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渡の周りは才ばかり 6話
今日は生憎の空模様。今にも雨が降り出しそうな重たい雲の下、西高校では就業のチャイムが鳴り響いていた。
「さようなら」
帰りのホームルームも終わり、渡のクラスメイトは、各々部活だの帰宅だのへと向かっていった。
「ねえ渡。今日私オフなんだけど—」
「今日はマジで用事あるから無理」
「もー。バスケじゃないよ。一緒に帰ろって誘おうと思ったの」
才花は右頬をぷくっと膨らませた。
「あー、それ
渡の周りは才ばかり 5話
連休明けの五月二週目。昼間の気温は段々と夏に近づき、西高校の中庭の植物も青々として来ていた。
「はい。それじゃあ、今日は隣の人の似顔絵を描いていきましょう」
「先生、今日隣の人休みです」
「あれま。それならどっか入れてもらって」
「はあい」
そう言われた少女は、ショートの髪を揺らして、見知った二人の元へと向かった。
「いーれーて」
「おう、いいぞ」
「どぞー」
「あ、り、が、と
渡の周りは才ばかり 4話
「あーーーー。暇だあああああ」
四月末、連休前の昼下がり、日差しは既に強くなっていてもう空気は熱を帯びていた。
「どうした才花。ぐでっとして」
「やあ、渡さんや」
机に脱力して突っ伏しながら、才花は顔だけ隣の席の渡の方へと向けた。彼女の柔らかい頬が机でもちのようにつぶれていた。
「今日ってもうこれで授業終わりでしょ?」
「おん。そうですね」
「でさ、職員研修でさ、なんか部活もオフに
渡の周りは才ばかり 3話
春とはいえ、まだ夜は少し冷えるようで、校門にちらほら見える部活終わりの生徒たちは皆、動いた後とはいえワイシャツの上にブレザーを羽織っていた。
「ごめん。おまたせい」
「こっちこそ、急にごめん」
渡が向かった先、暗がりの照明の下、校門の脇で待っていたのは秋だった。それともう一人、秋の横に立つ男子生徒の姿があった。
「こんにちは。渡先輩。お久しぶりです」
サッカーの練習着のままでいて、秋
渡の周りは才ばかり 2話
放課後、特別棟三階の廊下。そこは窓から差し込む光で優しいオレンジ色を帯びていた。
その廊下に斜めの影を作りながら、渡が一人歩いていた。歩く彼は外を眺める。そこにはグラウンドを駆け回るサッカー部の姿があった。ボールを止めては蹴る。そして走り出す。渡はその練習風景に何か言おうとしたのか、彼の唇が微かに動いた。が、結局息すれ漏れなかった。
渡は少し視線を上げて窓に映る自分を見た。進みながらも見つめる