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オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記

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留年、円安、アイデンティティ、自国における民主政治の崩壊、漠とした将来への不安、そして未知への欲動…… さまざまな外的圧力に押し潰されるようにして、文学徒が「外」へ出る!
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2023年5月の記事一覧

オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記 〈留年編〉

オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記 〈留年編〉

もうイッカイ、遊べるドン!

 専任軍曹ハートマンからは「そこで取れるのは種牛とオカマだ」と罵られ、トラヴィスが放浪し、ケネディの前頭が撃ち抜かれた地、テキサス。その地への旅券を私が予約したのは、ある出来事から一週間後、大急ぎでのことだった。
 留年である。それは長野で初のスノボに興じていたときだった、三月十日の正午、リフト内で恐る恐る大学のホームページを開く、「原級」の二文字が視界を捉えた、滑り

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オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈日常編〉

オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈日常編〉

キープ・ライト!

 数ある渡米体験記と同じく、おれにとっても最初の難関は右側通行であった。車社会のテキサスで働くとあっては流石に一台は必須であり、半年滞在するならば中古車を買って帰りぎわに売った方がむしろ安い、そのためおれは燃費の悪い起亜車を購入した。
 さて右側通行。道路に出ようとウィンカーを出す、しかし動いたのはワイパーだった、ハンドル横の操作も反転している、いよいよ道路へ、しばらく走ってい

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オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈同僚編〉

オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈同僚編〉

勝気のシェルビー・言語学のマリーナ

 私の研修を担当してくれたのは、シェルビーとマリーナだった。初日を担当してくれたシェルビーは、例えばロッカーの場所を説明するときに「You can put your shit inside there」と言うなど、とにかく下品な言葉を乱用したが、同時に責任感のある勝気な女性で、不意に見せる笑顔が眩しく、私は彼女を気に入っていた。彼女は研修翌日に日本語プリントの

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