【短編】輝く月は(中編)

 「え?」
 男の子は、老人が発した言葉がどういう意味なのか理解できていない様子だった。何度も頭で反芻しようとしても、男の子の中で老人の言葉は砕かれることなく、がんじがらめのままだった。
 「お、お爺さんが大人たちに言ったの…? 月が怖いって」
 「そうだなぁ、今いる大人達より、もっと上の大人達と言ったほうが正しいかな」
 その老人の返答はより男の子を混乱させた。
 「もっと上? ん?」
 首を何度もかしげながら男の子は考えたが、答えの出る様子はなく、どんどんと迷宮に入っていくようだった。
 「まあまあ、これだけで理解できる奴はおらんだろうよ」
 老人は少し笑いながらわざとらしく咳払いをした。
 「これは、とある年寄りの昔話だよ。まあ、なんとはなしに気軽に聞くといい。なぜ麓の村で満月の夜に山に登ってはいけないという掟ができたのか、その理由がわかるかもしれない、そんな昔話さ」
 そして老人は目を細めて、窓外から差し込む月光を流し目に、何かを思い出すように語り始めた。
 

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