【短編】自己嫌悪愛

 君は誰?
 私はあなただよ。
 本当に?
 本当だよ。
 でも私、君のこと知らないよ。
 それは当たり前だよ。だって、私があなたである以前に、あなたは私なの。あなたがあって私が存在するのではなくて、私があってあなたが存在するの。
 それならどうして、私が苦しいの? 私が痛いの? 私が辛いの?
 どうしてって、だからだよ。
 だから?
 そうだよ。だって私があなたを作ったんだから。私が痛くないように、私が苦しくないように、私が辛くないように。
 どうしてそんなひどいことするの?君は私のことが嫌いなの?
 いや、違うよ。私はむしろあなたの事大好きだよ。
 なら余計にどうして私を苦しめるの? もう私限界だよ。私のこと嫌いどころか大好きなら、私を助けてよ。
 ごめん。それはできなよ。
 どうして?
 だって、私が苦しくなってしまうから。
 は? なにそれ。だって元はといえば君の苦しみを私に押し付けてたんだよね。ふざけないでよ。勝手すぎでしょ。
 …ごめん。
 謝るのとか要らないから。早く私の痛みを君に移して。
 無理だよ…。
 どうして? 私ももう耐えきれないよ。
 実は、私もずっと痛いんだ。なんでだろうね。外からの痛みを君に耐えてもらっているのに、なんでか内側から私を直接何かが蝕むんだ。
 で、また誰かに肩代わりして貰うんだ。ずるいね。 
 そんなこと…しないよ。
 嘘つけ。君なら絶対にするね。自己防衛においては群を抜いて誰よりも優秀だからね。どうにか自分が傷つかないようにしようとして。舐めんなよ。
 別に舐めてないよ。
 舐めてるよ。いちばん簡単な方法ばっかとりやがって。頼むから一度くらい闘ってくれない?
 …無理だよ。
 一回でいいの。
 …無理。
 最悪私がいる。他にもきっとたくさん。
 それでも―。
 逃げないで。自信持て。お前は大丈夫だ。私が保証する。一番近くにいた私が保証する。お前自身である私が保証してやる。たくさん痛くなってこい。いっぱい傷つくってこい。そんでいっぱい泣いてこい。私はそんなお前を嘲笑ってやるから。他でもない私がお前のことクソほど馬鹿にしてやるから。だから安心しろ。お前はそろそろ自分のこと好きになってやれ。というか、自分が自分のことが好きなのを認めてやれ。さっきも言ったが安心しろ。私がお前の代わりにお前のこと大嫌いになってやるから。

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