あからん

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【短編】つばさ

 「私、空を飛んでみたい。自分の意志で自由に飛んでみたい」  西国の田舎町。まっさらな砂地が続きながら、たまにあるのが大きな畑。  そこで生まれ育った少女が一人、どこか誓うように夜空に願う。  キラキラと星が一杯に散らばる空の下、家のベランダで手を合わせる彼女は夜風にあたり、長い金の髪を揺らしていた。  「その為には翼がいるね」  どこからか響くその声。  少女は辺りを見回すが、果たしてどこにいるのか、見つからない。  「僕があげても良いよ」  「え?」  ふわりふわりと花び

    • 【短編】鎌

       昨日、隣の家の前田さんが亡くなった。   一昨日には、向かいの家の佐藤さんが亡くなった。  一週間前は左の家の柏さん家族三人が亡くなった。  じゃあ次はそろそろ家だろう。  私は迫りくる死神が、常に首元を狩ろうとしているように感じていた。  夕暮れ時、仕事帰りで、てくてく駅から家へと歩く。  車たちは絶え間なく轟音を出して、私のすぐ横を風切っていく。本当に危ない。  以前まではたくさん人がいたのに、最近はやけに道を歩く人が少ない。  あれ、ここどこだ。  聞こえていた轟音は

      • 【短編小説】ケチャップを嫌う

         俺はケチャップが嫌いだ。  朝食のスクランブルエッグにかかっていた日には、見るだけで吐き気がする。  「おはよう、あなた。朝食できてるわよ」  いつもより遅めの起床。  リビングの大きな窓の向こう、庭の芝生が青々と陽光に照らされている。眩しいくらいだ。  テーブルの席についた俺は、用意されたコーヒーに手を伸ばした。  一口含んでその香りを楽しむ。  トロッとした酸っぱさに、少し鼻を抜けるような爽やかさ。一日の始まりに相応しい。  そして俺は、焼き立てのトーストにお気に入りの

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        • 【短編】何もなくなっちゃった。

           「大丈夫。大丈夫」  「うん」  「我慢しよう」  「うん」  夜も更けた頃、それでも街は明るくうるさかった。  深く掘られた穴の中、揺れ動くのを感じながら、多くの人が身を寄せ合って、互いを励まし合う。  「お母さんっ! お母さんどこ!?」  「大丈夫っ。きっと大丈夫だから」  叫んで今にも穴から飛び出しそうな女の子を、少し顔にシワの入った女性が抱きついて制止した。  街のそこかしこは爆炎に包まれ、立ち昇る煙は黒く、空に近づくほど闇に紛れていく。  空から降ってくるのは、大

        【短編】つばさ

          【短編】鉛を水に

           この世界ではかつて、とてつもないほど大規模な戦争が行われていた。その戦争で世界人口は半分に減り、大陸は月のようにぼこぼこになった。  それからそこに住む人びとは考えた。  戦争を、もっと安全に行おうと。    「おい、お前今日が初めの戦場か?」  「はいっ」  「まあ、そこまで気張んな。昔と違って死ぬこたぁねーから」  「はいっ」  背が高く、隆々とした筋肉が服から八切れそうな兵が、新兵に話しかける。  二人は他の仲間たちと共に、北の大陸へと輸送されていた。その飛行機かの窓

          【短編】鉛を水に

          【短編】あなたへ

           私が綴ったこの手紙は、果たしてあなたに届くのでしょうか。    拝啓    けんじくん、今日は私の上ばきをいっしょに探してくれてありがとう。  学校中探しまわってくれて、中庭の池の中まで見てくれて、服とかよごれちゃったよね。お母さんにおこられちゃうよね、ごめんね。  見つかったって言ったけど、本当は見つかってないんだ。けどさ、やっぱりけんじ君にはめいわくかけたくないよ。  いつもたくさん話しかけてくれるけど大じょうぶだよ。  ありがとう。                 

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          【短編】あなたへ

          五月の病

           ああ、憂鬱だ。  真っ暗な部屋、ベッドに横たわる私はスマホの画面をつけた。  時刻は既に午前1時を回っている。  長い連休明けの今日、朝から重い気分と体を無理やり引きずって会社へ向かった。そんな状態で仕事に身が入るわけもなく、私はあくびをしながらパソコンとにらめっこ状態。  それで上司に少し嫌味を言われた。  なんだっけ、「気合が足りない」だのなんだの…。  休み明けに元気になれって方が難しいっての。  あーあー、思い出しただけで腹立ってきた。  違う違う、仕事に対してちゃ

          五月の病

          【短編】雪がとけると…

           「右と左どっちがいい?」   少女が両手をグーにして、少年の前に差し出した。  「え、なにそれ」  「いいから選んで」  「じゃあ左」  少年の指差す先、少女の左手がゆるりと翻り、開かれる。  「ざんねーん。ハズレでした」  「右、何入ってるんだよ」  「また今度当てたら教えてあげる」  少女は意地悪にもそう言うと、後ろ手に組んで歩き始める。  「なんだよそれ」  日も随分と傾き、黒がオレンジを飲み込もうとしている。そんな空の下、小学校の帰り道を二人で歩く少年少女。  「も

