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機能不全家庭出身者と血、鬱ー"Poison blood" by Darren Hayes(ex Savage Garden)

アルバムを持っていない「Affirmation(Savage Garden)」に入っている曲のベースラインを動画で確認している時に、ダレンが去年BBCの朝番組に出演した際のインタビューを発見した。("Darren Hayes Savage Garden BBC Breakfast 2022"と検索すれば出てきます。)

本当に良い内容で、まず最初に感じたのは彼がナイスミドルになったなあ(去年の時点で50歳だって。そりゃあ私も年をとるわけだ)というのと、その「ナイス」が、本当に自然で穏やか、満ち足りた感じで、素直に「本当に良かった」、そして昔の彼は鎧を纏っていたんだ、もう今はその鎧を外すことができたんだということ。実に感慨深かった。

Savage Gardenは華やかでサービス精神旺盛でよく話すダレンと寡黙で職人気質なダニエルのデュオというイメージだった。わざわざ黒髪に染め、サブカルというか西洋のメインストリームの裏へいこうとしているようにも見える彼のことを、当時の私は陰があり美しい、「女性の気持ちがわかる男性」として見ていたけれども、そうではなかったことがずいぶん昔に聞いたニュースや今こうしてPVを振り返る中で判明していたし、さらに上記BBCのインタビューでその詳細がより明らかになった。

彼はイギリスの男性と、パートナーシップ制度が存在するイギリスで、同性結婚をした。(私が何故彼がアイルランドに移住したと誤って?記憶していたのかは謎だけど、とにかく)彼は今はカミングアウトをして、同性パートナーと共に、ゲイとして生きている。その姿にはもう全然無理がない。何というか、Let it beな感じ???

ブラウンヘア(女性アナウンサーも絶賛していたけどとても素敵な髪型だった!)の彼は非常に穏やかに以下のようなことを語っていた。(昔はどちらかというとテンションが高く早口のイメージだった。)

・"Poison blood"はとてもemotionalな(感情を扱った)、メンタルヘルス(精神衛生)についての歌だ。
・これはオープンにして正直に語っていることだけれども、自分は人生のうち25年間をメンタルヘルスに(精神的に)問題を抱え診断を受けて生きてきた(鬱)。
・そのような精神の問題は自分のビジネスフィールド(音楽業界)では珍しいことではないけれども、自分がsavage gardenとしての活動の成功のピークに診断を受けたことはある意味ラッキーだった。
・"Poison blood(汚れた血、直訳だとの血)"は鬱と共に生きる挑戦について歌った曲であり、"Poison blood"はギフト(祝福や贈り物)でもあり呪いでもある、自分は毎日この汚れた血と共に生きるということを決断している。

(メンタルヘルスに問題を抱える人々に対して音楽業界はどうだと思うか?)
・自分は既に大人になっているけど、若いスター達を見れば、最近はよくなってきているのではと思う。
・これには色々なストーリーがあって、過去には薬を使ったり自殺をしてしまったりした人もいるし、90年代はブリトニースピアーズに対してのように、今から見ればとても恥ずかしい、精神の危機に対して理解のない扱いが横行していた。
・今では社会もまだ学んだけど、鬱など精神的な問題を抱えるのが女性であればまだ自然に受け止められるけれども、男性が感情について語るのはちょっとというスティグマがある。
・ゲイとして生きる自分のように("Gay man"と言っていたから一人称は「僕」でもいいのかな)LGBTQのコミュニティーでは悲しいことに、クイアはかつても今も自殺の割合が非常に高い。

(あなたはGay manとしてSavage Gardenの活動をやめたわけではないんですよね?)
・違います。私は女性に戻りました。(※このあたりはちょっとよくわからなかった、でも一人称は「私」がいいのかな)
・朝の番組でこのような話をできて、この場にいられて幸せですが、私は父親がアルコール中毒で暴力を振るう家庭で育ちました。
・これはgold shaped hall?で(可能性を秘めたものでもあって?)多くのポップスター、マドンナもそういったことをよく言うけれど、自分を駆り立てるものでもあり「もし自分が、世界に自分を愛させることに成功したのなら、自分の抱えている問題を解消できるのではないか」と私は思っていました。
・自分は若くて多感な、ゲイだけれども、それに気づいていない子どもでした。
・皆「君はゲイだろ」と、私が自分で気がつく前に言ってきたけれど、自分としては「どうして?何で皆んな僕のことをゲイだと思うんだろう」と思っていました。
・私はポップ界で大成功をおさめており、TVショー等では自分の中で抑圧していた別の側面、子ども時代にそれは恥だと言われてきたものを美しく表現していただけでした。そしてそのような状況が鬱へと繋がっていったのです。

