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まなかい ローカル72候マラソン

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まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        …
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#24節気72候

寒露:第51候・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

寒露:第51候・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

晩秋ともなると、夜にあれほど鳴いていた虫たちの声が減る。

蟋蟀戸にあり、

虫の数が減って、合唱だった歌が独唱となり、その歌が侘しくさせるのだろう。

秋も、彼らの生も残り僅か。

離れていくから名残惜しい。

恋情は燃えるが、それを振り払って、引き剥がして生きていく。

「あき」はそうやって「あきらめていく」とき。「飽きる」も語源だともされるが、いずれにしても距離が「空いて」いく。

自分の何

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大暑;第36候・大雨時行(たいうときどきにふる)

大暑;第36候・大雨時行(たいうときどきにふる)

アニメ『サマーウォーズ』の舞台である上田小県(うえだちいさがた)の一隅で育った。夕立は夏の風物詩。雲が湧き、風が吹き、みるみる暗くなって激しく降る雨は今思い出すとドキドキする。そのあと虹が見えることがよくあった。ぽたぽたからぽつんぽつんへと、落ちる雨垂れにも虹が宿った。緑が光った。

ひとときの休息で地元の高原に急いだ。花の好きな母と高原の花畑を見るためだ。

高原は霧に包まれていた。しとしと雨が

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大暑;第35候・土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)

大暑;第35候・土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)

大暑 土用

土はますます黒くなる 

しかし 東京のど真ん中だと 土の上に立つことは ほとんどない

蝉の幼虫も アズマヒキガエルも アスファルトで轢死体になって よく見つかる

恵まれたことに 氏神様の境内にある小さな畑で藍を育てる機会をここ数年いただいている。

藍染に使う蓼藍だ。

今年は土も入れ替えて 被さって日陰を作っていた椎なども剪定してもらって明るくなった 肥料も概ねひと月ごとに与

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大暑;第34候・桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)

大暑;第34候・桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)

氏神さまの赤坂氷川神社には、徳川吉宗公が一ッ木にあったとされる氷川神社をこの地に遷座(1730年)して以来の拝殿が残っています。総欅造り、朱漆塗りの拝殿は、関東大震災や東京大空襲を奇跡的に免れて創建時のまま残っています。

正面の壁間には桐と鳳凰が描かれています(写真は赤坂氷川神社のサイトより拝借)。古来中国では、聖天子(徳のある優れた王)が即位すると、瑞兆である鳳凰が現れると伝えられてきたといい

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小暑;第31候・温風至(あつかぜいたる)

小暑;第31候・温風至(あつかぜいたる)

都心の氏神様の杜で蝉の声をこの夏初めて聴いた 境内の小さな畑では藍が青の滲んだ緑濃い葉を広げてきた 

月桃の花も咲いた

この日はまっすぐ南下し 三浦半島へ向かった お庭の現場の下見

今まで馴染みがなかった土地だけど

「半島」という響き 海に迫り出しているというだけで魅力的だ

しかも地質学的にかなりユニークな土地 何十億年も前に差し込まれたフィリピン海プレートと太平洋プレートによる鬩ぎ合い

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小暑;第32候・蓮始開(はすはじめてひらく)

小暑;第32候・蓮始開(はすはじめてひらく)

鎌倉地方での仕事の合間、ちょっと余裕ができたので思い立って、、、いや何を思ったか覚園寺へ。その名前しか咄嗟に出てこなかった不思議。

どうしてこの日この時間にこの場所だったのか。

僕はほぼ一人で仏様やこのお山と向き合った。

仏様の多くは蓮台座つまり蓮の花の䑓にお座りになっている。この世で得業を積み、清らかな心で成仏すると極楽の蓮華の上に転生化生するという。

このイメージはあまりに美しい。

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芒種 第27候・梅子黄(うめのみきばむ)

芒種 第27候・梅子黄(うめのみきばむ)

「ながめる」とは 永い雨、長雨(ながめ)から来ているという。

間断なく降り続く雨を眺めていると そこはかないぼんやりしたときが過ぎていく。焦点はどこか遠くなっていく。

夜半過ぎても雨が降り続いていたりすると もぞもぞ起き出して 手近な異界である書物を読みたくなる 五月雨に濡れそぼる五月闇。雨は日常を異界にしてくれるから、雨音を聴きながら書物という森を踏み迷うにはうってつけだ。

