【短編】鉄の声

 私はこんなことをするために生まれてきたんじゃない。
 私は、誰かをひもじくさせるために生まれてきたんじゃない。誰かに美味しいものを届けるために生まれてきたの。
 私は誰かを囚えるために生まれてきたんじゃない。誰かを自由に羽ばたかせるために生まれてきたの。
 私は誰かを泣かせるために生まれてきたんじゃない。誰かを笑わせるために生まれてきたの。
 私は誰かを殺すためじゃない。誰かを救うために生まれてきたの。
 それでも今日もどこかで私によって誰かが苦しむ。私によって誰かが悲しむ。
 こんなことになるくらいなら、私なんて生まれてこなければよかった。
 私の声は届くのかな。
 瓦礫まみれ、立ち昇る砂埃と硝煙の香り。そこら中で銃声が鳴り響く。ミサイルが轟音を置き去りにして飛んでくる。
 今日も爆発音で目が覚めた。
 昇る日は残酷な世界を照らし出す。
 物陰に隠れて、銃弾を装填する俺に今日も誰かが語りかけてきた。
 一個だけそいつに教えてやる。
 そんなのは、誰もが知ってるんだよ。


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