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難病のお陰で辿り着いた『医療あったらいいなデザイン工房』~私の事業開発譚


難病とその恩恵

いきなりのパワーワードですみません。そう…私は、原因不明の指定難病を持っています。生活に概ね支障はありません。ただ足が時々無性に痒く、程なく皮膚が壊死。そんな跡が増えつつ動脈炎なので神経にも触れ、末梢が麻痺。時には靴が履けぬ程に腫れ、格好いい杖を購入したことも。さらに悪化すると多臓器に飛び、脳や心臓に影響することもある。その病状悪化がたまたまコロナと重なり、またこれは膠原病(自己免疫不全)なのでコロナとの相性が悪く、会社が完全在宅の第1号に認めてくれたから良かったものの、それまでの社会のままだったら、働き続けられなかったかもしれません。

おかげで働けていますが、なにせ治療法がないので、確定診断をされた時、生まれて初めて死を想いました。あのスティーブ・ジョブズが伝説の卒業式スピーチで話した通り、「今日が人生最後の日だとしたら…これはやるべきことか?」を常に問うようになりましたね。だからこそ今回書くような境地に辿り着けたと思いますし、こうしてnoteに文を認めているのも、私にとって心底この世に残して置きたいことを、形にする営みだと思っています。

本稿の動機と口笛BGM

さて今回、そんな私が人生を賭けて取り組んできた「事業開発」について、書き記してみようと思います。それは、この春に先立った盟友の医師から託された想いを何とか実現できそうだからであり、併せて、私が人生で生業と見定めたテーマ(事業開発)についても、形にして残したいと考えました。皆さんの挑戦にも、何らかのヒントになれば嬉しいです。

また、前稿から始めたことですが、本題に入る前に口笛BGMを置いておきますので、この先を読みながら、流して頂けますと嬉しいです。では今回は、Coccoの『遺書。』を。なお、この素敵な伴奏は全て、私のポケカラ仲間が一人で制作したものです。ポケカラ公式伴奏に採用された彼の第1号作品ですので、ぜひ併せてお楽しみください!

起業の後日譚

30年前に銀行で社会人生活をスタートした私が、投資を知ろうと留学し、VCを経て起業した話は、先日の記事(バスケW杯に想う~ストリートからスラムダンクまで、私の冒険譚)に書きましたので、今回はその失敗から学んだ事と、反省を踏まえた新たな方向性について書いてみたいと思います。

起業の失敗から学んだことは、主に2つ。① 私には組織のマネジメントは向いていない② 時代を読むのに、多様な専門性から複眼的な視野が必要。思うに私は、最近知った言葉で言うと「ポリネーター(花粉媒介者)」ではないかと(当時は「トリックスター=秩序を破壊し、物語を新展開させる者」と思っていましたが)。つまり自らの知見・嗅覚を信じて、分野を超えて飛び回り、社会に価値ある果実を結ぶ動きを自由に発想する…といった具合なので、0→1には効果的ですが、周囲が付いて来られない。だから1→10や10→100には向いていないのではないか…と自己分析しました。

もう一つは上の記事にも書いた通り、私の事業計画は時代の流れを捉えてはいたのですが、専門外でいろいろ予想外のことが起きました(YouTube出現で映像コンテンツの価値下落,スポンサーになってくれたスポーツメーカーの国際的な合従連衡など)。この点を改めて考えると、どうしてもこうした想定外は、0から新たな価値を生む際には避けられないので、その被害を何とか“生き延びられる範囲内”にコントロールせねばならず、そのためには多様な専門性を巻き込んでおく必要があると思いました。

ただこの点について私は、起業前から(VCを経験したので)ある程度想定はしていて、だからこそ出資を仰ぐ企業として、日本では珍しい「様々な専門領域のプロフェッショナルをエージェントするグループ」に着目し、大株主になって貰いました。それが現在、私が所属する『民間医局』の親会社なので、当時の選択が、私の再起を大いに助けてくれました

想えば、この会社の創業理念「プロフェッショナルに仕事を作る会社」を聞いた時、私が思い浮かべたのが1996年にトム・クルーズ主演で大ヒットした映画『ザ・エージェント(原題:Jerry Maguire)』です。実際に10年以上働いてみて、この映画に描かれていたように「プロフェッショナルと心の絆を結ぶ」ことが、エージェント事業の生命線だと思いました。

なお、このグループから得た恩恵はこれにとどまらず、マネジメントが苦手な私に執行役員まで担わせて頂いたばかりか、営業・人事・採用・総務・経営企画といった会社を回すのに必要な機能の部長を任せて頂けたおかげで、ポリネーターとして自在に動き回りながらも、組織から孤立せず上手く連携できるようになりました。そうして進化した私がいよいよ再起を賭けて取り組んだのが『医療X〇〇:他の周辺分野』を掛け合わせた新事業創造です。

医療の“あったらいいな”を形に

特に、上のページにもある『医療Xクラウドファンディング』は、これまで10連勝中で、100%の成功率を記録しています。やはり医師が、それなりの覚悟を以て望むと強いですね。

この取組みを通じて、医師が臨床現場で感じる「ものづくりニーズ」に出会いました。それは医療機器に繋がるハード面の開発アイデアであったり、今後は薬剤を代替するであろうプログラム医療機器などソフトウェアの開発ネタであったりして、国の助成やメーカーの開発資金を受けたりする仕組みはあるけれど、それは一定の形になった後の話であって、その対象となる前に諦めてしまう“発芽しない種”が沢山あることを知りました。