(5年間活動を休止していたんですよね?)
・10年間です。

(何か語るべき新しいものができたんですか?)
・(活動休止したのは)燃え尽きたから、セルフケアのためだったんです。
・私は幸運なことに17年前に(男性パートナーと)結婚をしました。それは自分の中でとても美しいことでした。この国(イギリス)ではcivil partnership(同性でもパートナー関係を結べる)制度があって、それにより私はゲイ男性(Gay man)として自己肯定感を高められ自分を愛せるようになりました。
・私がポップスターになると決めたのは13歳の時のことでしたが、40歳から10年間の活動休止期間は、人生経験を積むことを可能にしてくれましたし、そんな中ケイトブッシュがあるコンサートで「Hounds of love」を歌ったのを聴いて泣いたのをよく覚えているのですが、それはもう二度とあんな風に歌われるのを見ることなんてないと思っていたからで、もし自分が復帰してSavage Gardenの歌を歌わないんだったら他の誰が歌うんだろうとその時思ったのです。それは自分にとってとても美しい、自分は音楽界の歴史の中にいるんだと気付いた瞬間でした。

余談

(カラオケで自分の歌を歌ってと言われたらどうしますか?)
・もし友人が望むなら、はい、歌います。

男性アナウンサーがコテコテのイギリス英語で「カリオーキー」って言っているのがちょっとおかしかった。

やっぱり撮る側はダレンをゲイと認識して撮影していたよね。To the moon & backなんて、それ以外にありえない。
しかし彼は当時は認識していなかったのか。ちょっと意外だった。でもそれだけ抑圧が強かったということだよね。だからこそ彼は苦しんでいたのだし、もがいて、鎧を纏って、必死に歌っていた。

そんな彼のことを、当時の私は「女性の気持ちがわかる」人だと思っていたと認識していたけど、きっと「私の気持ちもわかってくれる」人として見ていたんだろうなと、最近、彼の歌詞を読み返しながら気付いた。父親がアル中暴力、母親が鬱って、なかなかハードな機能不全家庭にいたんだね。
彼の苦しみは私のものとは違うけれど、作り物ではない、根本的な、どうしようもない、絶望を伴うものだから、きっと諸々はっきり認識しないままに共鳴していたのだろう。

あんなに穏やかに静かに、自然に語る彼の姿を見ることができてとても良かった。

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Poison Blood by Darren Hayes(野鳥版の日本語)

ロビン*も、母も、祖母も、僕だって抱えている
「それ」を抱えてしまったのなら
感情をごっそり持っていかれる
気持ちも人生のいかだも全て沈められる

あなたとなら共に歩んでいけそうだけれども
僕はこの
Poison blood(汚れた血)を移すわけにはいかない

Poison blood、Poison blood
せっかくあなたとなら共に歩んでいけそうなのに
Poison bloodは全ての愛を汚染していく
あなたに移してはいけない、絶対に

リンカーン*も、僕の兄弟も、甥も、僕だって抱えている
「それ」を抱えてしまったのなら
恐怖や嫌な気持ちや荒廃で心の海が満たされる

あなたとなら共に歩んでいけそうだけれども
僕はあなたには

Poison blood、Poison blood
せっかくあなたとなら共に歩んでいけそうなのに
Poison bloodは全ての愛を汚染していく
あなたに移してはいけない

でも生きるのが嫌だというわけではなくて
死にたいと思っていた全ての時は
消せるものなら消したい痛みであって
僕は生き延びると決めたんだ
「それ」は祝福で、大切な贈り物でも呪いでもあるんだよ
僕は毎日、抱えて過ごすという決断をしている

Poison blood、Poison blood
せっかくあなたとなら共に歩んでいけそうなのに
Poison bloodは全ての愛を汚染していく
あなたに移してはいけない、絶対に

*リンカーンはおそらくアメリカの大統領だけど(アブラハムリンカーンは鬱を抱えていた)ロビンが誰を指しているのかはちょっとよくわからない。
*一人称は便宜上「僕」にしました。
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悲しすぎる。血への忌避、巻き込んではいけないという感覚も痛いほどわかる。
でもダレンは受け入れられたんだね。だからこそあの穏やかな姿や語りがある。

私は

本当に自分のことは棚にあげるけど、世界から生きることをやめたいと思う人が1人でも減ればと思っている。

もしあなたが、どうしようのない家に生まれ、あるいは他の場所でも、理不尽に傷つけられ、深い傷、苦悩、困難絶望などを抱えているなら、それらがいつか癒える日がくるようにと、心から願っています。

可能であれば、あなたを苦しめた理不尽をあなたの心の中に巣食わせ、自暴自棄になり他に理不尽を振り撒くことで支配され縛られるのではなく、なるべく人に優しく接してください。その優しさは、きっと次の優しさに繋がっていきますし、巡りに巡ってあなたに返ってきます。

なるべく優しい人、優しいことば、自分にとってよいものに多く触れて、無理のないように過ごしてください。自分にとってよいものが、国や学校やあなたの家の価値、現在の社会の主流や流行と一致している必要はありません。あなたはあなたでいいのです。

可能であれば、薄っぺらな知識もどきや似非科学などではなく、多くの書物や教養に触れて視野を広げていってください。ネットですぐ見つけられるような情報、それっぽいけど薄っぺらな一見即効性があるように思える魑魅魍魎はエナジードリンクのようなもので、あなたの身になるものではありません。本当に必要な力は、コスパタイパで簡単には得られません。自分をしっかり持って、物事をじっくり見つめ、批判的に考え検証しながら探し、養っていってください。そうすれば、あなたには独りでも、あるいは誰かと一緒に歩く力が芽生えます。

Best wishes for all, but especially for those carrying "poison blood", or any struggles in living.

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