          【短編】雪がとけると…

          【短編】今日もカエルはまちがえる

           ケロケロこんにちは。僕はアマガエルのケロ太。  最近ようやく両手足が生え揃って、尻尾もなくなったんだ。  立派なカエルになるために、今は色々特訓中!  今日は夜の田んぼで仲間と命一杯歌の練習だ。  「ようケロ太。喉の調子はどうだ?」  「ケロ吉爺さん。今日も絶好調さ」  本当は昨日鳴き過ぎて、今朝から喉が痛いんだけど、みんなに追いつきたいから無理してでもがんばるぞ!  「ほっほ、それなら良かった。さあ、みんな集まってきたぞ」  ぞろぞろと僕の仲間たちが整列を作っていく。  

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          【短編】君も主人公にならないか

           「君は、この物語主人公になってみたいかい?」  YES or NO  突然僕の前に現れた選択画面。なんだかわからなかったが、怖いのでとりあえずNOを選んだ。  「全く、君は控えめだな。仕方がない、特別だ君を主人公にしようではないか」  「い、いえ結構です。というか、なんですかこれ。真っ暗で、このよくわからないホログラム的な画面しか見えないんですけど」  「よーし、まず初めに主人公になるために大事なのは、どういうタイプの物語を進んでいくのかだ。選択肢はたくさんあるぞ」  また

          【短編】君も主人公にならないか

          【短編】NATURE 〜だいじょうぶ〜

           流れる川に沿って、私は山を登る。  木の葉の絨毯の上を、滑らないように気をつけながら一歩一歩踏みしめる。  サラサラという川のせせらぎと、私の枯れ葉や小枝を踏むザクザク、パキパキという音がとても心地よい。  「あっ、こんにちは。こんなところに人がいるなんて」  音を楽しんでいた私に声をかけてきたのは、小さい、子? ああ、いや違う、大人の女性かな? 私より少し背の低い、腰辺りまで髪の伸びた女性が、知らぬ間に正面に立っていた。  「こ、こんにちは」  「ここでなにしてるんですか

          【短編】NATURE 〜だいじょうぶ〜

          【短編】ここにいる理由

           とある小さくも大きくもない村。  人口はだいたい6000人程で、そのうち半分は高齢者で、年々その土地を離れる若者は増えていくのだった。  「あと五年もすれば、この村もジジイかババアしかいなくなるな」  「かもね」  「優太、どーすんの? 地元戻ってくるの?」  「んー、まあ、そーかな」  「純一はどっか行くんでしょ?」  「うん」  夏が過ぎ、秋口の昼下がり、男達が3人集まって純一の部屋で話し込んでいる。  優太、純一、翔馬、彼らは小学校から共にする仲だ。  「この裏切り者

          【短編】ここにいる理由

          【短編】かけっこは最下位がいい

           「ねぇ、何点だった?」  「俺75点」  「私65だったー」  どうでもいい、そんな雑音があちこちから湧いている。  本当にどうでもいいの?  どうでもいいに決まってる。  うっそだー。僕は君の本質を知ってるよ。  本質がそのままイコールで私を形作ってるなんて思わないで。理性で覆いかぶせることができればそんなものは私のものとして成立しないわ。  意地張っちゃって。まあどうせすぐにでも理性を突き破って出てくるだろうから、楽しみだ。  「はーい、前向いて。えーとじゃあ今回のテス

          【短編】かけっこは最下位がいい

          【短編】運がいい

           僕は本当に運が良いらしい。  昨日たまたま開いた動画で、自分が生まれてくる確率が多大なる分母のうちの一であると言っていた。  ああ、なんて僕は運がいいのだろうか。  「日本時間今日未明、〇〇と△△が戦闘状態に入ったと―」  夕暮れ時のニュースから流れてくるのは、少し遠い国の戦争の話だった。  「最近物騒ね」  「うん」  そう母に返事をしながら、網戸越しのセミの鳴き声を背に、出された唐揚げを頬張る。  サクサクの衣と、中から旨みしかない油が口の中に押し寄せた。  舌鼓を打

          【短編】運がいい

          【暗号解読】少し難しい暗号に挑戦!!

          こんにちは。 今日は最近読んだマンガにさっそく影響を受けて暗号を作ってみたので読んでくださった皆さんには、ぜひ解いてみて欲しいと思います。 暗号ってなんじゃ と、そんな人に軽く説明。 有名なものはカエサル暗号です。 これは書かれている文字から一字ずらして解読する暗号です。 例えば、「apple」 をカエサル暗号で暗号化すると 「bqqmf」 となります。 では例題、 ヒント:五十音順 正解は… 「こんにちは」です。 できましたか? こんな感じで解読することを暗号と思

          【暗号解読】少し難しい暗号に挑戦!!

          【短編】あなたと私は同じ人

           私を私たらしめるもの。  十年前からずっと探していたそれが、最近ようやく見つかった。

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          【短編】あなたと私は同じ人