そんな中で出会ったのが先述の、この春に急逝された先生です。ご一緒した案件で私に、こんな意思を残してくれました。「臨床現場には日々“あったらいいな”があるのです。ただ多くの声は、誰に届くこともなく消えてしまいます。私はなるべくそれらの声を聞き、出来る限りで形にもしてきました。でも個人では限界があります。どうか『民間医局』で、それを社会実装に繋げる仕組みを作って貰えませんか?」と。それから先生の志を具体化しようと奔走し、何とか形に出来たのが『あったらいいなデザイン工房』で、先月から試行を始めました。来年には正式にリリースを出せるよう、現在鋭意、実績作りに取り組んでいます。

急逝した先生がnoteにアップした最後の記事(ついにこの回は開かれませんでした…)

ちなみに名前にある「デザイン」とは、スタンフォード大学が提唱し、数々のベンチャーを通じて有用な機器を世に出し世界標準と言われる医療機器の開発ロジック『バイオデザイン』にちなんだもので、私自身が来年1月迄のプロジェクトに参加し習得中です。(早速この工房でも実際に使いながら、私がモデレーターとして立ち回れるよう修行中

私の役割は①:医師の“あったらいいな”から、奥にある課題を正しく認識すること。そして②:課題を解決するコンセプトを、様々な分野の専門家と関わりながら見つけ出すこと。医療のものづくりは「開発に必要な“使い勝手”を、医療者しか分からない」という特殊事情がありますから、バイオデザインでは「課題と解決を分けて考えるのが大事」と学びました。

開発能力と意欲を兼ね備えた医師が主導して、大学では医工連携が進んでいますが、医師個人と企業を結ぶ取組みは、あまり上手くいっていないように見受けられます。双方ニーズを開示した“縁結び”の仕組みはあっても、仲介者が余り手をかけていないようです。この分野は複雑な上に専門性が多岐に亘り、手間がかかり面倒なのでしょう。私は幸い、病気のこともあり在宅で自由が利き、とことん0→1に没頭できますから、この点を活かしてどこまで出来るか…やってみようと思います。亡き先生との約束もありますしね。

私の“シン・事業開発”スタイル

一連の挑戦を通じ会得した私のスタイルは、言葉にすると「マーケティングの転換~プッシュからプルへ」でしょうか。ほぼ同じ趣旨を、先日聞いたウェビナーでは「マーケットプルとプロダクトプッシュを回す」と表現されていて、興味深かったです。(これは旭化成/山下昌哉氏のご発言。スマホ地図を支える技術を開発した「ミスター電子コンパス」として有名で、医療でもMRI(磁気共鳴画像診断)の開発に従事された方です)

つまりこれは、売り手より買い手の視点で発想すべきで、求められるモノ/サービスを作るという考え方です。極端に言えば、まずは1つ買って貰ったら、その反応を参考に作り直して2つ目を売る…ということで、格好よく言えば「スモールスタートから、高速でOODAループを回転させながら、徐々に拡大してゆく手法」となります。よく言われるPDCAは組織で使うには良くても、私のようなポリネーターには最初のP(計画)が無駄なので、とりあえず観察に基づき直感で動く(Observe→Orient→Decide→Act)方が馴染むのです。

私のやり方は、第一歩を踏み出す前に机上であれこれ議論するのを避け、まずは経営に影響を与えない微小な投資でスモールスタートし、ささやかな実績を出す。するとそれで【ニーズの存在+成功法則】が一目瞭然になるので、今後は投資額を上げて、もう少し大きな実績を狙う…これを繰り返しています。これだと止まらず、常に動き続けることができます。

ただ難点として、経営が逐次動きを把握し難いので、(私が現在そうであるように)最低限の報告だけすれば、あとは任せて貰える状況でないと機能しないと思います。また(どうしても暗黙知が属人的に貯まるので)後任育成や業務の引継ぎが難しいのも悩ましい所です。ここを私は、成功した実績を社内外へ大々的に広報することで何とか対応しています。成功例の広報は、自分が事業拡大のため必然的にやらないといけないのでやるけど、この仕事をやりたいならそれを見て勝手に学んでね(分からない所は訊いてね)と思うし、それ位の能力がないと事業開発は無理と思うので。書きながら思いましたが、この文章も一種の広報ですね。もし引継ぎとか求められたら、これをそのまま使おうかな(笑)。

私がnote pro(法人用)を始める日

そういえばつい先日聞いたのが、noteウェビナー「牛乳石鹸/新規事業室」のお話。私と同じ“一人広報”の話で、とても参考になりました。特に「介護現場で便利な器具を試作してみた話」等は、私の工房でも今後プロトタイプの段階で活かしたいと思います。こうしてポリネーター同志で横の繋がりが生まれるのは、すごく良いなと思いました。

今回書いた『あったらいいなデザイン工房』が軌道に乗ってきたら、私も「一人広報」…考えてみようかと思っていますので、同じお立場の方がもしこの記事をご覧になったら、ぜひ気軽にメッセージを頂けると嬉しいです。新規事業…特に前例のない0→1に取組む人は、社会全体では希少種だと思いますし(上述PDCAとOODAのように)既存組織の常識に抗わないといけない場面も多いと思います。でも時代は益々VUCAとなり、予測困難の度合いを深めてゆくはずですので、希少種同士が支え合わないと! 日々大変なことばかりですが、言葉に落としたり、それを読んだりすることで、挑戦の気力に繋がれば幸いです。

最後に、いつも長文を💦最後までお読み頂けて嬉しいです!今後とも、どうかよろしくお願いします🙏

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