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まなかい ローカル72候マラソン

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まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        … もっと読む
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#庭

夏至;第29候・菖蒲華(あやめはなさく)

夏至;第29候・菖蒲華(あやめはなさく)

ノハナショウブ。

江戸時代に伊勢系、江戸系、肥後系など、たくさんの品種が作出されることになる日本に自生する花菖蒲の親。カキツバタや陸生のアヤメはむしろその野性味が尊ばれたのか、変わり種が少ない。ハナショウブの園芸品種の多さは別格だ。

アヤメの仲間はどれも万緑に紫が映え、五月雨の露に色っぽくもある。葉の形は刀に見立てられるように、空を指す様子が凛々しい。

田んぼを作るような湿地にかつてはたくさ

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夏至;第28候・乃東枯(なつかれくさかるる)

夏至;第28候・乃東枯(なつかれくさかるる)

夏至の前の日、故郷へ。この時期に帰ってきたのは久しぶりだ。

ここのところ帰れば必ず立ち寄る棚田から見た夕景。18時でまだこんなに明るい。

北欧などでは夏至の朝、森に入って花を摘み飾ったり冠を作ったりして身につける。

夏至の日の朝露はエネルギーが高く、朝露と朝陽を浴びた花々はとりわけ美しく幸福を招くとされる。そんな意味合いも込めて母親へ贈る花を束ねた。

乃東=夏枯草=靫草はシソの仲間。そうい

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芒種 第27候・梅子黄(うめのみきばむ)

芒種 第27候・梅子黄(うめのみきばむ)

「ながめる」とは 永い雨、長雨(ながめ)から来ているという。

間断なく降り続く雨を眺めていると そこはかないぼんやりしたときが過ぎていく。焦点はどこか遠くなっていく。

夜半過ぎても雨が降り続いていたりすると もぞもぞ起き出して 手近な異界である書物を読みたくなる 五月雨に濡れそぼる五月闇。雨は日常を異界にしてくれるから、雨音を聴きながら書物という森を踏み迷うにはうってつけだ。

「梅子黄 うめ

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芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)

芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)

冷房が効かないので

窓を開けて車を走らせていると

どこからやってきたのか

蟷螂の子がフロントガラスを斜めに翔けていく

たった一匹

梅雨入り前の途方も無く広い空を眼下に

二つの鎌を立て

身を反らせて

三角まなこはみどりの粒で

あんなにも軽々とあらわれて

もう会えない

花を活ける仕事をしていると

稀に蟷螂の卵が付いている枝がある

捨てられないのでバルコニーなどに保管しておくと

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小満;第24候・麦秋至(むぎのときいたる)

小満;第24候・麦秋至(むぎのときいたる)

麦は自給率も低いし、稲に比べると馴染みが薄い。金色の麦畑を見たことも数えるほどしかない。でも見かけた時はやっぱり美しくて記憶に残っている。

パンは好きだし、ケーキも好き。コーヒーとケーキはやっぱり合う。パスタもクラフトビールも好きだ。ユーラシアの行事を繙いていると稲と麦という東西の主食の違いが目に見えるものの差を生んでいるのがわかるから興味深い。

中国から伝わった七夕(しちせき)の行事ではかつ

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小満;第22候・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

小満;第22候・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

生まれ育った地域はかつて養蚕がとても盛んな土地柄で、小学生の頃は隣もお向かいも裏の家も田畑と養蚕を営んでいた。

隠し部屋のようになっていて使うときだけ降ろす階段が、土間続きに設えられていて、それを不思議な感覚で登った記憶がある。登ると蚕室は囲炉裏や寝室のある一階の上ほぼ全てという広さで、そんな板張りのガランとした「お蚕さん」の蚕室に何度か入れてもらったことがあるけど、何百匹といる蚕が草を食む音に

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立夏;第21候・竹笋生(たけのこしょうず)

立夏;第21候・竹笋生(たけのこしょうず)

筍の旬は10日ほどだという。ここから「旬」という概念も生まれているそうだ。

1日で1メートル伸びるなんて、

国語の「たけ」は猛々しいとか、高い、逞しいなどとも通じている。

竹の子のあのギュッと詰まった円すい形

竹の皮に包まれ 土を突き抜け

圧縮され凝縮されたエネルギーをいただく

一日1メートル伸びる その節の間の余白

水の通り道 

空への意志

かぐや姫さえも孕んで

目覚めたばか

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穀雨 第18候・牡丹華(ぼたんはなさく)

