその前から少しずつ準備してた。考え得る限りの個人差をプログラム化するぞって。」

A「それで夏頃から俺に色々訊いていたのか…短期集中練習で音が変わるかとか、逆に一定期間練習を禁止したりもした。そうだ、歯医者で歯石を取った前後にも何かされたね。」
B「そうさ、全部その準備だった。だけど決め手になったのは、舞台前のデータと、クーラーを効かせた部屋で採ったデータだったんだぜ。」
A「え!そうなの?…あ!なるほど、緊張と気温が関係してる。」
B「そう、緊張で口が乾いて音が変わる。そして9月25日はむちゃくちゃ寒かったんだ。」
A「それをザンギFの派生装置は想定してなかったのか。犯罪するなら口は乾くはずだ。」
B「その点を、更新後の分析システムが探知して、俺らの無罪が証明されたのさ。」


11.種 散 (2040~41年 年越し)

A「それが俺らの犯罪を偽装したザンギFの手口…だけど結局、総理はどう関与したの?」
B「総理は、逮捕されるまでその装置でアーチスト活動をやっていた。長年グルだったのさ。特捜は確証を掴んでいると思うけど、ザンギFの装置が押収されてから、素人目にも明らかに総理の芸風が変わったもんな。経歴詐称罪にもなると思うぞ。」

A「磨いた芸は裏切らない…か。俺らはそれに救われたんだね。」
B「俺らを支持してくれたアーチスト仲間も、結局はそこを信じてくれた訳だしな。」
A「ねぇ知ってる?昔ヨーロッパの大学は、自由になる為の教養として音楽を教えたと。」
B「あぁ知ってるぜ。俺もお前に教わった口笛のおかげで、かなり自由になれたぞ。」
A「考えてみれば、アバターって面白いね。個人と切り離すことで自由度が増す気がする。」
B「そうだな。個人と切り離す建前だけど、かえって色濃く個人が投影されてしまう。」
A「そういえばさっき、俺が総理に相応しいって言ってくれたね。」
B「まぁ正確に言えば、お前がじゃなくて、お前のアバターがな。」
A「どう違うんだよ!アバターには俺が投影されてるんだろ。」
B「いや違う。そこには俺も投影されてるからな。俺ら2人のアバターが総理になるんだ!」
A「そうだな…そうなるといいね。おっ!そろそろ新年だぞ。10・9・・・3・2・1・ゼロ!!Happy New Year!!!」

B「ではでは、本年も何卒宜しく御願い奉る、殿!」
A「いきなりなんだよ。気持ちわるいな。」
B「へへっ。こういう言い回し、なんか聞き覚えない?」
A「んー…、えっ!もしかしてロマさん?」
B「そそ、俺だけじゃないけどね。お前が捕まった時のことはよく覚えてる。」
A「もしかして、刑務所では狙って俺に近づいたわけ?」
B「実はそう。言うタイミングを失ってた。これからは運命共同体だからね。隠し事はなし!」
A「そうだったのか…。俺も捕まる直前のシーンは、よく夢でフラッシュバックしてた。」
B「あの会話の先へ行きたくて、近づいたんだ。創造性は生まれつきの才能じゃない。誰もが自分の感性を信じれば、何かを創造できるはず。ただし…」
A「その感性に共感してくれる人が居れば…か。確かに俺ひとりじゃ無理だった。なるほど。アバターは自分を分割できるだけじゃなくて、他人と合体もできるのか!」
B「左様でございまする、殿。やっと気づかれましたか。これで良き公方になれますな。」

<了>


最後までお読みくださり、幸甚の至りにございます。さて私、口笛真澄んは、他にも創作大賞(漫画原作部門)にも応募しています。併せてお読み頂けますと、ありがたき幸せ。

また私、ここでは「口笛SF短編小説」という新ジャンルを創造したいと考えておりまして毎年、星新一賞に応募しています。それらの作品もリメイクし随時アップして参りますので、お読み頂けると嬉しいです。

さらに私、実生活でも口笛を吹いており、世界大会でのご縁などを活かし、音響工学的に口笛が鳴る仕組みも分析しています。誰でも簡単に吹ける練習法もご紹介していますので、ご興味ある方はぜひお試しを。

最後に、医療者と連携して「口笛の健康効果」も検証しようとしています。ケースレポートもアップしていますので、共同研究にご興味ある方は、ぜひここにメッセージを頂けますと幸いです。

ではまた!交流できるのを楽しみにしております。口笛真澄ん(ますみん)

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