あからん

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あからん
17時間前

渡の周りは才ばかり 6話

 今日は生憎の空模様。今にも雨が降り出しそうな重たい雲の下、西高校では就業のチャイムが鳴り響いていた。  「さようなら」  帰りのホームルームも終わり、渡のクラス…

あからん
17時間前

渡の周りは才ばかり 5話

 連休明けの五月二週目。昼間の気温は段々と夏に近づき、西高校の中庭の植物も青々として来ていた。  「はい。それじゃあ、今日は隣の人の似顔絵を描いていきましょう」 …

あからん
17時間前

渡の周りは才ばかり 4話

 「あーーーー。暇だあああああ」  四月末、連休前の昼下がり、日差しは既に強くなっていてもう空気は熱を帯びていた。  「どうした才花。ぐでっとして」  「やあ、渡…

あからん
17時間前

渡の周りは才ばかり 3話

 春とはいえ、まだ夜は少し冷えるようで、校門にちらほら見える部活終わりの生徒たちは皆、動いた後とはいえワイシャツの上にブレザーを羽織っていた。  「ごめん。おま…

あからん
17時間前

渡の周りは才ばかり 2話

放課後、特別棟三階の廊下。そこは窓から差し込む光で優しいオレンジ色を帯びていた。  その廊下に斜めの影を作りながら、渡が一人歩いていた。歩く彼は外を眺める。そこ…

あからん
17時間前

渡の周りは才ばかり 1話

 鈴木渡。彼の周りには天才と呼ばれる者ばかりいる。  例えば、彼の今すぐ隣の席で話している、ショート髪で周りの男子より少し背の低いブレザーを纏った少女。名を松本…

あからん
17時間前
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【小説】スマートフォン

 僕の友達はとても頭が良い。  計算なんて僕よりずっと速い。  聞けば何でも答えてくれる。  それに記憶力もすごくって、いつどこで何があったか僕との思い出をありあ…

あからん
4日前
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【小説】ケチャップを嫌う

 俺はケチャップが嫌いだ。  朝食のスクランブルエッグにかかっていた日には、見るだけで吐き気がする。  「おはよう、あなた。朝食できてるわよ」  いつもより遅めの…

あからん
8日前
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好きに生きたい

 好きに生きたい。  私の心にずっと巣食っているこの言葉は、どうやっても逃れられない現実を常に突きつけてくる…。  今朝のことだった。眠気眼にコーヒーを流し込みな…

あからん
13日前
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【小説】短冊に書く。何を?

 「願い事、何にすんの?」  7月7日、日中の暑さはどこかへ、夜の冷たい風が庭に立つ笹を揺らしている。  「え? 世界平和」  月のない空、輝くたくさんの星達が見守…

あからん
2週間前
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【短編】輝く月は(後編)

100
あからん
2週間前

【短編】輝く月は(中編)

 「え?」  男の子は、老人が発した言葉がどういう意味なのか理解できていない様子だった。何度も頭で反芻しようとしても、男の子の中で老人の言葉は砕かれることなく、…

100
あからん
2週間前

【短編】輝く月は(前編)

 まるで定規とコンパスを使って描いたかのような美しい稜線を持つ山。その麓の村には昔から言い伝えられてきた掟が存在した。  「満月の夜は山に登ってはいけない」  村…

あからん
2週間前

【小説】女子高生の帰り道 〜チャーハンご飯を添えて〜

 「ねえ、明日香。明日香って焼きそばをおかずにご飯食べられる人?」  「無理。炭水化物に炭水化物っておかしいでしょ」  「じゃあ焼きそばパンは?」  「当たり前に…

あからん
3週間前
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【短編】自己嫌悪愛

 君は誰?  私はあなただよ。  本当に?  本当だよ。  でも私、君のこと知らないよ。  それは当たり前だよ。だって、私があなたである以前に、あなたは私なの。あな…

