「おはよう」 隣の席の大田はいつも私に挨拶をしてくれる。別に特段仲がいいわけでもないのに、毎朝必ずおはようと言ってくれる。 「おはよ」 それに私はいつもそ…
満天の星。 ビーズを床いっぱいに撒き散らしたように、星々は空を埋め尽くす。そんな夜空を眺める少女は、両手を絡めるようにその控えめな胸の前で合わせていた。 彼…
私はこんなことをするために生まれてきたんじゃない。 私は、誰かをひもじくさせるために生まれてきたんじゃない。誰かに美味しいものを届けるために生まれてきたの。 …
今朝はとても目覚めが良かった。日曜、休日の私。壁にかかった時計に目をやると針は八時を示していた。 私は伸びをしてから、カーテンから漏れ入る薄い色をした朝日に…
私は昨日、敵を撃った。 血飛沫がとても綺麗で胸躍った。 反面、彼の服を漁ったとき、胸ポケットにあった写真はひどく私の胸を締め付けた。 どうすればよかったの…
努力なんてクソ喰らえ。 それをモットーにずっと生きてきた。世の中才能でどうにかなるって信じて生きてきた。 「お前、なんでさっきあそこでパスしたの? 絶対シュ…
私は本当に、あいつのことが好きだったのだろうか。 夏、光る星達は地上の明かりで厳選され、数個しか見えていない。そのくせ月は、しっかりと三日月形にぶら下がって…
開けた草原の丘に佇む、一本の大きな木。それは、空をもを飲み込むほど枝葉をいっぱいに伸ばしていた。 私はこの木の名前を知らない。 それでも小さい頃からずっと、…
「私、空を飛んでみたい。自分の意志で自由に飛んでみたい」 西国の田舎町。まっさらな砂地が続きながら、たまにあるのが大きな畑。 そこで生まれ育った少女が一人、…
昨日、隣の家の前田さんが亡くなった。 一昨日には、向かいの家の佐藤さんが亡くなった。 一週間前は左の家の柏さん家族三人が亡くなった。 じゃあ次はそろそろ…
俺はケチャップが嫌いだ。 朝食のスクランブルエッグにかかっていた日には、見るだけで吐き気がする。 「おはよう、あなた。朝食できてるわよ」 いつもより遅めの…
「大丈夫。大丈夫」 「うん」 「我慢しよう」 「うん」 夜も更けた頃、それでも街は明るくうるさかった。 深く掘られた穴の中、揺れ動くのを感じながら、多く…
この世界ではかつて、とてつもないほど大規模な戦争が行われていた。その戦争で世界人口は半分に減り、大陸は月のようにぼこぼこになった。 それからそこに住む人びと…
私が綴ったこの手紙は、果たしてあなたに届くのでしょうか。 拝啓 けんじくん、今日は私の上ばきをいっしょに探してくれてありがとう。 学校中探しまわって…
ああ、憂鬱だ。 真っ暗な部屋、ベッドに横たわる私はスマホの画面をつけた。 時刻は既に午前1時を回っている。 長い連休明けの今日、朝から重い気分と体を無理やり…
「右と左どっちがいい?」 少女が両手をグーにして、少年の前に差し出した。 「え、なにそれ」 「いいから選んで」 「じゃあ左」 少年の指差す先、少女の左…
あからん
2024年5月29日 01:30
「おはよう」 隣の席の大田はいつも私に挨拶をしてくれる。別に特段仲がいいわけでもないのに、毎朝必ずおはようと言ってくれる。 「おはよ」 それに私はいつもそっけなく返している。 大田の席にはいつも数人が集まって、隣が少し騒がしくなる。私はそれを遠く聞き流して、すぐ横の窓外を眺めている。流れる雲とか、青い空とか。 今日は中庭で揺れる大きな木に目をやった。隣ではいつも通り男女の笑い声がする。
2024年5月28日 00:25
