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大暑;第34候・桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)

氏神さまの赤坂氷川神社には、徳川吉宗公が一ッ木にあったとされる氷川神社をこの地に遷座(1730年)して以来の拝殿が残っています。総欅造り、朱漆塗りの拝殿は、関東大震災や東京大空襲を奇跡的に免れて創建時のまま残っています。

正面の壁間には桐と鳳凰が描かれています(写真は赤坂氷川神社のサイトより拝借)。古来中国では、聖天子(徳のある優れた王)が即位すると、瑞兆である鳳凰が現れると伝えられてきたといい、鳳凰が宿る木として神聖視されたのが梧桐です。いつ見てもとても瑞々しく美しい絵ですが、明治維新後、遷座二百年の記念に描かれたとのことです。

鳳凰(鳳が雄、凰が雌とされる)は霊水しか飲まず、60年に一度実る竹の実を食べ、梧桐の木にしかとまらないといいます。種々の動物が合わさった想像上の神鳥で、永遠の命を生きるとされています。

34候は「桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)」ですが、大暑の今頃、初夏に紫の花を咲かせた桐はもう実を結んでいます。その桐は中国では「白桐」と書き、花の色ではなく材の色が梧桐に比べて白いせいだろうかとも思います。鳳凰が宿るのは梧桐(青桐)だとされますから、桐箪笥や下駄に用いられる桐とは少し違うようです。花を結ぶ、とありますから実際を見てみますと都内で街路樹としても植えられている梧桐(アオギリ)はちょうど今頃開花します。ただ、梧桐の花はアイボリー色で花も小さく一見地味です。実はとてもユニークな舟形で船の縁に実がぽつねんとついている不思議な形です。青桐と言うだけあって幹の青さも目を引きます。幹でも活発に光合成をするのでしょう。青い幹で大きな緑の葉、それだけで若々しい春を想起させもします。

こうやってつらつら綴ってくると、34候の「桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)」の桐は「梧桐(アオギリ)」のことなのかと思いたくなります。


しかし赤坂氷川神社の拝殿に描かれた桐の花は青。

桐の花は青の顔料で鮮やかに描かれていますが、青は仙境にふさわしい色です。青い鳥、青い花がそうであるように、青は異界の色であり、憧れの色でもあります。五行説で青は東の色で日が昇る方位です。氷川神社の拝殿は南東に向いていて、冬至の頃、拝殿の奥深くまで陽光が射し込みます。つまり太陽の力が一番弱まるその時、金地に青い花が浮かび上がり、雌雄の鳳凰が鳴き交わすのが聴こえるようです。鳳凰は不死鳥ですから、南を守護する朱雀との繋がりも気になります。それは太陽の力の復活を願う気持ちの表れでもあり、永遠に続く日出づる国のことでもあったのかもしれません。

氷川神社に描かれている桐も葉っぱは梧桐に似ています。となると青い花はもはやイメージの花と言って良いと思います。

イメージの中でこそ、仙境を想い描け、僕たちの憧れは加速します。現実にとらわれることは無粋だと言うことなのでしょう。厳密にこれが梧桐か白桐か、というのはどうでも良くて、そんなことに縛られている間に、豊かな夢の時間はするりと何処かへ行ってしまう気がします。鳳凰自体が豊かな想像の産物でもあり、芸術のはたらきは、翼を持たせることでしょう。

鳳凰の声が青い花の間で谺し、守護している世界が何処かにきっとあって、拝殿ではしばしその世界に身を浸せれば、僕たちの生は新しく生まれ清まります。







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