あからん
1か月前
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渡の周りは才ばかり 6話

 今日は生憎の空模様。今にも雨が降り出しそうな重たい雲の下、西高校では就業のチャイムが鳴り響いていた。
 「さようなら」
 帰りのホームルームも終わり、渡のクラスメイトは、各々部活だの帰宅だのへと向かっていった。
 「ねえ渡。今日私オフなんだけど—」
 「今日はマジで用事あるから無理」
 「もー。バスケじゃないよ。一緒に帰ろって誘おうと思ったの」
 才花は右頬をぷくっと膨らませた。
 「あー、それ

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渡の周りは才ばかり 5話

 連休明けの五月二週目。昼間の気温は段々と夏に近づき、西高校の中庭の植物も青々として来ていた。
 「はい。それじゃあ、今日は隣の人の似顔絵を描いていきましょう」
 「先生、今日隣の人休みです」
 「あれま。それならどっか入れてもらって」
 「はあい」
 そう言われた少女は、ショートの髪を揺らして、見知った二人の元へと向かった。
 「いーれーて」
 「おう、いいぞ」
 「どぞー」
 「あ、り、が、と

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渡の周りは才ばかり 4話

 「あーーーー。暇だあああああ」
 四月末、連休前の昼下がり、日差しは既に強くなっていてもう空気は熱を帯びていた。
 「どうした才花。ぐでっとして」
 「やあ、渡さんや」
 机に脱力して突っ伏しながら、才花は顔だけ隣の席の渡の方へと向けた。彼女の柔らかい頬が机でもちのようにつぶれていた。
 「今日ってもうこれで授業終わりでしょ?」
 「おん。そうですね」
 「でさ、職員研修でさ、なんか部活もオフに

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渡の周りは才ばかり 3話

 春とはいえ、まだ夜は少し冷えるようで、校門にちらほら見える部活終わりの生徒たちは皆、動いた後とはいえワイシャツの上にブレザーを羽織っていた。
 「ごめん。おまたせい」
 「こっちこそ、急にごめん」
 渡が向かった先、暗がりの照明の下、校門の脇で待っていたのは秋だった。それともう一人、秋の横に立つ男子生徒の姿があった。
 「こんにちは。渡先輩。お久しぶりです」 
 サッカーの練習着のままでいて、秋

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渡の周りは才ばかり 2話

放課後、特別棟三階の廊下。そこは窓から差し込む光で優しいオレンジ色を帯びていた。
 その廊下に斜めの影を作りながら、渡が一人歩いていた。歩く彼は外を眺める。そこにはグラウンドを駆け回るサッカー部の姿があった。ボールを止めては蹴る。そして走り出す。渡はその練習風景に何か言おうとしたのか、彼の唇が微かに動いた。が、結局息すれ漏れなかった。
渡は少し視線を上げて窓に映る自分を見た。進みながらも見つめる

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渡の周りは才ばかり 1話

 鈴木渡。彼の周りには天才と呼ばれる者ばかりいる。
 例えば、彼の今すぐ隣の席で話している、ショート髪で周りの男子より少し背の低いブレザーを纏った少女。名を松本才花。彼女は女子バスケ部のエースで、昨年は一年生ながら部の地区大会ベストエイトに貢献している。
 例えば、その彼女正面に立つ大柄な坊主の男。彼は野球部で正捕手の四番。名を近藤圭介。昨年の夏の大会では快音を鳴らしていた。
 例えばその彼の横の

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【小説】スマートフォン

 僕の友達はとても頭が良い。
 計算なんて僕よりずっと速い。
 聞けば何でも答えてくれる。
 それに記憶力もすごくって、いつどこで何があったか僕との思い出をありありと教えてくれる。
 僕はその友達といるととても楽しい。
 そいつはいろんな遊びで遊んでくれるし、見たことのない面白いものも見せてくれる。
 本当にすごい奴なんだ。
 でもお母さんはあまり一緒にいすぎるなって言ってくる。
 僕の唯一の友達