満天の星。 ビーズを床いっぱいに撒き散らしたように、星々は空を埋め尽くす。そんな夜空を眺める少女は、両手を絡めるようにその控えめな胸の前で合わせていた。 彼女の着る白のワンピースが夜風に揺られ、彼女の長く細やかな毛先から甘い香りが漂う。庭先、生え揃った緑の芝生の上、リビングの大窓から漏れる明かりが裸足で降り立つ少女の影を作る。 「いつまでそうしてるの。風引くわよー。早く家の中入りなさい」
2024年5月25日 04:20
私はこんなことをするために生まれてきたんじゃない。 私は、誰かをひもじくさせるために生まれてきたんじゃない。誰かに美味しいものを届けるために生まれてきたの。 私は誰かを囚えるために生まれてきたんじゃない。誰かを自由に羽ばたかせるために生まれてきたの。 私は誰かを泣かせるために生まれてきたんじゃない。誰かを笑わせるために生まれてきたの。 私は誰かを殺すためじゃない。誰かを救うために生まれて
2024年5月24日 02:25
今朝はとても目覚めが良かった。日曜、休日の私。壁にかかった時計に目をやると針は八時を示していた。 私は伸びをしてから、カーテンから漏れ入る薄い色をした朝日に誘われてベランダに出た。少しの眩しさに軽く目を細める。当たる日差しに温もりを感じながらも、吐く息の白さに、もうすぐそこまで来たの冬の訪れを予感した。 「おはよう」 道端をヒョコヒョコ歩く鳥に笑いかけてから、私はリビングへと向かった。
2024年5月23日 02:52
私は昨日、敵を撃った。 血飛沫がとても綺麗で胸躍った。 反面、彼の服を漁ったとき、胸ポケットにあった写真はひどく私の胸を締め付けた。 どうすればよかったのだろうか。 彼だけに向けたはずの銃口は、彼の後ろ側にいる人間にも向けられていた。一人の向こう、何人もの人間、さらにその向こうの何人もの人間。 連なって繋がって、そこで私は改めて気付いた。 鉛の使い道はこれではないと。
2024年5月21日 21:09
努力なんてクソ喰らえ。 それをモットーにずっと生きてきた。世の中才能でどうにかなるって信じて生きてきた。 「お前、なんでさっきあそこでパスしたの? 絶対シュート打ったほうが良かったって」 夕日も沈み切り、暗がりを真っ白な照明が照らすグラウンド。ボトルの水を流し込む俺に、チームメイトがそう言ってきた。 「わり、気をつけるわ」 俺が一言返すと笛がなる。 「はい、じゃあもう一回ね」 顧問
2024年5月20日 23:21
私は本当に、あいつのことが好きだったのだろうか。 夏、光る星達は地上の明かりで厳選され、数個しか見えていない。そのくせ月は、しっかりと三日月形にぶら下がっていた。 狭いアパートのベランダで、風呂上がり、私は缶ビールの蓋をゆっくりと開けた。シュカッと小気味よい音が、遠くのエンジン音と混ざり消えゆく。 もうここに来て三年、下水の異臭とじっとりとした暑さには慣れた。この缶ビールの苦さにも。 そ
2024年5月17日 02:52
開けた草原の丘に佇む、一本の大きな木。それは、空をもを飲み込むほど枝葉をいっぱいに伸ばしていた。 私はこの木の名前を知らない。 それでも小さい頃からずっと、その木陰で本を読むのが好きだった。 たまに漏れる日の光がとても暖かくて、それでたまにうたた寝もして。この木はもたれ掛かる私を、いつも支えてくれていた。 手を触れればゴツゴツとしていて、力強さを感じさせてくれるのに、私が悲しんでいると必
2024年5月15日 23:56
「私、空を飛んでみたい。自分の意志で自由に飛んでみたい」 西国の田舎町。まっさらな砂地が続きながら、たまにあるのが大きな畑。 そこで生まれ育った少女が一人、どこか誓うように夜空に願う。 キラキラと星が一杯に散らばる空の下、家のベランダで手を合わせる彼女は夜風にあたり、長い金の髪を揺らしていた。 「その為には翼がいるね」 どこからか響くその声。 少女は辺りを見回すが、果たしてどこにいる
