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詩:人差し指で火を灯せる青年の話

天使に聞いた話


ある街で暮らしている若い男がいる

その街は郊外にあり、近くにはショッピングモールや公園しかない

子どもをもった家族とかであればいい環境なのかもしれない


青年が好んだのは映画と絵画だった

彼が都会に住んでいるときには

空いた時間があれば映画館か展覧会に足を運んでいた

ミニシアターも美術館もないこの街は

青年にぴったりの環境とはいえなかった


一年、二年とそこでの生活が長くなるにつれて

「野心」といったものが無くなっていくのを感じた

映画も絵画も以前ほど彼の心を惹くものではなくなった

青年は自分が空っぽな存在になっていくような気がした


あるとき青年は易での占いの店に入った

別に興味があったわけではない

ただ自分の時間の「情報量」が少しでも増すことを願っていただけだ


「あんた人生に悩んでいるね」

占い師の老婆がいった

「まあ、そうですね」

「人生がつまらなくて、どこにいったらいいかわからない。違うか?」

「まあ、そうですね」

「アタシはあんたに明確な『答え』を授けることができる」

そういうと老婆は青年の人差し指を握った

「これが『答え』だ」

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青年は自分の人差し指に火が灯ることがわかった

まるでライターみたいに


家に帰ると自分の指の先で燃えている火を

ずっと見つめていた


それから青年は自分の「火」を見つめるためだけに生きていた

仕事以外の時間はずっと「火」を見ていた

その時間、彼は自分が満たされているのを感じた


だが徐々におかしなことが起こっていることに気づく

青年の声が同僚になかなか届かない

すぐ隣にいるのに青年の存在が見えていない


鏡をのぞくと自分が半分透明になっていることに気づいた

鏡の前で「火」を灯すと

透明な自分の輪郭が揺れている



青年はあることに気づく

「燃料は俺なのだ。自分を燃料にして俺は火を灯していたのだ」



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