【短編】落ちる星に願いを
満天の星。
ビーズを床いっぱいに撒き散らしたように、星々は空を埋め尽くす。そんな夜空を眺める少女は、両手を絡めるようにその控えめな胸の前で合わせていた。
彼女の着る白のワンピースが夜風に揺られ、彼女の長く細やかな毛先から甘い香りが漂う。庭先、生え揃った緑の芝生の上、リビングの大窓から漏れる明かりが裸足で降り立つ少女の影を作る。
「いつまでそうしてるの。風引くわよー。早く家の中入りなさい」
「今日は流れ星が見える日なの。流れ星は、願い事を叶えてくれるのよ」
母の言葉に少女は振り向きもせず、ただ空を見つめながら返す。
「全く、好きにしなさい」
母はバタンと窓を閉めると、カーテンまでも閉め切った。それによって空は一段と光り輝く。
「まだかな、早く来ないかな」
少女はウズウズと待ち切れない様子で星が流れゆくのを期待していた。そんな様子で少女がずっと空を見上げていると、庭の死角、玄関の方からゆっくりと足音が近づいてきた。
「何してるの?」
一人の男が少女に話しかける。
「あっ、お父さん。今ね、星が流れるのを待ってるの」
「そうなのか」
「お父さんも一緒に待つ?」
「うーん。ごめんな、お父さん明日も早いんだ」
「そっかー」
少女は悲しそうに肩を落とした。
「ごめんな。お父さんの分まで祈っておいて」
父は少女の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
それに対し少女は、にっこりと頷いた。
「ところで願い事は決まっているのか?」
「うんっ。決まってるよ」
「そっか。それじゃあおやすみ」
「おやすみ」
父は少女の頭をポンと軽く叩くと、家の中へと戻っていった。
父が家に戻って十数分、静寂の中で少女はただ空を見上げる。いつ星が降るのか、心拍数をいつもより一つ二つ上げながら、じっと彼女は待ち続けていた。
ずっとそこに立っていたせいか、少女にも疲れが見え始め、あくびをぐっと噛みしめる。彼女の歯の隙間から漏れ出る息とその音。目は潤んでぱちくりと二、三度少女は瞬きをした。
その時だった。
空を横一直線に何かが跨いだ。
少女ははっとして祈りを捧げる。
「世界が平和になりますよう―」
そこまで言った少女の語尾を轟音がかき消した。
空を真っ二つに横切った星は、彼女を置き去りに何処か遠くへと飛んでいった。
「やった! 流れ星にお願いできた!」
少女はピョンピョンとはねて、長い髪をうねらせる。そうして興奮収まらぬ様子で、家の中へと戻っていった。
一方、彼女の願いを乗っけた星はというと…。
隣の国へと舞い降りて、それはそれは大きく弾け飛び、人々の狂った様な叫び声と、生々しく鮮やかな赤い花弁を、その地に散らしたのだった。
「お願い、叶うといいな」
少女はベッドで布団を被り、希望胸いっぱいに笑顔で目を瞑った。
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