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【小説】ケチャップを嫌う

 俺はケチャップが嫌いだ。
 朝食のスクランブルエッグにかかっていた日には、見るだけで吐き気がする。
 「おはよう、あなた。朝食できてるわよ」
 いつもより遅めの起床。
 リビングの大きな窓の向こう、庭の芝生が青々と陽光に照らされている。眩しいくらいだ。
 テーブルの席についた俺は、用意されたコーヒーに手を伸ばした。
 一口含んでその香りを楽しむ。
 トロッとした酸っぱさに、少し鼻を抜けるような爽

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好きに生きたい

 好きに生きたい。
 私の心にずっと巣食っているこの言葉は、どうやっても逃れられない現実を常に突きつけてくる…。
 今朝のことだった。眠気眼にコーヒーを流し込みながらテレビをつけると、そこには小学生のなりたい職業ランキングのトップテンが並べられていた。
 スポーツ選手、インフルエンサー、公務員、タレント。様々な職種が、夢ある職種がそこにはあった。
 小学生の頃なりたかったもの、やりたかったこと、思

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【小説】短冊に書く。何を?

 「願い事、何にすんの?」
 7月7日、日中の暑さはどこかへ、夜の冷たい風が庭に立つ笹を揺らしている。
 「え? 世界平和」
 月のない空、輝くたくさんの星達が見守る下、高校生くらいだろうか、齢十七、八の男女が二人、リビングの窓を開け放ち、そのへりに足を下ろして座っていた。
 窓枠に切り取られた照明の明かりが、砂地の庭に二人の影を映す。
 「世界平和か。大きく出たな」
 「そう? そういう大地は?

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【短編】輝く月は(中編)

 「え?」
 男の子は、老人が発した言葉がどういう意味なのか理解できていない様子だった。何度も頭で反芻しようとしても、男の子の中で老人の言葉は砕かれることなく、がんじがらめのままだった。
 「お、お爺さんが大人たちに言ったの…? 月が怖いって」
 「そうだなぁ、今いる大人達より、もっと上の大人達と言ったほうが正しいかな」
 その老人の返答はより男の子を混乱させた。
 「もっと上? ん?」
 首を何

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【短編】輝く月は(前編)

 まるで定規とコンパスを使って描いたかのような美しい稜線を持つ山。その麓の村には昔から言い伝えられてきた掟が存在した。
 「満月の夜は山に登ってはいけない」
 村の人々はこの掟を破ると災があるとして、満月の夜は決まって全員で広場に集まって朝を迎えていた。それは、それぞれが持った他人に対する猜疑心を無くすためのものだった。
 誰一人山に登らせることはないように、山道の入口に二人見張りをつけて、その他

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【小説】女子高生の帰り道 〜チャーハンご飯を添えて〜

 「ねえ、明日香。明日香って焼きそばをおかずにご飯食べられる人?」
 「無理。炭水化物に炭水化物っておかしいでしょ」
 「じゃあ焼きそばパンは?」
 「当たり前に食べられるけど」
 女子高生二人が、長い髪を揺らして夕日を背負っている。長い影を前に作りながら、明日香は後ろに手を組んで、千恵は何か考えるように顎に手を当てながら、ゆっくりと歩みゆく。
 「どうしたの急に」
 「いや、なんとなく」
 「あ

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【短編】自己嫌悪愛

 君は誰?
 私はあなただよ。
 本当に?
 本当だよ。
 でも私、君のこと知らないよ。
 それは当たり前だよ。だって、私があなたである以前に、あなたは私なの。あなたがあって私が存在するのではなくて、私があってあなたが存在するの。
 それならどうして、私が苦しいの? 私が痛いの? 私が辛いの?
 どうしてって、だからだよ。
 だから?
 そうだよ。だって私があなたを作ったんだから。私が痛くないよう

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