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編集には、セオリーより大切なものがある/編集者の言葉#9

今回は、ひとり出版社・里山社の編集者、清田麻衣子さんの言葉です。清田さんは、里山社開業から本を出すまでの経緯を「本を出すまで」(マガジン航)というWeb連載で書き綴っていました。今回ご紹介する言葉は、その第6回「夏葉社の営業に同行する」にあります。

たとえセオリーから外れる本でも、一点、揺るぎない魅力があれば、あとは心血注いで作る。社員が自分一人になった時、欠点だらけの自分の長所を自分で誉めて伸ばすようなものだと思った。

マガジン航「本を出すまで」

清田さんの揺るぎない決意が感じられる言葉ですが、すぐにこの心境に思い至ったわけではありません。むしろあとでお話しするように、セオリーの前にやりたい企画も諦めてしまうような状態でした。

そんななかでひとり出版社開業への道を模索していた清田さんは、以前から出版社を作ることを相談していた夏葉社の島田潤一郎さんに、営業同行を誘われます。作家、音楽家、愛書家ら84人が「冬」と「本」について書き下ろしたエッセイ集『冬の本』の営業に、一緒に来ないかというのです。

「営業することに不安がある」という清田さんの思いをくんだ島田さんのはからいでした。

まず営業に入ったのはある大型書店。担当の書店員さんに営業するも、「たくさんの人が集まってる本って、この人の原稿だけを読みたいっていう人があまりいないから弱いんですよね」と後ろ向きな反応。しかし島田さんはひるまず歓談を続けると、10冊の注文を決めました。

「僕は複数著者についてネガティブな印象を言われた場合、そのこと自体への反対意見ではなく、その中の著者の良いところをプッシュし続けます」

マガジン航「本を出すまで」

清田さんは、島田さんの言葉にハッとなります。そして、「これまで、複数著者の他にも〝対談本は弱い〟〝第二弾は売れない〟など、数多のセオリーを提示されて、企画会議や営業部の指摘で企画を却下されるうち、少し浮かんでも「これはダメだな」と何度自分内企画会議で企画を却下し続けてきたことか。」と自分を振り返ったあとに続くのが、冒頭でご紹介した言葉です。話が長くてすみません。

確かに出版界には「複数著者の本は弱い」というセオリーがあります。理由は書店さんが言ったとおりです。

しかし定石はあくまで定石。いくらそこから外れていようが、人気の出る本はあるわけで。

たとえば「〆切り本」(左右社)なんてまさにそうですね。私は表紙を見ただけで吸い寄せられて、買ってしまいました。第2弾まで出版されてまさにセオリー外の成功です。

大切なのはその本に、一点でも揺るぎない魅力があるかどうか。その作品について感じた魅力を、自分が強く信じて心血を注いで仕事ができるかどうかではないでしょうか。

揺るぎない決意をこころに灯した清田さんが、里山社として最初に出した出版物は、なんと写真集。東日本大震災から変わりゆく三陸と福島の様子を映した『はまゆりの頃に 三陸、福島2011-2013』(田代一倫著)でした。

本書は、自宅跡にさがしものにきた女性や、福島第一原発に働きに来ている男性など、総勢1200人の写真から453枚の肖像写真を一冊にまとめたものです。私も手に取って読んだのですが、心をつかまれました。

清田さんが心血注いで編集した成果もあり、作品は前途有望な新鋭カメラマンに与えられる「さがみはら新人写真奨励賞」を受賞しました。


セオリーに従うのも大切です。しかしセオリーの中で考えるのに慣れてしまうと、新しい企画は生まれにくくなってしまいます。セオリーにとらわれすぎない大切さを、この言葉に学びました。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
よい一日を!



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