穀雨 第18候・牡丹華(ぼたんはなさく)

牡丹や文目が咲くともう夏だ。

「あなた、牡丹は赤じゃなきゃ だめよ」と長年バルコニーのお庭をお手入れさせていただいているお客様に言われたことがあった。別の場所にあった牡丹を随分前に移植して自宅のバルコニーに欲しいと言われたことがあって、以来その2株だけだったので、珍しいと思って黄色い牡丹をお持ちした時だった。

言われてみれば「牡丹」という名前には「丹」が入っていて赤なのだ。クラシックなものは襖

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穀雨 第17候・霜止出苗(しもやんでなえいづる)

穀雨 第17候・霜止出苗(しもやんでなえいづる)

4月25日。個人邸の造園引渡しがあった。

門柱と表札、インターフォンを取り付けて、足元の灌木地被類などを納めた。

霜やんで苗出づる。

緑は穀雨の雨を受けて広がり大いに繁茂するタイミング。

お施主さんご夫婦と庭師二人とで眺める。お家ができて引越しを挟んでずっと現場の進捗をご家族皆さんが見てくれていた。コロナによる自粛のタイミングだったから。友人である施主が一番よく見ていてくれたと思う。都度対

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清明 第15候・虹始見(にじはじめてあらわる)木を立て 気を立てる

清明 第15候・虹始見(にじはじめてあらわる)木を立て 気を立てる





春の土用を前に 個人邸のお庭は大体 引き渡しまでこれた

木を立てるのは 気を立てること 

彼らがおさまるところにおさまると 気立てのいい庭になる 

沓脱ぎ石も据えた 飛び石も打った 園路も整えた 

石は静かに 放散しがちな気を 鎮めてくれる

新しい時が動き始めるのを確認して お客さんへお渡しする

デザインの仕事はいちど手を離れる



夜間作業となるホテルの仕事はまだ途中だ

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春分 第11候・桜始開(さくらはじめてひらく)

春分 第11候・桜始開(さくらはじめてひらく)

楽しみに準備してきた弟の結婚式が感染リスクを避けるため延期になった。

都内の桜が満開を迎えるちょっと前の「すわ!」という時期だっただけに余計にもの悲しい。両家の親も楽しみにしていてくれた。本人たちも。僕もひとまわり年が違う弟の やや遅い晴れ姿を楽しみにしていた。

花見の自粛は震災を思い出す。

あの時も桜はいつもの桜ではなかった。

桜はいつものように咲いているけれど、愛でる人の目がそれをいつ

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春分 第10候・雀始巣(すずめはじめてすくう)

春分 第10候・雀始巣(すずめはじめてすくう)

藪椿がピークを過ぎて なお 咆哮している

お稲荷さんの裏の小さな畑

藍の種子を蒔いたので

春の陽の眩しい休日の午後 水を撒きに 

桜は2、3分咲き そのまま土手を 見上げると

空高く梢を伸ばす欅

ヤドリギがふっさり のっている

小さな藍畑 

種子を 雀が食べてしまう事がある

早く芽が出ないか  

芽が出るとよろこぶ 

土手の上には椿が溶け残っている 

啓蟄 第9候・菜虫化蝶(なむしちょうとなる)

啓蟄 第9候・菜虫化蝶(なむしちょうとなる)

小さな青虫が紋白蝶になる

軽井沢へ行った日、見慣れた浅間山は雪雲の中 この日はここから更に雲って行き 山が吹雪いているのが見えるほど 終日山沿いの街には風花が舞い続けた

季語に「雪の果(ゆきのはて)」がある

雪雲はもう里まで降りてこれないようだ 冬が終わろうとしている

雪が、白い蝶となって沫雪のように舞うのかもしれない

翌日見せてもらった庭

春空に斑(はだら)雪

まだ冬と春の間でうと

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啓蟄 第7候・蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)

啓蟄 第7候・蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)

郡山はまだ梅も咲いていなかった。ゆっくり、そして一気に春はやってくるのだろう。

啓蟄と聞くと、いつも宮崎駿の『風の谷のナウシカ』を思い出す。2011/3/11以降強く。毒はばら撒かれてしまったけど、愚を負うて歩くしかない。

「毒」という文字は頭に過剰に飾りをつけた女性を象っているという。頭の飾りはもしかしたら頭でっかちとなってしまった人の姿なのかもしれない。つまり身体の感覚に鈍感で、パンパンの

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