「梅子黄 うめ

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芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)

芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)

冷房が効かないので

窓を開けて車を走らせていると

どこからやってきたのか

蟷螂の子がフロントガラスを斜めに翔けていく

たった一匹

梅雨入り前の途方も無く広い空を眼下に

二つの鎌を立て

身を反らせて

三角まなこはみどりの粒で

あんなにも軽々とあらわれて

もう会えない

花を活ける仕事をしていると

稀に蟷螂の卵が付いている枝がある

捨てられないのでバルコニーなどに保管しておくと

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小満;第24候・麦秋至(むぎのときいたる)

小満;第24候・麦秋至(むぎのときいたる)

麦は自給率も低いし、稲に比べると馴染みが薄い。金色の麦畑を見たことも数えるほどしかない。でも見かけた時はやっぱり美しくて記憶に残っている。

パンは好きだし、ケーキも好き。コーヒーとケーキはやっぱり合う。パスタもクラフトビールも好きだ。ユーラシアの行事を繙いていると稲と麦という東西の主食の違いが目に見えるものの差を生んでいるのがわかるから興味深い。

中国から伝わった七夕(しちせき)の行事ではかつ

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小満;第22候・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

小満;第22候・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

生まれ育った地域はかつて養蚕がとても盛んな土地柄で、小学生の頃は隣もお向かいも裏の家も田畑と養蚕を営んでいた。

隠し部屋のようになっていて使うときだけ降ろす階段が、土間続きに設えられていて、それを不思議な感覚で登った記憶がある。登ると蚕室は囲炉裏や寝室のある一階の上ほぼ全てという広さで、そんな板張りのガランとした「お蚕さん」の蚕室に何度か入れてもらったことがあるけど、何百匹といる蚕が草を食む音に

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立夏;第21候・竹笋生(たけのこしょうず)

立夏;第21候・竹笋生(たけのこしょうず)

筍の旬は10日ほどだという。ここから「旬」という概念も生まれているそうだ。

1日で1メートル伸びるなんて、

国語の「たけ」は猛々しいとか、高い、逞しいなどとも通じている。

竹の子のあのギュッと詰まった円すい形

竹の皮に包まれ 土を突き抜け

圧縮され凝縮されたエネルギーをいただく

一日1メートル伸びる その節の間の余白

水の通り道 

空への意志

かぐや姫さえも孕んで

目覚めたばか

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立夏;第20候・蚯蚓出(みみずいづる)

立夏;第20候・蚯蚓出(みみずいづる)

分解者の代表 蚯蚓。特にこの時期、彼らの役割を改めて思い出す。

場所は世田谷ものづくり学校。

ぽくぽくと土を耕してくれて、年々土は豊かになっていく。

人の手は最小限にしている都市では珍しい場所。足元に広がっている見えない営みが命を支えている。

蚯蚓もまた死んだら次の命の場所になる。

穀雨 第18候・牡丹華(ぼたんはなさく)

穀雨 第18候・牡丹華(ぼたんはなさく)

牡丹や文目が咲くともう夏だ。

「あなた、牡丹は赤じゃなきゃ だめよ」と長年バルコニーのお庭をお手入れさせていただいているお客様に言われたことがあった。別の場所にあった牡丹を随分前に移植して自宅のバルコニーに欲しいと言われたことがあって、以来その2株だけだったので、珍しいと思って黄色い牡丹をお持ちした時だった。

言われてみれば「牡丹」という名前には「丹」が入っていて赤なのだ。クラシックなものは襖

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穀雨 第17候・霜止出苗(しもやんでなえいづる)

穀雨 第17候・霜止出苗(しもやんでなえいづる)

4月25日。個人邸の造園引渡しがあった。

門柱と表札、インターフォンを取り付けて、足元の灌木地被類などを納めた。

霜やんで苗出づる。

緑は穀雨の雨を受けて広がり大いに繁茂するタイミング。

お施主さんご夫婦と庭師二人とで眺める。お家ができて引越しを挟んでずっと現場の進捗をご家族皆さんが見てくれていた。コロナによる自粛のタイミングだったから。友人である施主が一番よく見ていてくれたと思う。都度対

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