夜鳴き

 うぐいすは、今日もきれいに鳴く。
 波打つ様に滑らかな抑揚で、「ホーホケキョ」と鳴いている。
 梅雨も迫りくる六月初旬。
 私は湿気でくるまる毛に少し鬱々としながら、蒸し暑い夜を、部屋のベッドで過ごしていた。
 カーテンも閉め切って、辺りは黒一色。
 エアコンなんてハイテクなものはない。扇風機もまだ出すには早いと押し入れの奥にしまったまま、肌にまとわりつく熱気と汗を、暗闇で感じ取る。
 目を瞑っても寝られない。
 どうして暗闇の中、うぐいすの声が聞こえてくるのか、私はそれが気になって仕方なかった。
 朝昼、明るいうちにその声が聞こえてくれば、それに聞き入って、安らかな気持ちを得られるのに、夜の今聞いてしまえば、その違和感にどこか恐怖を覚える。
 そんな私の心を置き去りにして、うぐいすの声は私の中に響いてくる。
 ベッドの上、私は何度も寝返りをうつが、落ち着くどころか鼓動が速まるばかりでどうにもならない。
 とにかく怖い。押し寄せてくるその声が、とにかく怖い。
 体を滑る汗も気になるのに動けない。渇く喉を潤せない。やけにうるさく秒針は進む。
 そしてまた不気味にも、うぐいすは芯ある声を空高く届かせる。
 どうしてこんなにきれいな声をしているのに、夜に聞くだけで怖く感じてしまうのか。私はふと考えた。
 答えはすぐ見つかった。
 それは、今が夜だからだ。
 当たり前のことだけれど、こういう時は明確にすることが大切だ。分からないが怖いなんていうのはよく言われていることだから。
 では、私はどうして夜に聞こえるうぐいすの音色が怖いのか。その答えもすぐに出る。
 いつもと違うから。秩序の外にそれがあるから。
 いつだかテレビでやっていたことを、私は思い出したのだ。
 髪の毛は、頭についているうちは、何も感じないのに、床に落ちていたり排水口に詰まっていたりすると気持ち悪く思う。
 それはつまり元ある秩序が崩れたため―、本来のあるべき場所に収まっていないことに対して、私たちは嫌悪するため。
 だから、うぐいすが夜鳴けば、私が怖いと思うのは自然だ。
 原因がわかってしまえばなんてことはない、ここが地獄だろうが鬼ヶ島だろうが、私は安らかに眠ることができる。
 おやすみ。
 
 
 

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