2024年5月15日 03:29
昨日、隣の家の前田さんが亡くなった。 一昨日には、向かいの家の佐藤さんが亡くなった。 一週間前は左の家の柏さん家族三人が亡くなった。 じゃあ次はそろそろ家だろう。 私は迫りくる死神が、常に首元を狩ろうとしているように感じていた。 夕暮れ時、仕事帰りで、てくてく駅から家へと歩く。 車たちは絶え間なく轟音を出して、私のすぐ横を風切っていく。本当に危ない。 以前まではたくさん人がいたの
2024年5月14日 02:17
俺はケチャップが嫌いだ。 朝食のスクランブルエッグにかかっていた日には、見るだけで吐き気がする。 「おはよう、あなた。朝食できてるわよ」 いつもより遅めの起床。 リビングの大きな窓の向こう、庭の芝生が青々と陽光に照らされている。眩しいくらいだ。 テーブルの席についた俺は、用意されたコーヒーに手を伸ばした。 一口含んでその香りを楽しむ。 トロッとした酸っぱさに、少し鼻を抜けるような爽
2024年5月11日 02:25
「大丈夫。大丈夫」 「うん」 「我慢しよう」 「うん」 夜も更けた頃、それでも街は明るくうるさかった。 深く掘られた穴の中、揺れ動くのを感じながら、多くの人が身を寄せ合って、互いを励まし合う。 「お母さんっ! お母さんどこ!?」 「大丈夫っ。きっと大丈夫だから」 叫んで今にも穴から飛び出しそうな女の子を、少し顔にシワの入った女性が抱きついて制止した。 街のそこかしこは爆炎に包ま
2024年5月9日 21:28
この世界ではかつて、とてつもないほど大規模な戦争が行われていた。その戦争で世界人口は半分に減り、大陸は月のようにぼこぼこになった。 それからそこに住む人びとは考えた。 戦争を、もっと安全に行おうと。 「おい、お前今日が初めの戦場か?」 「はいっ」 「まあ、そこまで気張んな。昔と違って死ぬこたぁねーから」 「はいっ」 背の高い、今にも服を八切らせそうなほど隆々とした筋肉をまとった
2024年5月9日 00:07
私が綴ったこの手紙は、果たしてあなたに届くのでしょうか。 拝啓 けんじくん、今日は私の上ばきをいっしょに探してくれてありがとう。 学校中探しまわってくれて、中庭の池の中まで見てくれて、服とかよごれちゃったよね。お母さんにおこられちゃうよね、ごめんね。 見つかったって言ったけど、本当は見つかってないんだ。けどさ、やっぱりけんじ君にはめいわくかけたくないよ。 いつもたくさん話しかけ
2024年5月7日 21:18
ああ、憂鬱だ。 真っ暗な部屋、ベッドに横たわる私はスマホの画面をつけた。 時刻は既に午前1時を回っている。 長い連休明けの今日、朝から重い気分と体を無理やり引きずって会社へ向かった。そんな状態で仕事に身が入るわけもなく、私はあくびをしながらパソコンとにらめっこ状態。 それで上司に少し嫌味を言われた。 なんだっけ、「気合が足りない」だのなんだの…。 休み明けに元気になれって方が難しいっ
2024年5月7日 01:33
「右と左どっちがいい?」 少女が両手をグーにして、少年の前に差し出した。 「え、なにそれ」 「いいから選んで」 「じゃあ左」 少年の指差す先、少女の左手がゆるりと翻り、開かれる。 「ざんねーん。ハズレでした」 「右、何入ってるんだよ」 「また今度当てたら教えてあげる」 少女は意地悪にもそう言うと、後ろ手に組んで歩き始める。 「なんだよそれ」 日も随分と傾き、黒がオレンジを