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#掌編

SS『街路樹と換気扇』

SS『街路樹と換気扇』

 空回りする換気扇を眺めていた。風に吹かれて回るだけの存在はもう何十年もそこにいるらしい。粉のような雪が申し訳程度に降っている。久しぶりにここら辺で降ってみようか、なんて思っているかのように少しずつ、微かに舞っている。
 

雀が小さな鉢に植えられたというのに大きく育ってしまった何らかの木に留まった。私にとってそれがなんの木であるかは関係ない。ただ、そこには木があって、窮屈そうに生えているのが心地

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SS『山は秘密基地』

SS『山は秘密基地』

あたかも入ってくださいかと言っているような木の間を通り抜ける。そこだけは草も生えずただ土がむき出しに、人を誘う。

誰もが自分だけの秘密基地だと思っていた場所は、さすがに荒れ果て自然の占領場となっていた。

もういいよ。

声が聞こえる。それはきっと麓の神社で遊ぶ子供たちの声。立ち止まり、耳をすませばたくさんの音で溢れている。木がぶつかる。草が揺れる。笑い声。飛行機の通過。なにかの唸り、そして、心

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SS『この世の支配者』

SS『この世の支配者』

【お題:猫と歯車と宇宙のネックレス】

私の手の中には、猫と歯車と宇宙のネックレスがある。それが何であるか説明が必要だろう。だが先に君の覚悟を聞くべきなのだ。これが何であろうと、君は私の座を受け継ぐ覚悟はあるか?あると言うのなら、私の話を聞け。ないのならば、このまま私を殺して奪い取ればいい。

だけど、それをしたら……、まあそれは自分の目で確認してくれたらいい。

いいか、話を聞く気があるのなら私

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SS『彼岸花の秘密』

SS『彼岸花の秘密』

みなさんご存知の通り、彼岸花の時期がやってきました。なので、今日は彼岸花の使い方を教えようと思います。

さて、さすがに君たちが一切の知識がない、とは思ってないのですが、改めて1からお伝えしようと思っています。よろしいですか?

みんなのお父さんお母さんもこの時期は人間の国に3日間ほど滞在しています。

お分かりの通り、彼岸花はあっちの世界との通路なのです。使い方は簡単。それぞれ割り当てられた彼岸

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掌編『原稿用紙に汗』

掌編『原稿用紙に汗』

【大学入試の没作品】
『高校生の自分から遠くにいるきょうだいへの手紙』というお題の元書いた作品がこちらです。実際に提出したのはこれじゃなくて、同じ設定に近いけど視点を変えたもの。そちらの原稿が出てこなかったので、まずこれだけを投稿します。

18歳に未だなれていない夏、僕は原稿用紙に向かっていた。高校の受験はとても寒かった。今はどうだろう。クーラーが効きすぎて長袖のメッシュ生地では少し肌寒い。窓の

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掌編 夏が来れば

掌編 夏が来れば

空は青ければいい。
空はただただ青くて、遠くまで透き通る。

青があるから、その他のものはより輝く。
花の赤は光るかのようで、生き物たちにも輪郭が明確にある。

影はより深くなる。
濃く、深淵のごと。
そこから、異質なものが湧き出る。
黒の影からは簡単にそれらは出てくることが出来る。薄い影だと無理がある。
しかし、あの強い光の元ならば、影は明瞭になり入口が確かとなる。
ああ、今にもやつらは入り込む

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